はとのシナリオに期待したし、丸戸を超える逸材だと思う。しかし、結論からいうと、この作品は物足りなく終わる。
作品の前にライターのことを書かせて下さい。
はとはエロゲ史に名を残せると思う。
最大の特徴は言い回し。常につかみどころのない言い回しで、読者の予想もつかない言葉を連発する。語感を非常に大切にしているので、ストーリーや結末に縛られることなくテキストを書いていて、それはおそらくライター独自の力に基づいている。
それゆえ、自分の面白いと思うことをありのままに表現できる。エロゲのライターは、やはり観客を意識したテキストでご都合主義の展開に持ち込むことが多い。水着会やハーレムなどが見られるのは観客の目を意識するため。そうなってしまう背景には、ライターとして十分な訓練を積んでいないため、文字力の問題や文章構成力の問題で、売れるエロゲを売るために型にはまった形で作ることが求められことが挙げられる。しかし、はとには十分なライターとしての力があり、独自性を持つ。それ故に、エロゲ界において唯一無二の存在になれる、または既になっていると私的には考える。
エロゲ界で評価が高いライターには、丸戸史郎やるーすぼーいなどが挙げられるが、個人的には丸戸に一番近いと思う。なぜなら、ゲームの環境回りがあまりに戯画に酷似しているのも理由の一つになってしまうが、私が思う丸戸最大の強みは、表現すべきことをありのままに表現できること、だと思うからだ。(信者には申し訳ない)衣笠や王は笑いを取る技術が高いし、るーすは文章構成力に感服させられる。しかし、彼らは人がやらないことを天才的に表現しているのであって、その天才性を失った時に凡シナリオになってしまう。天才が孤高の存在であればあるほど、その天才性を維持することは難しい。時に衣笠は、暁の一発屋なのでは? とすら思っている(誤解しないで欲しいが、私は暁が世界で2番目に良ゲーに感じている)。
その点、丸戸には天才的というより、誰もに求められる基本の能力が悉く高い。文章力も、構成力も、キャラクターの書き方も。この基本スペックは天才的なのではなく、あくまで凡人レベルの最高水準であって、おそらく衰えることのない力に見える。ホワバル、NG恋、ママラブ、この青、パルフェ……数えきれないほどの名作を生んだのは、そういった理由だろう。ある意味、エロゲでは求められないRPG要素を、最大限に引き伸ばして戦うエウシェリーもこの型に近い。彼らの環境回りは業界最高水準だが、天才的な能力ではなく最高水運の技術で戦っているのであって、だからこそ安定した水準のゲームを出せる。もっとも、近年のエウは首を捻る出来で、正直購入予定だった新作も予約すらしてない。まさかヒロインが一人だとは……それでは、エロゲでやる意味がない…。
話を戻すと、そもそもこの拙い文章が一体片手で指を数えられるほどの人の目に晒されているかどうかは全く知らないが、はとの文章力は天才的だと思う反面、努力や積み重ねによって得られた、あくまで業界最高水準の力であって、下手をしたら文学小説のライターに比べれば、その表現力も低いと一刀両断されてしまう恐れがある、そのレベルである。であるならば、私ははとの力が丸戸氏に近く、また、その最高水準に磨きがかかれば、エロゲ史に名を残すことも出来ると信じている。
ここまでライターを絶賛?する内容を書いたつもりだが、この作品に関してはどうだろうか。
個人的に思ったこの作品の最大の印象は、貧乏神が必然により訪れ、ある種運命的なボーイミーツガール的な作品だと印象だった。それは重力によって落とされ、神を(物理的にも心情的にも)落下させる=落下させることは万有引力の法則により必然、という繋がりからだ。物語の雰囲気も語るほど良いわけでもなく(やはり現実離れしすぎ)、爆笑するほどでもないと思ったので、そういう印象を受けた。ちょくちょく野球の話が出るので、J民か?などと考えさせられたが、それは別の話として、ボーイミーツガール的な話なら…いくらでもある…しかし、はとらしさは全開の作品に思えた。テンポという意味でも、様々な意味で。というか、はとって丸戸じゃね?と思わなくもない。
それもまた別の話として、この作品はお世辞にも完成度が高いとは言えない。それは量的にも、質的にも、はとというプロが淡々と描いた物語というものに近い気がする。はとの書く文章が面白いので、形にしたらそこそこ面白い作品ができた=びんビンですみたいな。だとすれば、だとすれば! やはり、もう一歩何か、他の作品では一切見ることのできない何か、が見たかった。個人的には、らぶおぶのすールートが大好き。最後まさか詩で締めくくるなんて…しかも無駄にレベル高い…そんな他では見ない何かが見たかった。
それが見れても満足できるかはわからない。けれどやはり、もう一歩何かが欲しい。それは尺の問題なのかもしれないし、キャラの数かもしれないけれど、もう一歩足りない作品に感じた。そう感じたのは自分だけではなかったはず。
ここまで、何人の方の目に読んで頂いたのかはわからない、それは1人かもしれないし、2人かもしれない。けれど、本当に感謝します。