よくある感動物のシナリオを感覚的に理解させるのではなく,冷静に読ませ,考えさせることを目指したような印象.設定から構成までよく考えられているため,完成度が高く,シナリオを掘り下げても底が見えない.
この作品は4章から成るが,各章とも序盤においては変化が少なく,終盤で急展開させる形式を取っている.この手法を使うこと自体は特に珍しくも無く,特別評価できるものではない.だが,情報の出し方が巧妙であったと思う.具体的には,シナリオ進行に連れてミスリードの情報と素直に取っていい情報が双方入り乱れ十分に与えられるため,情報からの判断が容易ではなく,最終的な展開を予測しにくくなっていた.これらは特に1章において感じたことだが,唐突に変化を起こし終盤に意外性を与えるのではなく,予測をさせた上でさらに意外性を与えていることは評価できると思う.
また,章構成も,1章でインパクトを与え,3章でこの作品の鍵となる恋愛のイメージを構築し,4章でシナリオを纏めるというように自然な流れであった.(2章に関しては,大枠で捉えると外れているため,ここでは省いた.しかし,4章での純粋にハッピーエンドとは言えない結論を考慮すると,「全てを受け入れ許した」という2章のエンディングが気持ちよく,私はこの章が最も気に入っている)
また,考え方が個性的なキャラクタが多いように思えた.(常軌を逸したものではなく,個性の範囲に収まっている.)また,その個性の描写も十分なされていた.ただ,4章だけはビジュアルノベル形式ではないため,全文章量における描写に用いる割合が減り,一部の心理描写が多少不足していると感じる所もあった.(もしかしたら心理描写の不足ではなく,行動に出るための動機が弱いのかもしれない.ただ,どちらにしろ描写不足であることに変わりは無い)思考が個性的で,それを表現できているため,ただ思考や心理を追っているだけでも面白かった.
設定に関してもテーマに合致していたと思う.例えば,「死神は優しい人しかなれない」と「死神を終えるには,人を愛することが必要」などは,「人を愛している≠優しい人」となり巧く合っていると思う.
以上のように,設定,構造,キャラクタいずれの面でも楽しめたが,4章で主張の異なる2種類のエンディングを用意していることや,2章でテーマからは外れていること等,テーマを押し付けず自由に考えさせるような構成が成されていたことに何より好感が持てた.何れにせよ,設定,構造,キャラクタがいずれにも長所があり,完成度が高い作品だと思うため,切り込む余地は非常に大きいと思う.