というか、ラズベリーキューブって結局なに? (長文追記)
個人的には今年トップを争うレベルの良作だったのだけど、
他の感想の点がやたら低いっぽいので、ちょっとビビりつつ、ライター擁護含め書いてみます。(シナリオのみに的を絞って話します)
この感想の対象読者として考えているのは、購入を迷っているけど、ここの低評価レビュー見て買うのやめかけてる人です。(細かいネタバレはないつもりです)(→2019/01/18追記しました。瑠璃ルートが本当に好きという内容で、がっつりネタバレです)
結論から言えば、体験版やってノリやキャラが面白そうだと思ったら、買って損はないと思う。
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低評価レビューを見てると、理由はおおむね二点
1.各ルート終盤のシリアス展開が胸くそ
2.主人公、ヒロインのキャラが不快
(3.各ヒロインルートが、単発のショートストーリーで構成されていてヒロインの魅力が今一つ引き出せていない)
受け取り方の個人差はあると思うのだけど、
1.各ルート終盤のシリアス展開が胸くそ。についてはシリアス展開といっても、シリアスと呼ぶのがはばかられるくらいの電撃ラノベ、深夜アニメでよく見かける水準(だと感じた)。
全ルートぽっと出の悪役を倒すだけ、という意見も見たが、別に元不良の主人公が暴力で解決するわけではなく、むしろ知恵や機転で上手い落とし所を見つけるタイプの、マンネリ感を覚えさせないバラエティに溢れた内容だった。その辺りはライターの力量、優れたバランス感覚を感じた。
全体の雰囲気から、どうせ最後はちゃんと丸く収まるんだろうという安心感もあって楽しく読めた。
低評価レビューを見ていると、事前にメーカーのプロモーションをよく読んだ層が、期待した内容とズレていたという点で辛口批評をしているように見える。
筆者はライター買いなので、その辺に関してはよく知らない(体験版はやったが、プロモーションは見てない)けれど、もし叩くならシナリオライターじゃなくて内容とズレた告知を打ったメーカーでは、という気持ち。
2.主人公、ヒロインのキャラが不快。については、人によって合う合わないあると思うので、体験版で地雷だと感じたなら買わないほうが良いと思う。
このライターの書くキャラクターは、ヒロイン、脇役含め基本的に出オチだ。
キャラクターの登場シーンでかなり強い個性がバシッと印象付けられて、それ以降、そのキャラが終盤までブレることはほとんどない。
個人的にはキャラクターの隠れた性格とか過去の事情を見せるためだけの無駄にダラダラしたイベントがなくて非常に好ましかったのだけど、ヒロインが自分だけに心を開いてくれる過程とかを望むと肩透かしを食らうのかもしれない。そこは要注意。
3については、確かに本作は単発のショートストーリーで構成されている。(点数が低評価でもなかったので括弧でくくったが)
この作品全体を通して何かしら目的とかゴールとかがあるわけでもなく(美琴ルートには多少あったが)、基本的にはいちゃいちゃしてパコパコするだけなので、そういうのが物足りない人には向かないと思う。
また、共通が短く、個別ルートに入ると他のヒロインとの絡みがほとんどなくなり、それぞれのルートに用意された脇役との絡みが主となるので、共通ルートのヒロイン同士の掛け合いなどが好きな人にも向かないと思う。
しかし、個人的には、このメインプロットの不在、個別ルート同士の独立性が、今までのエロゲにない本作一番の魅力だと思っている。詳細は後述する。
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ここまではマイナスをゼロに戻す擁護。
ここからはゼロにプラスを積み上げる(はずの)個人的な感想です。(引用ネタバレ少しあります)
1.シナリオライター
このライターの持ち味は、夫婦漫才のような安心感のあるギャグだ。
それもキチ○イ的な勢いで笑いを取りに来るAs○Projectやは○シナリオとは違って(あれはあれで好きです)、いぶし銀のようなじわっと来る無理のない笑いが、作品中にまんべんなく敷き詰められている。
みなと「先輩がそこまで農夫としての志に燃えてるとは、嬉しい驚きです。そのやる気に水を差すわけにはいけませんね……」
↓
みなと「芽吹いたばかりのやる気の種に、わたしが水を注いであげないと!」
↓
悟「たとえが水ばっかりでこんがらがるわ」
このレベルのお茶の間がふふっと湧きそうな少しヒネったやり取りが、最初から最後まで、ほとんど数行おきに惜しみなく披露される。
また、さりげなく挟まれるヒロインのセリフも可愛い。
たとえば、美琴という年上キャラがいるのだが、
美琴「私はもっとお姉ちゃんぶりたいのに、こんなにちやほやされると戸惑っちゃうよ、お姫様だよ、下剋上だよ」
驚くべきことには、こういったセンスあるやり取りを見せてくれるまでの間に、長ったらしい仲良くなるまでの詰め物的文字数稼ぎがほとんどない。
ほぼ初っ端からこのテンションでぶつかってきてくれるヒロイン。
