作品に込められたテーマ、キャラクターの主義主張といったものを理解するゲーム。ただし、起承転結を楽しむストーリー重視のエロゲーという観点からみるなら駄作の一言につきる。長文感想ではなるべくネタバレを避けて、購入検討者に役立つような、作中のイライラポイントを紹介する。(9月1日追記。多少のネタバレに注意。)
体験版ではよくある普通の恋愛ゲーム、と見せかけて実はいろいろと考察を要するゲームである。作品のテーマ、キャラクターの主張、頻繁に登場する単語に秘められる意味といったものを理解するためには何周かする必要があると思われるが、いかんせんエンターテイメントとしては駄作と断言してもよく、周回プレイする気は起きないだろう。購入を検討して頂く際に役立つと思われる情報を、ネタバレを出来るだけ避けつつ紹介したい。
(1)共通ルートの日常のつまらなさ
主人公は「ギャング部」なる部活動をしているのだが、その実態は何でも屋である。このネタが扱われているエロゲーはそれほど多くないと思うのだが、今年は注目作に相次いでこのネタが扱われていた(1月・・・大図書館の羊飼い、2月・・・プリズムリコレクション、3月・・・LOVESICK PUPPIES)ため、どうにも「またこのネタか!」という印象がぬぐえない。
活動内容も、告白を手伝うだの木に登っておりられなくなった子猫を助けるだの老人とのふれあいだのそれらの作品と大して変わらない。しかし、例に挙げた作品は「活動を通して部員の仲が良くなっていくところを描写する」という役割を果たしていたため幾分有意義ではあったし、それ故の面白さがあったわけだが今作はそれすら無い。というのもストーリー開始時点で所属している部員はみんな仲が良いし、作中で新たに入部したヒロインも主人公を目当てに入部しているからである。
ヒロインと絆を深めるわけでもなく、新入部員と親睦を深めるわけでもなく、つまらない活動を延々と読ませられるのはなかなか苦痛である。後述するが、この作品は「考察系」のストーリーで各所に伏線と思わしきものがちりばめられている。しかし、このせいで注意深く文章を読む気が起きるはずもなく、ひたすら左クリックをカチカチカチカチ、人差し指を鍛える作業に没頭することになる。「この作品は何も考えずに受動的にエロゲーをやる人には向かない」と評価された方がいらっしゃったが無茶を言うなと言いたい。
(2)主人公が受動的で役立たず
上述の通り本作は部活ものである。しかも主人公がギャング部創立の発起人といってもいいのだが、彼の基本スタンスは常に受け身である。主人公が部活の計画をすることは皆無で、他の部員、というかほとんど幼馴染みキャラが立てた計画に従って行動することとなる。なので、主人公が先導して部員を引っ張っていくような話を期待するとかなりがっかりする。
そして何よりの問題は主人公が物語中ほとんど役に立っていないという点である。この主人公を他の作品の主人公にたとえるのなら、一番近いのはシュタインズゲートの岡部倫太郎だろうか。中二病で、組織のリーダー的存在で、いろいろ大層なことは言っているものの実際は何もできない。というあたりはなかなか似ている。ただ、オカリンは空回り気味ではあっても主体的に組織を引っ張って行動していたし、クリスに突っ込まれてアワアワする様は微笑ましかったし、そして彼が作中どのような事を成し遂げたのかは今更説明するまでもない。
対してこの作品の主人公は何もやってない。特に部活動関連は完全に他人任せといってもいい。日々の活動なんかは他人任せであってもそこまで批判するものではないのだが、いろいろ積み重なっている所にドカンとイベントが起こるので、なかなかうまい具合に主人公に対する不快メーターが上がっていく。共通ルート中盤あたりに起こるギャング部の廃部問題についての主人公の反応が許せなければ、おそらく作中で主人公に好感を持つことは無いし、そんな主人公に惚れるヒロインについては「こんな男に惚れるなんてなに考えてんのこの女どもは」という疑念が始終つきまとうだろう。幸いこのイベントは体験版に収録されているので是非体験して頂きたい。
さらに、この作品の特徴として、登場人物の意見が対立するイベントが起こる、というものがある。のだが、その対立するのがヒロイン同士のみで、主人公はどちらの意見に賛同するのか、という選択をするだけである。このヒロインの意見が対立する場面はこの作品一番の見所であるのだが、反面主人公が完全に空気である。ヒロインの主張を棒立ちで黙って聞いていて、最後にヒロインから「あんたはどうなの!」と唐突に話題を振られて「え?えっと俺はね~・・・う~んと、君の意見がいいんじゃないかな?」という具合である。
見方を変えれば、主人公がどちらの意見に賛同するかを訪ねる、というのは、すなわちプレイヤーがどちらの意見に賛同するか、というプレイヤーに選択を委ねるものであるため演出上意義があるものとは考えられるものの、これまでの流れもあって主人公のヘタレ度上昇に一役買うことになってしまっている。
