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xianxianさんのキミとボクとエデンの林檎の長文感想

ユーザー
xianxian
ゲーム
キミとボクとエデンの林檎
ブランド
ALMA
得点
68
参照数
1430

一言コメント

完成はしているが恋愛小説のような凡作。「可愛く甘ラブでエッチ」な作風で、もともと新人の練習用の一作目だったようで、さほど期待はしていなかったため、予想ライン。ただし、震災の影響で、その新人ライターが離脱するという運の悪い結果に。ライターの担当していたルートごとで差があります。また、メイン担当が女性向け中心のため、癖があり好みが別れるでしょう。原画は初担当のCUBEさん

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

初期特典で収録BGMやOPが含まれた音楽CDつき。あとは、店舗特典で変化。直通の特典ではヒロイン全員が白いドレス姿の絵のファイルつき。
女装した主人公が身代わりとして、女学校に通うというお話。方向性は「とりかえばや」の話に近い印象です。共通ルートが2、3時間で、個別が2、3時間程度。琉奈と琴音ルートが片桐由摩さん、雪乃と七海ルートが玉城未悠さん、かれんルートが宙形さん。話の主軸となるのは由摩さんのほうで、玉城さんは、スキルアップのためのサブ担当。宙形さんは、独自路線です。
かれんルート外してミドルプライスくらいで売ればコスパ的にはいけるんじゃないかと思います。私はもうゲームの値段とかコストとかあまり気にしなくなっていますし、今回はお布施くらいのつもりで買っているからいいのですが、20時間が平均化している最近のフルプライス作品でこのボリュームはけっこう不満もたれると思います。
個人的には、ここのアイスクリームみたいな、ボリュームはないけど、ふわっとした可愛い雰囲気は好みなのですが、それは個人的な好みでしかありませんね。

女装ラブコメというよりは、古典的な「とりかえばや」「好色五人女」「おちゃめなふたご」のような少女小説ぽい印象です。「エデンの林檎」というたいそうなタイトルですが、雪乃ルートで「学校が学生を守っていて、社会に出たら自分自身の力で自分を守っていかないといけない」などあり、「エデン」→「(社会の荒波のない)学園」。「林檎」→「恋愛」くらいの扱いで、「キミとボクの学園恋愛」くらいが内容とはちょうど釣り合うくらいの作品です。
一応、分類としては、

・ 琉奈と琴音が、秘密を共有する男女のせつない恋
・ 雪乃と七海が、(女装しているため)擬似・百合的な恋愛
・ かれんが普通の男女付き合い(ただし、ユーザー視点では女装している男子とのラブコメ)

あたりになると思います。

本編で、きっちり説明はしていませんが、作中登場する「トモ」は、自称:転校生です。本編では「カフェテリアでしかあわないな」という主人公の発言から、「授業に出ているわけではなく」、学生として確認できない「カフェテリアにしか出現できない」ことから「偽学生」ということが予想できます。琴音ルートで「妊娠ネタ」などもあり、どちらかというと、「とりかえばや物語」の影響がある気がします。とりかえばやだと、「男社会」に「男装した」「若様」を「美形男性」が「押し倒す」話ですが、今作では「女学園」に「女装した」「若様」を「女装した」「美形男性」が「押し倒す」話になっています。芝居なんかでたまに見る、原作を男女逆転させて演出するタイプのお話でしょうか。氷室冴子先生の「ざ・ちぇんじ」あたりの影響もあるかもしれません。
ルナルートの謎。従姉弟だから結婚できる、と言うオチにしていますが、これは「嘘」くさいです。というのは、鑑定の結果を報告したキャラが、その数日前のシーンでは、「みんなが幸福になれる嘘はついてもいいと思うの」という発言をしていることから、「ハッピーエンドのためには嘘をつく」という宣言をしています。主人公は日にちがたって、忘れているようですが、読者側からすると、はっきりわかります。作中では、はっきりとはさせていませんが、近親相姦をしているのでしょう。かれんルートを削って、そこのドロドロした展開を掘り下げたほうがよかったと思います。この近親相姦に関しては、選択肢もよく、「姉弟と思う?」「従姉弟と思う?」という選択肢があり、「姉弟」なら、「血が繋がっていると認めたうえで、それでもヒロインが好きという気持ちを抑えきれない」という心情で、「従姉弟」の選択肢だと、「血が繋がっていると認めたくないハッピーエンドを迎えたい」というせつない想いの心情なんだろうなと想像して楽しめました。行間を読むというか、キャラの台詞とかから書かれていない心情が想像できるのは、「忍ぶれど 色にいでにけり わが恋は」みたいな感じの描き方で好みです。
ちなみに、他のルートだとルナが主人公を積極的に後押しして、恋愛に協力するのは、罪悪感の誤魔化しと、自分が結ばれないよう、あきらめきれるようとするために、かなり無茶なことも協力していると思われます。ある意味、自暴自棄になっているのではないでしょうか。
 ついでにですが、本当に血が繋がっているとして、なぜ男性である主人公を本家に残さず、女性である琉奈を本家に残したかの疑問は残ります。単純に「母系の一族だった」という可能性もありますが、これはこれで有効で合理性もあります。極端な話、「跡取りを得る」として、「名家のお嬢様」ならば「有能な相手を婿に取る」ということで跡取りを得れます。一方、「分家の息子」は跡取りではありません。それでいて、本家にふさわしい能力は要求されますから、下積みをして、実力をつけることは必要とされます。跡取りになるほどの成長ができたならば、「会社の後継者」として「分家に出した子」をすえつける。一方で、そこまで成長できないなら、「本家の令嬢」として、より箔がついた子をえさに有能な大物を釣り上げる路線に切り替えることもできます。「会社に有効な次世代を手に入れる」という意味ではいい手かもしれません。

