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yknk_moiさんのトリック・オア・アリスの長文感想

ユーザー
yknk_moi
ゲーム
トリック・オア・アリス
ブランド
little cheese
得点
40
参照数
2175

一言コメント

シナリオではなくゲーム構成に大きな欠陥がある故に大変な徒労感を抱く「キャラ萌えゲー」

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

あぁあぁ!やっと終わった!終わったぞ!というのがこのゲームをフルコンプ(全キャラの「ラブレター」が解禁されておまけCGが追加される)したときの正直な感想で、
爽快さではなくやっとこの選択肢とテキストのループ地獄からの解放を喜ぶばかりであった。

というのは本当に自分の「感想」でしかないな。
乙女ゲームの感想を投稿するのは二回目で、一回目の「RiddleGarden」もこの「トリックオアアリス」とシナリオの人が同じだった。
エロゲーに比べて分母が少ないというのもありそうですが、
購入前にあちこち感想を見て回ったところシナリオの「ひよ」氏は固定のファンがある程度いて、
乙女ゲーム業界では有名な人らしいです。
…そんな自称ファンの人のブログでもやたら歯にモノがつまったような感想ばかりで、
地雷の予感がしなくもなかったのですが、地雷にしてもいったいどんなものなのだろう?
と、気がかりを抑えられずに購入しました。

まず目を引くのがCGで、とてもアダルトゲームとは思えないようなメルヘンチックな絵柄です。
服のデザインが面白い反面裸になると間が持たない絵だな…というのが正直なところなんですが、
自分が一番このゲームを手に取りたいと思った理由は絵で、
こういう、テンプレートをちっとも押さえていない絵柄を商業のゲームで出せるのは、
乙女ゲーはエロゲーとはまた違う発展のしかたをしているのかな?と。

が、絵に対する好印象も違和感も、シナリオの前には吹っ飛んでしまいましたよ。
キャラクターの印象と交えながら長々と書き連ねます。
下に行けばいくほどストーリーの大筋に関わってきます。

・チェシャ
「僕は臆病でずるい男なんだ」という台詞とたがわず、そして見た目通りの軟派なチャラ男で、
侯爵夫人に飼われており、アリスをたぶらかすことが目的です。
そんな男がアリスに惚れこんでしまい…という、王道なロマンス展開です。
それとは逆にエロシーンではアリスにぬいぐるみを抱っこさせながらバックから突いたり、
自分の選んだパンツをわざわざ履かせてHしたり、なんかオッサン臭かったですね。
最初に攻略したキャラクターで、色々と謎は残っていたのですが…ある意味、
それは幸せだったかもしれません。というか、チェシャ攻略中が一番楽しかったかもしれません。

・ライト
ツンデレってお得な免罪符だな、と思うことしきりなキャラでした。
明らかに場違いなところで突然キスしたり、下半身をペッティングしたりしても、
「素直になれないのに衝動が抑えられなかった」とか言っておけばアリスちゃんは騙されてくれます。
単にこらえ性が無くて手が早いだけです。
告白するより先にセックスがしたかった、と…。
キャラクター的にはあまりこじれたところのない、わかりやすいツンデレキャラ。

・シャドウ
個人的に一番目が離せなかったルートです。
ですが、それは物語の謎(後述)より、キャラクターの気持ちに関心が向いたからで、
簡単に言えばヤンデレ気味、情緒不安定なシャドウの行動を見ているのが楽しかったからです。
比較的序盤からアリスのことが大好き&世界の大変なことをなんとかするゾ~、
という他キャラクターよりもずっとバイオレンスで面白かった。
…これは裏を返せばルート制限(これも後述)まで設けてフタをしていた「世界の謎」に魅力がないともいえるんですが。
味見もしてない手作りケーキをアリスに持ってきて食べさせ、
「生焼けかな…」と指摘されるなりヘラヘラ笑いながら噴水に投げ捨てたり、
「アリス」と名付けたお花が咲くのを楽しみにしておきながら、咲いたら咲いたでもう用済みだからと窓から投げ捨てたり。
いやもう、ボクはこのニヤニヤの仮面がいつ剥がれるのかと楽しみで仕方ありませんでした。
…が、随所随所に運びが不自然なところがあり、
キャラクターの行動があまりに突拍子もなかったりします。
解り易いのだと、このシャドウルートで恋人ふうなムードになった時に、
「ライトとも仲良くするね」と言いだすアリスなんかですね。
言うまでもなくこれはシャドウの双子の弟のライトに対する嫉妬心や劣等感をチラつかせるためですが、
あまりに唐突で、なにもそこで言わんでも。と醒めた気持ちになることしばしば。
そんなふうに、キャラクターの魅力ありきで話が進むくせに、
キャラの煮詰めがいまいちで行動に説得力が伴わないシーンが多く、
物語のために(=製作者に無理矢理)やらされているような不自然さがぬぐえませんでした。
ヒロインにして主人公のアリスも、もともとお馬鹿な子、というより、
そのシーンで賢いと事態がすぐ解決してしまって不都合だから、と、
急に鈍感になったり、いきなり恋愛の事しか考えられないようになったなぁ…という唐突なシーンが多いです。