(9月1日追記)
「未来にキスを」のGENESISルートをプレイした。この作品は、「共通ルートも個別ルートもつまらないけど最後のオーラスルートだけは素晴らしい」という話を聞いていたので購入して即座にセーブデータをダウンロードして該当ルートをプレイした。「未来のキスを」の作品項目の感想としようかどうか迷ったのだが、「未来にキスを」の感想はあまり書く気はなく、ライターについてちょっと一言書きたくなっただけなのでこちらに追記する。今更10年以上前のゲームの感想を書いてもきっと誰も見てくれないだろうなと思ったのが本音というのは内緒だ。
シナリオライターの主義主張に対する批評はおいといて、多分私はこのライターの作品は合わないんじゃないかなと思った。その1番の理由は、このライターの主人公に対するスタンスにある。このライターが書く作品は、苦しんだり、悩んだり、考えたりというのは全てヒロインの役目で、主人公はヒロインよりも上位に存在する人物である。よって、主人公は自分の生き方について悩んだり、他人の意見を受け入れて省みるようなことはない。そして、ヒロインのようなパンピーが主人公対して批判的な意見を述べるような事が肯定されてはならないのである。
このあたりはギャングスタ・リバプリカでは、水柿こおりルートが最も顕著に表れている。彼女はヒロインの中で一番の常識人で、主人公を更生させようとしていた幼馴染みキャラだった。そのはずだった。だが、個別ルートで実は主人公をうらやましがっていたということが判明する。周りの評価が気になって仕方の無い彼女は、周りに自分がどう思われているかを全く気にしない主人公がうらやましいというのだ。
要は「主人公」に期待するものがライターと私の間で正反対なんだなぁ、と。このライターにとって主人公というのは何か超越的な存在なのである。ヒロインは主人公の生き方を感じることにより、あるいは、そばにいて少し話をするだけで、悩みを解決する糸口を見つけたり、何か新しい解釈をもたらしたりしてくれる存在なのである。
対して、私は主人公に対しては、ヒロインと対等であり物語を主体的に引っ張ってくれる存在であることを期待している。だから、何か問題が起こっていれば解決しようと奔走してほしいし、ヒロインが何か悩みを抱えていればそれを解決しようと努力してほしいのである。そのあたり、自発的に動こうとしない主人公をこの(2)では批判した。
しかしそれが大きな間違いであることがわかった。このライターにとっては主人公というのは自発的に動くような存在ではない。主人公はヒロインとは対等ではなくもっと偉い何かだから。ヒロインのために主人公が動くなどあってはならない事なのである。
それ以外のこのライターの作品が私に合わない理由としては、このライターのテキストがとても衒学的であること、私がエロゲーを含むサブカルチャーに頻繁に使用される知識(クトゥルフ神話、量子力学、認識論等)を全く持ち合わせていないことあたりだろうか。今後は、少なくともこのライターの主人公に対するスタンスが変わらない限り、このライターの作品をプレイすることはないと思う。
(3)恋愛ものとしては最悪
断言するが、ヒロインの主人公に対する好感度が作中で上昇することはない。幼馴染みキャラにありがちな「主人公を慕う転校生の登場による関係性の変化」も見受けられなかった。要は、どのヒロインも初めから主人公に対する好感度はつきあってもいいレベルに達していたということである。恋愛ゲームとしてはあまりにも芸がない。転校生ヒロインの禊も、転校してきた直後の右も左もわからん田舎者にちょっと優しくした程度で惚れられているので、告白されたときは本当にびっくりした。
そして、上記(2)で主人公が受動的な点を指摘したが、これが恋愛面でも発揮されてしまっているためもう手に負えない。告白、デート、セックス、全てがヒロインからお膳立てされたものである。こういう展開が駄目とは言わないが、全てのヒロインで徹底されているため、うんざりすること請け合いである。告白即セックスのエロゲー的形式美も健在。
ヒロイン「貴方が好き!」→主人公「実は俺も好きだった!」→ギシギシアンアン・・・
ちなみに公式WebページのサンプルCGに禊と主人公が野外でセックスしている場面があるが、あれは告白直後のセックスシーンである。あの瞬間俺の好きな禊は死んだ・・・
(4)あるヒロインのエピローグで超特大級の爆弾が仕込まれている。
やってくれました。やっちゃいましたよこのエロゲーは。ある種エロゲーという分野で一番議論が分かれるのではないか、ということを。あのね、ガキが子供なんかつくんな!つくる話にしたいんだったらもっときちんとしたテーマとして扱ってください!
