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yatubaboxさんのアンレス・テルミナリアの長文感想

ユーザー
yatubabox
ゲーム
アンレス・テルミナリア
ブランド
Whirlpool
得点
93
参照数
985

一言コメント

懐かしい、こういうのが好きだったのを思い出した。ある意味エロゲらしいエロゲ

長文感想

ライターが目当てで買ったけど、声優とキャラの親和性がすごかった。
また、絵やBGM、演出も結構練られてて、話の大きさに比して安っぽさは感じなかった。

以下、主にシナリオの話。

序盤、中盤、個別、Trueすべてが良かった。

【序盤】
話転がすのが難しそうな主人公の設定に対して、それを逆に利用するかのように、メインヒロインが絡んでいく切実な理由がきちんと用意されている。その結果、初っ端からメインヒロインの好感度120%で物語は始まる。

このライターが書くヒロインは個別ルート入ってから魅力が増す傾向にあるが、今作に限ってはメインヒロインが最初からブーストが掛かっていてぶっちぎっている。正直この序盤にこのメインヒロインで、のちのち他のヒロインの個別にすんなり入れるのか不安だった。そのくらい、押しが強くボケも担当するしヨゴレもこなす、シリアスからいちゃいちゃまで何でも来いなメインヒロインのキャラクターがとにかく万能すぎた。かといって他のヒロインが霞むわけではなく、それぞれちゃんとキャラが立って、物語の大筋から一人も排除されないまま絡んでくる。

【中盤】
それぞれのヒロインの抱えているものや、思わせぶりなことを匂わせるキャラクターが裏で暗躍し始める。
少年漫画にありがちといえばありがちな設定、意味深長な独り言がごりごりに乗っけられて、これ本当に回収できるのかと不安になりつつも、自分がこういうのめちゃくちゃ好きだったことを思い出した。

本筋の一方で、日常パートの辛辣なツッコミはライターのお家芸でとにかく上手い。個々のヒロインごとにシナリオを分散させず、メインヒロイン+学園イベントにまとを絞ったことでちゃんと綺麗に個別へのきっかけが用意される。主人公の設定も、最初だいぶ厳しいのではと思っていたが、ちゃんとギャグにつながるし、何より面白い。ギャグに吹っ切れず、かすかに暗さが残っているので、いまこの瞬間のこの日常を生きる切実さがある。

【個別ルート】
ここまでメインヒロインが強いとサブヒロインはおまけ程度かもしれないと身構えたが、全員重量感のある設定をぶんぶん振り回していて面白かった。大事なシーンのセリフがめちゃくちゃストレートで、きちんとシナリオ分の重みが伝わるいい言葉遣いだった。やっぱりある程度シリアスを挟まないと告白シーンって軽くなってしまう。あと、主人公の設定がここでも上手く機能してて面白かった。

【True】
私これめっちゃ好き。これだけ設定盛ったうえでアップダウン激しくまとめられたのもすごいと思うけど、個別ルートの話やサブヒロインが全員ちゃんと絡んでエンディングに転がり込んでいくのは超絶に良かった。何より自分はこういうのが好きだったのだと思い出した(二回目)。

【総評】
このライターが書くキャラクターは何かしら欠点を抱えていて、それぞれの欠点を互いに補い合う形でひとつの場所に集まる。だから大筋のシナリオとキャラクターが乖離せず一体感のあるままシリアスパートもギャグパートも形作られていく。このシナリオで、他でもないこのキャラクターがそこにいる意味。それがちゃんとそれぞれのキャラクターに用意されている。

シナリオゲーかと言われると、そうではない。意外などんでん返しがあるわけではなく、叙述トリックがあるわけではなく、設定もさほど目新しいわけではない。けれど、とにかく組合せのバランス感覚が上手い。

そして何より、自分が一番好きな点として、このライターが書くシナリオには基本的に悪役がおらず、完全に正しい正義の味方もいない。シリアス要素の原因として描かれるのは徹底して人間の弱さで、それは主人公とすら共通している。一歩踏み間違えれば主人公があぁなっていたかもしれないと思わせる書き方をする。そしてその悲劇の端緒を防ぐ主人公も、絶対的に正しい神ではなく、悩んで迷って、それでも最後にひとつの決断をするとても弱い人間である。

個別ルートの恋愛だって、さほど上手くいかない。大事なタイミングで思ってもみなかったような失敗をして、その失敗を笑いあってお互いを許しあい、成功したとき以上の仲の深まりを肯定する。ダメな人たちがダメなままでも毎日楽しく生きていけるはずだと肯定する。その筆致が好き。

久しぶりにいいものを読んだ。
15周年おめでとうございます。20周年が楽しみです。

以上。