・ラウンド
もっとも真相やシリアスな話とは程遠いルート(キャラ)で、
それゆえに一番楽しかった&アリスとお似合いカップルだという印象を抱いた皮肉なキャラでした。
このあたりで自分はもう、大体物語の真相なんてどうでもいい…というか、
大したものではないな、と悟っており、ああこれはキャラ萌えゲーなんだ、と評価を固定しました。
あと、色々なところでこのキャラの声優さんが非常に持ち上げられており「?」だったんですが、
途中から理由がわかりました。黄瀬君だ。タイムリーな感じですな。
…18禁初出演らしいのですが、時期を見てオファーしたのなら、
ユーザーのニーズをサーチする能力はすごいですね。

・黒うさぎ
…さて、ここで自分が抱いた不満をたっぷり暴露します。
黒うさぎという人物は、世界の均衡さえ保たれて(アリスが漠然と「幸せ」でいれば)いればいい、という傍観者なのかと思いきや、嫉妬心が強く、チェシャルートのバッドエンドでは暗い凶暴性をあらわにする。
この修羅場、三角関係は、恋愛ものの美味しい所でもあるのでどうこう言うつもりはないのですが、
いかんせん、「黒うさぎは本当はどういう気持ちでいるのか」というのを知るための、
黒うさぎルートは、彼以外の全キャラクターのハッピーエンド二種類を見ないと解放されず、
これは選択肢と分岐が大変多い(各キャラ、エンドが5つずつある)この作品においては大変欠陥のある構造です。
…チェシャ以外のルート、双子やラウンドとのルートでは、黒うさぎは歯噛みしながらも
アリスの恋愛を応援してくれます。
つまりなんだよ、お前はアリスの幸せではなく、単にチェシャが嫌いで、自分の嫌いな男とアリスがくっつくのが気に入らないだけなんじゃねえか…という穿った見方になってしまうわけです。
他のキャラに対しても烈しく嫉妬するのであれば、
「冷静ぶっているが実は嫉妬の子」というブレのない人、舞台装置として受け取れますが、
いかんせん黒うさぎの言う「アリスの幸せ」「世界の安定」とはどの程度のことなのか、
さっぱりわからない。ルートによってあやふや。
黒うさぎはただ情緒不安定で独占欲が強く、自分に都合の悪くなった時にだけ「保護者面」するずるい奴、という印象を植え付けられてしまう。
それじゃあすぐにでもその疑いを晴らし腹の内を知るべく黒うさぎを攻略すれば…とお思いかもですが、
そこで邪魔になってくるのは前述のルート制限です。

これは、黒うさぎのシナリオで世界観の説明と補完がなされるための措置なのでしょうが、
せめてトゥルールートと黒うさぎルートをわけてほしかった。
この構成は黒うさぎの印象を悪くし続ける作用しかないです。
黒うさぎ自体は、人間味にあふれ、アリスへの強い想いであくせく動く健気な男なのですが、
それがわかるまでの他ルートでの印象の悪さ、性格の謎さと、
セットになって語られる世界観の魅力のなさ(底の浅さ)のせいで、
シナリオ自体が煩わしくなっていると言うのは、本気で考え物です。
その世界観の説明と、どういった幕引きをするのかというのもお粗末の一言でした。
こうすればいいんだ→ダメだった…→あっ、これを忘れてた→ダメでした→じゃあ今度はこれをこうして…
なんて茶番を、いよいよ大詰めだ!というところでやられてしまっては、
アリスちゃんでなくても「もう、イヤッ!」ってなるってもんです。
その結果黒うさぎとセックスさえできればどうでもいいや、と女王の首をちょん切ってしまってもまあ仕方ない。

トゥルー扱いということで大団円的なエンディングもあります。
それを見て言いたいことは…うん、不思議の国とかいらんかったんや。
他キャラのルートでは完全なるオマケでえしかなかった学園ルートで大団円。
なんというか、全体的な詰めの甘さと納得のいかなさ。

オマケのオマケ的に双子の3P(バッドエンド扱い)が二つと、
クロノルート(Hはオマケ程度に1回)、タイムルート(Hなし)がある。
どうせならタイムとの百合Hも欲しかったです。せっかくチャターニなんだし。
チャターニとピカルのベテラン百合。夢のようだ。

……キャラクターとの恋愛に浸ろうとすれば選択肢の多さやループ構成のヘタクソさに妨害され、
それじゃあシナリオで勝負できるようなものか?と言えば全然そんなことはない。

乙女ゲームという物珍しさとフィルターがあったからなんとかコンプしましたが、
そうでなければ絶対途中で投げていました。乱暴に言ってしまえばそれだけつまらないシナリオでした。
着眼点や、きわめて特異な絵柄を含めた「雰囲気」の構築は大変いいと思うのですが、
それだけです。内容が全然ついてきてない。

これは結局ラウンドとアリスのカップルがかわいいだけのゲームやったんや。
二人がイチャラブチュッチュしてるのをシーン回想で眺めて、ヨカッタネウンウンと言うためだけに存在したんや……。