こんなに主人公とシンクロしたゲームは久しぶり。大鬱
ヤケクソ感漂う投げやりなタイトル、オモイデ凌辱ADVという思わせぶりなジャンル。
このサークルの作品を気に入っていたこともあって、まぁごく普通の凌辱ヌキゲーではないだろう、とは想っていたのですが…。
ヒロインがどんな目に遭っても、それは彼女の口から語られる過去でしかなく、
主人公は傍観することしかできない。
合間合間で傷をなめ合うように抱きしめたり、たどたどしく慰めようとすればするほど、
救いようのない過去がどんどん浮き彫りになっていく。
普段は、登場人物の過去エピソードでもりあげられてしまうと、
それはやっぱりただの過去でしかなく、今現在を生きている(=プレイしている)者として疎外感を覚えるのですが、
今作ではそれよりも…言い方は悪いが、
「この子はどんな目に遭うのかなぁ」というワクワクと、
これだけ救いようのない事態を、どうやって収拾付けるのだろうか、という高揚の方が大きかった。
だから、西川のエピソードでの主人公のモノローグにはえらくドキッとさせられた。
そこでようやく、自分が(そして同時に、主人公が)彼女がどれだけ酷い目に遭うのか、
どんな結末を迎えるのかということばかり気になっていて、
「彼女を救いたい!」という気持ちには、まったくなっていないことに気付かされて…心が痛かった。
視点が紗倉と主人公の間で何度も行き来し、唐突に切り替わる(マルチザッピングと呼べないくらい雑にいきなり切り替わる)んだけども、
主人公が傍観者を通り過ぎて空気なのでさして違和感はなかった。
…そしてその違和感のなさすらも、このゲームの計算だったことがオチで判明して、
なんというんだろう…とにかく「心を凌辱する」話だった。
作中のヒロイン紗倉と主人公、そしてプレイしている者の心を。
特にうわぁ…と思ったのが選択肢で、
このサークルの作品は結構選択肢が意地悪い…というか、
読み物系にしては珍しく(「夏のさざんか」の長文感想で書きましたが)即分岐じゃなくて、
好感度設定がされている場合が多くて、
さざんかの時と、さらに前の淫夢みるさなぎの時の八雲ルートでも何度もバッドエンドに行って途方に暮れた。
……今回は、それを踏まえているかのごとき(というのはうがち過ぎだと思いますが)わかりやすい即分岐選択肢が二つ。
ああ、こっちを選べば間違いなくバッドエンドだろうな。というのを、
選択肢としてプレイヤーに選ばされることで、自分の中に芽生えている諦念やヒロインを否定する気持ちを、強く意識させられる。
イヤ、本当に意地悪いです。
どの選択肢を選んでも、どのエンディングに行っても、結局見せ方が違うだけで、なにも変えられないという事実が、またエグイです。
ちなみに自分は「誠実な人」→「浮かんでは消ゆ」→「思い出」の順で見た。
バッドエンドは最後に残さない方がいいかも。胸糞悪すぎて寝られなくなる…。
声優は桃也みなみさん。作中の声あり女性は二人ともこの人。
この声優さんが同じっていうのもたぶん引っ掛けなんだよなぁ…。
すごく上手です。ヒロイン然としてた頃の可憐な声も、悲劇に襲われるときの悲鳴も、錯乱状態で泣き叫ぶ声も。
絵は塗りが独特で、この作品の雰囲気によく合っていた。
あと、ヒロインが髪の毛をバッサリ切ったり、成長が露骨になる(この作品の場合小学生→中学生→10代→20代と変化していく)のはエロゲだと珍しいか。
…イベントCGで一番「きれいだな」と思ったのが、バッドエンドで主人公に凌辱されて微笑むシーンだった。
卑屈な笑みの表現がとってもいいと思う。
廃屋の扉を開けた時に広がる青空だけが、カラー背景なんですよね。
こんなに心をえぐられたのは、久しぶりだった。