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yosh10さんの猫撫ディストーションの長文感想

ユーザー
yosh10
ゲーム
猫撫ディストーション
ブランド
WHITESOFT
得点
97
参照数
3579

一言コメント

考えるのが好きで、メッセージ性が強い物語を楽しめる人向けのゲーム。将来的にはもっと評価されても良いゲームだと思う。今は面白くなくても数年後にこういうところが面白いと言えるようになって欲しいと思う。以下オナニー論文含む感想

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


 個人的な意見を言わせてもらえば、これ以上のシナリオ特化のゲームを期待するのは難しいと思った。近年のテンプレートに沿った萌えを『極端に』重視したゲームが多い中、このようなゲームを出すのはメーカーとしてとても勇気のいる事だと思う。まず他のメーカーやライターでは書けないモノが多数散りばめられている。狭い市場と不況や著作権問題を考えると、とても冒険をしたゲームだと思う。

 一昔前までは許されていたシナリオ重視の物語を書いてくれた藤木氏と元長氏とスタッフの方々に感謝。

 前置きは置いといて、萌え重視のキャラ設定にパラレルワールドのような世界観。

 テーマもメッセージもそれぞれの人物によって違う。
 世界観と設定は家族達の一人一人の人間の想い。

 結衣→式子→柚→キズモ→琴子とプレイしたが、どのルートも意味がありメッセージを持っている。

>結衣姉さん
 主人公との永遠を求め、最後まで永遠であることを望む。異常なまでの永遠への執着。そのため永遠を渇望。彼女の弱さと強さに胸を鬱場面が多かったです。ギズモに対する気持ちの葛藤は彼女の思想がよく現れている。

>式子母さん
 彼女は母であり強烈なトラウマを持ち、若い頃のまま『この世界』にいようとする。彼女の家族に対する想いは優しさに満ちていて安心できた。
自分が果たせなかった家族の構築。そんな彼女が生まれ変わった世界での主人公や他の家族に対する優しさは終始心地よかった。柚ルートでの柚との会話では、柚に対する感謝を露わにしている。自分は良い母ではなかった。それなのに私たち家族を見続けてくれたことを。
 結衣とは違い彼女は主人公を一番におきながら終始、家族の幸せを心から願っている。なぜ彼女があの幼い姿を取ったこともはっきりするが、若い姿とその時のトラウマがそうさえたのだと解釈している。
 最後のシーンは『家族とは一体何なのか』という一番困難な命題を考えさせられる。

>柚
 幼馴染で世話焼きでいつも主人公とその家族を見守る子。柚は主人公と一緒にその家族も好きだった。琴子が死んでから主人公達が変っていく家庭を見守る中でもそれは変わらなかった。だからこそ柚は、荒んでいく樹を見ていられなかった。最後まで健気で一番家族や世界から異質でありながらも、新しい世界を樹と歩む姿は良かった。

>キズモ
 なぜメインヒロインの位置づけなのかは、彼女が観測者の樹を観測する観測者だから。琴子の代わりに求めたキズモ。彼女はやがて世界で言葉を覚え最後は、主人公に自分の想いを伝える。ただそれは猫の人間に対する愛情を超えたモノだったが、彼女はいずれ自分がいなくなることに気づく。最後、彼女は転生されて主人公と
結ばれるようになりますが、それが本当にキズモの転生なのかは最後まで語られない。それがよりこのシナリオを特別なモノにしている。

>琴子
 物語の始まりであり、終わりである存在。彼女の物語は世界の謎と過去や未来に起こる謎が明らかになっていくのが中心。琴子はそのキーパーソン。彼女の『死んじゃってごめんなさい』は樹と家族をいかに好きだったのかが伝わってきた。またこの物語で主人公と家族が再び幸せになれる道を模索していくことが最後の場面で描写されている。最終ルートにふさわしかったと思う。


 以下、音楽、絵などは文句のつけようがない。絵が少し気になる程度。シナリオを楽しむ人にとっては問題ないレベルだがかなり人を選ぶと思われる。

>考察について

 これも満載。特に量子力学的な示唆を元にした作りはそれだけで楽しい。
 なぜそうなったか? あのときなぜそんな行動をとったか? あの言葉の意味は?
 原子核研究所の役割は何だったのか? なぜあのような観測者を作ろうとしたのか?
 少しでも興味を持てたらあとはわかると思うので攻略後には楽しめる人は楽しめると思う。


追記:点数変更92→97


(以下なんちゃって論文なので読まなくていいです)


このゲームは自然科学の哲学に近い。

科学とは仮説の集まりですべてを完璧に実証すること不可能だ。
ある意味、曖昧で揺らいでいると言える。

だが自然科学と哲学がなければ、ここまで人間は存在していないし考えることやメッセージを放棄したら、文明は退廃していくだろう。
仮説にしろ定理や公理がなければ、多くの人類の創造物が消えることになる。

人間を自然の中で特別にしているのは、圧倒的な知性だ。

その知性も取り決めやルールがなければ運用できない。

例えば数学や物理を簡略化してわかりやすく教えるものに、算数や理科があるが、これらは積み重ねの学問だ。
つまり1+1がわからなければ、その後の数学的な思考はできないし学べないしわからないままだ。

このゲームも多くの物理の考え方や知識を有してないとわからない部分が出てくる。
それが面白くないと感じるところだろう。

有名なゲームにYU-NOがある。たが今のユーザーがするとつまらないとレビューする人が多いのは、需要側がこ難しい理論や言葉遊びより、より単純な答えや萌えを求めているからだろう。