日常のちょっとしたお話で死刑廃止問題の話なんてしますか?日常のちょっとしたお話で宗教問題の話なんてしますか?日常のちょっとしたお話で政治問題の話なんかしますか?入れても入れなくても問題なく話が進むなら、そんな話題は入れない方が無難でしょ?ってことなんですよ。
とはいえ、学生が子供を作ることがなぜいけないのかっていわれれば私自身明確な答えを持ち合わせておりません。一応言うのなら、自立していない人間が子供なんか作ってしまえば、様々な苦労をすることになるのは目に見えているので、一見ハッピーエンドだけれども一種のバッドエンドといえなくもなく、せっかくのハッピーエンドに水を差すという点が不満ではあります。
ですので、キチンと一つのテーマとして扱って頂いて、シナリオライターの持つ答えを提示して頂ければなんの文句もありません。しかし、実際は「赤ちゃん抱いてるCG出せば締めとして良い絵になるよね」って程度なんですよ。だから私は安心して声に出して言うわけですよ。ガキが無責任に子供なんかつくるんじゃないよと。
しかも、子供が出来ちゃった!どうするのよ!?と思っていたらとんとん拍子に物事は進みます。学校内ではたいした問題にならなかったし、クラスには主人公やヒロインに対して誹謗中傷する人間もいなかったし、周りの支援もあって無事出産出来たようです。めでたしめでたし。アホですか?もうね、世の中なめんじゃないですよ。
エロゲーの濡れ場で避妊しないのはある種のお約束なので、中出ししようがぶっかけようが、特に何とも思ってないわけですが、今後は「学生が避妊しないでセックスするんじゃねー」と批判するようになってしまいそうです。
と、ここで終わらしてもいいのですが、1つフォローするとどうにもこの辺はある種象徴的場面としたかったのではないだろうかと思っています。その辺はネタバレになりますので後ほど。できる限りネタバレは控えますので多少のネタバレはかまわない、という方はどうぞ。
(5)まとめ
このゲームは他のシナリオ重視のゲームのような起承転結を楽しむゲームではない、というのが感想である。というのも、このゲームは何周もしてシナリオライターの主張であるとかプレイヤー独自の解釈を導き出すことに意義がある作品である。しかし、エンターテイメントとしてみるなら共通ルートも個別ルートもつまらないので、周回プレイをする気などとても起きない。
従って、このゲームはネタバレを恐れず事前に感想を読んで、この作品が何を表現したいのか、をある程度プレイヤーの中で固めてからプレイするのが、時間に追われる社会人エロゲーマーのプレイ方法として一番正解なんじゃないかと考えるのである。
(6)子作り問題についてのフォロー
さて、この「主人公とヒロインの子作り問題」が出てくるヒロインは2人いて、この2人の展開は非常に対照的である。1つは実際に出来ちゃったパターン。もう1つは、主人公の子供が出来たら良いなあとは思っていたけど(物語終了時点では)出来なかったパターン。
そして、各ヒロインの話の展開もかなり対照的に見える。子供が出来たヒロインの話については、主人公とヒロインが主題歌の題名にもなっているモラトリアムを抜けて大人となることを決心する。そして子供が出来なかったヒロインについては、永遠にモラトリアムを続けることが出来るような社会作りを目指すぜ!と意気込んでいる。
この辺を意識したのであればなるほど表現の1つとしてはありなのかなと思うところではある。