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yamatsubameさんの俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブルが続くわけがないの長文感想

ユーザー
yamatsubame
ゲーム
俺の妹がこんなに可愛いわけがない ポータブルが続くわけがない
ブランド
バンダイナムコエンターテインメント(バンダイナムコゲームス)
得点
75
参照数
89

一言コメント

主人公の音声を切りたい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 続は主人公の心のボイスがないため批判を浴びているが、エロゲに慣れていると逆である。
 主人公の声ほど邪魔なものはない。
 作品中で最も登場するキャラは、ヒロインでも親友でもなく男キャラの主人公である。
 その主人公の声が想像していた声と違っていれば、そのストレスは測り知れない。
 しかも、会話だけならまだしも、心の声まで音声化されるとか邪魔でしかない。
 もっと高校生らしい若々しい声がよかった。
 地の文はゆっくりこちらのペースで読み進めたいのに、音声化されるとそのペースで読むことを強要されて、登場人物の感情にゆったり触れることが出来ない。
 もっとも、この作品には地の文というものがないに等しく、心の声と呼ばれるものも、作中の登場人物による会話がどういう意図でなされているか解説するだけの、読み方に制限をかけてくるタイプのものである。
 そのため、文章を読んであれやこれやと想像する必要がない。
 
 と、こちらの見方からすればそういう不満はあるが、大多数は主人公の声があってうれしいと思うので、キャラ別音声のオンオフだけ欲しかったなぁと思ってしまった。
 中身自体は複数の分岐√に手を抜かず作っており、逆にヒロイン各々同じだけのシナリオの濃さを与えているから、サブヒロイン好きにはかなり満足出来る作品になっている。
 メイン以外は手抜きで作るのではなく、同じ分量を与えて真剣に作ろうとしてくれるのはうれしい。
 ただし、まぁシナリオの量はコンシューマにありがちな、というより原作を大きく乖離出来ないため出来ることが限られる結果、少な目である。これについては仕方ないし、その分アニメを取り入れたり他で魅せているのだろう。

 さて、Abemaの一気見で8年ぶりぐらいに俺妹を見たけど……すごく、面白いです。
 あの頃は桐乃の魅力に全く気づけなかった、でも今なら分かる。
 ――桐乃が、メインヒロインなのだと。
 すれ違いに意地を張って疲れきった兄妹、恋人ならとっくに縁を切っているだろう。
 しかし、二人は血が繋がった兄妹なのである。
 兄妹の縁は、同じ家に住んですれ違い様に意地を張っている二人の縁は、どうなっても切れないのだ。
 妹のエロゲ趣味が分かって二人の距離が縮まったけど、桐乃が素直になれるほど距離を縮めることが出来た訳ではない。
 二人はいくつもの日々を重ねてきた、交わした言葉の少なすぎる日々を重ねすぎた、桐乃はそんな関係になるぐらいなら、また傷つくぐらいなら、兄に何も期待せず交わした言葉の少ない日々を選び我慢する方がよっぽど耐えきれるのだろう。
 素直になって、期待して、裏切られるより、余程。
 桐乃の嫌がらせや暴言の数々は、期待と好意の裏返しなのだ。
 それを理解した途端、桐乃が京介に心を開くたびに、胸が熱くなってこみあげるものがある。
 桐乃はすごいやつだと、恐怖から逃げずに立ち向かえる中学生なんだと。
 一期のOPでは桐乃が京介を蹴ったり無表情になったり、複雑な感情がピックアップされている。
 それが二期の出だし、「君とまた物語が~」で浮かべる桐乃の素直な表情が、二人の冷戦を乗り越えて新しい関係を築けた二人が、どうしようもなくおめでたくてここでも胸が熱くなる。
 アニメだけど、現実じゃないけど、それでもいい。
 桐乃じゃないとダメなんだ!
 メインヒロインはあやせじゃダメだ、桐乃じゃないとダメなんだ!!!
 あの頃、8年前あやせ推しだったけど、年月を経って見返すと分かる。
 やっぱり桐乃がNO1だと。

 そんな桐乃であるが、このゲームだと不遇に見えてしまう。
 まず一作目は、心的ストレスというわりと非現実的な騒動の話に終始してしまい、肝心の日常で京介に強い感情をぶつける桐乃を魅せてくれない。
 trueもなんか桐乃が本当は京介のことが好きだということが分かる良いオチみたいになっているが、この作品の魅力はそこではない。
 あくまで、京介に対する好意に過去の積み重ねがあって素直になれないいじらしさ、がこの作品の魅力である。
 そして続については、実兄妹という設定が抜かれている。
 スピンオフでもSSでもありえない設定である。
 俺妹は、実の兄妹だから出来る話だ。
 俺妹を読んでいれば、それがありえないということが分かる。
 ただし、桐乃と京介のあくまで、兄妹を設定を抜きにした単純な恋人同士のいちゃらぶとしては読めなくはない。
 だがその作品自体に、桐乃の魅力を最大限発揮できるとかというと、話は別である。
 
 いろいろと書いたが、ファンとしては音声もついて分岐ルートもあって非常に満足できる一作だろう。
 ただし、手堅い作品であって、突き抜けて面白い類の作品ではない、安全牌を切った印象が強い。