つまり理論や仮説なんかより結論が欲しいのだ。

あれはどうだったのか? こういうことなのかな? と楽しんだり調べたりするより、
単純な感情による答えが欲しい。答えがわかっていたら楽しめるんわけだし。

世の中には、答えがすべて用意されている学校教育で終わってしまう人がほとんどだ。
答えが用意されていないと、問題の投げっぱなしと批判されるだろう。

このシナリオもよく投げっぱなしでユーザーの事を考えていないと言われる。
わからないから面白くない。当然だと思う。そしてそれを批判するつもりもない。

だが世の中はわからないことだらけであることも事実だ。
すべては仮説で理論も人間の観測以上のことができない。

だがその仮説と理論で世の中は成り立っているし進歩してきた。

おそらく、このゲームは時代背景が違えばかなり賞賛されていたのではないだろうか。

PC98、Windowsの境目やWindows初期の頃に出していれば、多くの需要を獲得できただろう。だが今の時代では無理だろう。

ユーザーは自然哲学なんか求めてないから。

だがプログラマーや理系の多数の人のみ使えた前述の時代なら違ったかも知れない。

誰もがわかるゲームでないといけない。一部の人がわかるゲームでは駄目なのだ。

このゲームもかなり丁寧に描写されているのだが、理系方面の知識がないとよくわからないまま終わる。
義務教育レベルのものがわかっても、それだけでは理解出来ない。

科学やSFもので、有名なゲームにシュタインズゲートがあるが、この猫撫ディストーションとの違いはなんなのだろうか?

理由は簡単だ。単にシナリオがわかりやすいか、わかりにくいかだ。
そして単純に覚える知識の質と量の違いだ。

シュタゲは考察も知識もこのゲームに比べ遥に少なくても理解できる。

ただシナリオ的に理解されないのはもったいないと思う。

このゲームは理系方面の知識の詰め込み方が大きすぎる。
もっと「ゆとり」を持ったほうがいい。

だがゆとりを持たせてすべてに注釈を入れるとか、一つ一つに琴子や結衣や電卓が説明しても不自然になってしまうだろう。
このシナリオはこれで完成しているものだし、きちんとした注釈やはっきりとした説明を入れていけば、それこそ膨大なテキスト量になる。

シュタゲのようにわかりやすい用語だと良いのだが、科学用語なので一口では説明できない。思考実験やパラドックスの塊なので理解出来ない人がほとんどと思う。

それでも琴子や結衣はかなりわかりやすい説明をしてくれていると思うが、その説明の中にもわからない用語が出てくると、もう何がなんだかわからなくなってしまうだろう。
多くの教育者でも苦労していることをゲームでやってしまっても、それなら本読め、検索しろ、となってしまう。

 製作者は「つまらないわからない」と言われたいと言っている。

つまり上で書いたようなわかりにくいシナリオと百も承知の上でこのゲームを作ったのだろう。

考察すれば山ほど考えることが出てくるし、辻褄もあっている。シナリオが破綻せずにきちんとまとまっている。だが理解出来ないから面白くない。雰囲気は良くても。

まさしく教育と同じ問題に当たっている。

上で言ったように「ゆとり」と書いたのは学力の問題ではない。
ゆとりと連呼する詰め込み世代側は本当にゆとり世代を馬鹿にできるのだろうか。
少なくとも自分にはできない。

実際ゆとり教育世代にも頭の良い奴はやまほどいる。
単純に質だけなら詰め込み世代以上の能力があるだろう。

何が言いたいかというと、こういうゲームを考察するユーザーが減ってしまったことが残念だということだ。ぶっちゃけ懐古厨は好きではないのだが、ちょっとだけ気持ちはわかる。

ここまでシナリオが短いし萌えもギャグもきちんとしてるし世界観もしっかりしてるのに盛り上がる供給側がいない。90~00年代ならもう少しいたと思う。
まあ、そのころだと自分も理解出来ないクソゲーだと批判してたかも知れないが。

わからないことがあるだけで敬遠される。
それをわかりやすくするのがライターの見せ所なのかもしれないが、ライターは教育者でも辞書でもWikipediaでもないわけで。

実際、用語にリンクを貼ると物語が打ち消されるだろう。
各ヒロインのテーマである有機無機の永遠、感覚、可能性、夢などが伝わりにくくなる。
冗長すぎてもダレるだけだし、そもそも小説の基本の無駄を削ったテキストなのでスピーディさを狙っているわけだし。

プレイした当初は用語がわからなくてもゲームとして楽しめると思っていたが、どうもそうではないようだ。


恐らくわからないであろう箇所の説明は

考察サイト
http://www46.atwiki.jp/nekonade/

でやっているようだが、そもそもユーザーは気持ちの良い文章を読みたいわけだから、読む人は少ないだろう。わかりにくいテキストなど読みたくないから。

そう。まさしく人を選ぶゲーム。好みが極端に分かれるゲーム。
自分も人にも普通のユーザーには薦めたくない。

それでもこのゲームを色々な意味でもっと評価したいと思う。
こんなゲームがあってもいいと思う。

今後、このような萌えとアカデミックがコラボってるゲームが増えて欲しい。

その意味でもわかった気になる。
賢くなった気になるというのは大事だと思う。

大事なのは未知に対する興味だと思う。
別にわからなくたっていい。