前菜もお通しもなくメインディッシュをいきなり目の前に置くその構成はさながら老舗ラーメン屋。
極端といえば極端なのだけど、個人的にはこの構成が本当に素晴らしいと思う。
マジで一行もダレる文がない。隙あらば笑いか身悶えを提供してくれる。
もちろん、かといって、物語に起伏がないわけではない。
各ルート終盤では適度な伏線が張られたあと、二転三転あった末に誰も不幸にならない心地よいハッピーエンドがあって、適度にしんみりした辺りでエンドロールが流れる
2.本作
先述の通りこのゲーム独自(少なくとも寡聞にして他は知らない)の特色として、メインプロットの不在、個別ルート同士の独立性が挙げられる。
これらは根っこの部分でつながっていて、
メインプロットがないから共通ルートにおけるヒロイン同士の物語がない。
↓
個別ルートに入ってもヒロイン同士は下手したら面識さえないから、絡みもない、
という理屈だ。
これだけ聞かされると、だからどうしたという気分になるだろうが、注目すべきは各ルートの作り込み具合である。
各ヒロインは同じ学園に通ってはいるものの、ルートに入ったあとのメインの舞台は完全に分かれて、さらには、それぞれのルートでヒロインから披露されるウンチクの内容もぜんぶ違うのである。
生徒会、園芸部(校庭)、バイト先、下宿
生徒会、農業、サバゲー、バイオリン(借金)
どのルートにも手抜きが感じられない、それぞれの舞台を上手く活かしたシナリオ構成だった。
正直、本作一本で、ミドルプライスのエロゲを四本やったんじゃないかと思えるくらいの充実感で、各ヒロインとの幸福な未来を想像させるラストも満足度が高い。
(まぁ、良くも悪くもメインヒロインが誰かわからないという点は、もしかしたらマイナスなのかもしれない。)
しかしこの特色のおかげで、我々はシナリオライターの最大の持ち味である掛け合いを、何の混じり気もなく受け取ることができる。
ライターの過去作、『初情スプ○ンクル』、『ワールド・エ○クション』も素晴らしいシナリオだったが、メインプロットの部分ははっきり言って凡百だった。
世界観の作り込みなんかは十分に及第点ではあったと思う。けれど、頭飛び抜けるほどではなかった。
でもたぶん、プロモーションなどのことを考えると、仕方なかったんじゃないかと邪推する。
『魔法の存在する世界で主人公も魔法が使えるようになってしまう』だとか、『五つの世界が重なった学園で生徒会選挙をやり、なぜか立候補してしまった主人公』だとか。
そういった営業かけやすいフックが必要だったんじゃないかと。
この点に関して、インパクトが薄い本作の企画を通したのは、メーカーの快挙だと思う。
以上
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まとめ
購入者の中には、事前に期待した内容と比べて満足いかない出来だと感じた方もいるのは間違いない事実だと思う。
だけどその悪評で埋もれてしまうには本当に惜しい、近年稀に見る引き算の傑作だとも感じたため、恐縮ながら駄長文したためさせていただきました。
好みは人それぞれだと思う。シナリオライター様のますますのご活躍を祈って。
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20190118追記(ここからがっつりネタバレ。やってない人は読まないでください)
各ルート7周ずつくらいしたのですが。やっぱり瑠璃ルートで毎回泣く。
他のヒロインと違って、主人公の一日一善を「いい格好しい」と否定して、ラストの嫌なしっぺ返しを食らうシーンでは「いつかこうなると思ってた」とある意味ネガティブな評価をくだしてたことを露呈するわけです。
主人公の一日一善。一皮剥いてみると、結構独善的かつ自己犠牲的で、人格的にちょっとゆがんでるとも言えます。
他のヒロインのルートではその善良さがプラスに働いて、ヒロインらに惚れられたり窮地を救ったりして、まぁ当たり障りない普通のエロゲ的なエンディングです。(もちろんそっちの過程の完成度も素晴らしい。最近やったエロゲの中では一番好きな空気感)
ですが瑠璃だけは。告白シーン。彼の「一日一善」の本質を理解していて、それでも支えてあげたいと願う。
間違いなく彼女がこの作品のメインヒロインだとわかる場面です。
そしてラストでは、他のヒロインのルートと違って、瑠璃ルートだけが逆に主人公を救ってくれるという展開になります。
だからこそ、瑠璃ルートだけは主人公の母親の墓参りシーンが用意されているわけです。
主人公の母親の「呪い」を彼女だけが解いているのです。
筆者はこの瑠璃ルートがたまらなく好きです。
正しいことをし続けるのはとても難しい。その正しさが報われることを誰も保証してはくれない。
だけど、「悟は一生懸命で、すごく頑張ってるのに、悟が誰からも優しくされないなんておかしい」と泣いてくれるヒロインがいる。
自身の危険と善行を天秤に掛ける主人公の葛藤を「どんな映画よりも感動した」と褒めてくれるヒロインがいる。
こういうシーンを読むためにエロゲやってるんだな、と思い出させてくれる傑作でした。