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yknk_moiさんのざくろの事の長文感想

ユーザー
yknk_moi
ゲーム
ざくろの事
ブランド
サキュレント
得点
85
参照数
330

一言コメント

作品のテーマは『何者かをモデルにして創作することの罪』。阿児弥がその体現。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ひとりよがりで頑固な、絵を描き続ける男。
彼には善良な友人の言葉も、慕ってくれる下級生の賞賛も響かない。
彼が信じて、愛しているのは自分だけです。実妹でモデルにしてるざくろの事すら愛してない。
阿児弥にとってざくろは創作意欲を刺激する養分のようなもので、
これからの人生の面倒を見るとか女性として見て真摯に向き合うとか、そんなことはちっとも考えてない。
そもそも、最初に母のもとに人身供養された時点でも放置プレイしていて、
『生まれた頃からの仲良し、二人だけの世界で生きるイチャラブ兄妹』のようなエロゲでよくある兄妹の愛情のようなものが存在しないことは明白。

でも、自分だけを信じ、愛し、だからこそ美しい絵を描くことのできる阿児弥を、
唯一この世で心から必要としているのがざくろだった。
ラストシーンは本当にいいです。わかりあえなくても、同じ世界で生きられなくても救い合える。

程度で終わらせようと思っていたんですが、
特装版冊子に載っていたショートストーリーを読んで崩れ落ちてしまった。
なんだよこれ・・・
という気持ちと、
ああなってしまったからこそ阿児弥の『ざくろの神』としての心が揺るがなくなったのだろうという・・・
エピローグで語られたように、阿児弥はあれからもずっとざくろを描き続けたんだろう。
ざくろのために。自分のために。
もうこの世には存在しない美しい少女を、焼けただれた体で生きる妹を見つめながら描き続けた
こんなのどうしたらいいんだよ
阿児弥が愛してるのは自分と自分の描く絵だけ。
でもざくろを救うことができるのはこの世に阿児弥しかいない、阿児弥もそれをわかっている・・・
もうどうしたら・・・


作中でゾッとしたのは名もないロリコンの犯罪行為。
社交性に見せかけたなにかを持ったタチの悪すぎるロリコン(成人女性も抱ける)。
『ハァハァ、ようじょとヤリてぇ』という気持ちを、
父性のようなもので巧妙に隠して少女を性的搾取する。
結構久しぶりにエロゲ(これは乙女ゲーですが)やってて吐き気を催しました。
ざくろとの関係が母親にバレてずっと黙ってうつむいてるところは怒りを超えて笑ってしまう。
胸糞です。

そんな胸糞被害に遭ったざくろを、繊細自己愛男阿児弥が受け入れられなかったのは当然と言える。
プレイヤーにも無理って人いるんじゃないだろうか。
『ヒロインが他の男に触れられる』と考えれば寝取られみたいなものだし。
自分もわりとこれは無理寄りの無理というか、サキュレントのゲームには倫理観が崩壊した男が結構出ますが、
この名もないロリコンの行為はだいぶキツかった。気持ち悪かったです。
自分以外に頼るもののない少女に『いいことだよ』『楽しいことだよ』とうそぶきながら性行為を教えていく、最悪ですね。

でもそんな傷物にされたざくろをそれでも描き続けると言い張る阿児弥が愛おしい。
感情をぐちゃぐちゃにされる作品でした。