琴音ルートでは、「お夏狂乱」を踊ったり、「好きになってはいけない人との恋」と表現したり
「せつない恋」みたいなものが中心だと思われます。かんざしを返したり、婚約解消したりの話がありますが、解消理由がこじつけ臭いです。主人公が「なぜ自分みたいな庶民と婚約したのだろう?」と疑問に思っていますが、おそらく、これも「琉奈と姉弟」という根拠になります。「実際には、跡取り候補」の主人公と名家ならではの情報網でつかんで「婚約した」だと思われます。そうすると、婚約理由が「自然」になります。で、そうまでして「婚約した」のを簡単に「解消」するわけがないと思われます。おそらく、琴音ががんばって、「婚約解消を働きかけた」が真相だと思われます。「婚約という「鎖」から解放しますから、好きな人と添い遂げてください。そういう「鎖」なしに私を好きになってください。もし、私を選ばないなら、この恋を終わらせましょう」という「言葉にしない告白」行動だと思われます。好きな人のために、想いを殺し、身をひくという切なさが感じ取れました。多分、そのせいで、他のルートに入ると琴音が登場しなくなるというのは自然だと思われます。失恋した相手と一緒にいたくはありませんから。もっとも、宙形さん担当のかれんルートだと、かれんとつきあい出しても、琴音を平気で秘密協力させるために登場させていたりして、そのへんの無神経さが男性ライターだな、という感じがしました。


(おまけ)
・音楽鑑賞26曲(OPフルあり)
・シーン鑑賞20(琉奈5(自慰1)、琴音4、雪乃3、七海4、かれん4)
・CG鑑賞・87枠(差分1~数枚)その他8(琉星6、ラナ2)、琉奈16枠、琴音16枠、雪乃17枠、七海14枠、かれん16枠

原画のCUBEさんのこだわりは「童顔でエロいムチムチ」らしいです。下着などは丁寧に描かれていてよかったです。ただ、指や爪はやや粗く、そこは気になりました。もともと、ここのメーカーは童話ぽい絵が売りなので、重視していないラインなのかもしれません(モモンガのたるるなんて、担当は天宮ぽらんさんですが、あきらかにぬいぐるみのような描き方ですし。)が、せっかく女性を可愛らしく、エッチに描こうというならば、ネイルとかをしてお洒落に気を配っているようなところまで気を使い、今後、描いて欲しいと思います。

 音楽は可愛らしくて、よい感じのものが多いです。また、その曲につけられたタイトルも「ハッピー・クッキー」や「メリー・アップルソーダ」といったお菓子のような甘くて可愛らしいタイトルがつけられており、そういうお洒落なセンスが好みです。主題歌の榊原ゆいさんの歌い「機械じかけのアップル」は最初は「ふつう~」くらいの印象しかなかったのですが、何回も聞いているうちに、可愛らしくて、だんだん好きになってきました。

個人的なライター評価は、片桐由摩さんが「良」、玉城未悠さんが「並」、宙形さんが「問題外」です。
 片桐さんは、それなりに数をこなしたライターさんだけあって悪くない出来でした。ただし、男性向けキャラ萌えモノだからということでなのか、ややセーブをしていた印象で、背徳的・退廃的な部分をおさえている印象でした。また、テキストの作風でいえば、雰囲気重視で、想像すれば予想できる書き方で、全部が全部説明するタイプではありません。それが未完成みたいにいわれる部分に一役買っていると思われます。あまり男性むけではないでしょう。震災の影響で男性むけブランドが無期休止になりましたが、今現在、中心となっているライターが男性向きではありませんから、男性向けブランド撤退は英断のような気がします。今まで出した作品の続編などは、ユニセックス作品として、統合した女性むけブランドから出してもかまわないでしょう。現に同人サークルの一部はそのような感じで出しているところもありますし。
 新人の玉城未悠さんは、今回スキルアップのためというか、今回はこれといった特徴はあまり見られない印象でした。個人的な評価としては、「ふつうの女の子を描く」部分では可愛らしく出来ているように思えましたが、一番粗も見えました。一番おかしいと思ったのは、雪乃ルートでした。38.7も熱が出て、普通に動いて、SEXまでするのはいくらなんでもリアリティー無視しすぎじゃないかと思います。現実無視しすぎの日常系の物語は引くので、もうちょっとスキルアップ必要な感じを受けました。七海ルートが片桐さんの作風に近い恋愛ストーリーで、雪乃ルートがエロゲやラノベの典型的なラブコメ風味で描こうとしている印象でした。個人的には、七海ルートは好きで、これと片桐さんのルートあわせて、「おちゃめなふたご」シリーズの学園ものぽい印象でした。そういうタイプの話を膨らませて書いてほしいという気がしました。
そして、片桐さんと玉城さん共通しているように感じたのは、女装している男子ですが、ここぞという時での決断での主人公がかっこいいように思えました。これは、女性ライターから見た「カッコいい男の子」像を表現しているのかもしれません。また、エッチシーンでは、ちょっとコスプレして雰囲気をかえたり、野外でのちょっとしたアブノーマルエッチのようなものの印象です。普通ではできないから、ちょっと妄想してやってみたいと思わせるエッチシーンみたいなものが作風かもしれません。
宙形さん担当のルートは、単独でみたら悪くないかもしれませんが、「学園恋愛」みたいな話に無理やり自分好みのファンタジー設定をいれています。たしかに今時、単なるキャラ萌え恋愛ものなんて微妙な人気でしょう。ラノベにしろエロゲにしろ、「ラブコメ」では「コメ」のほうが重要で、そこで物語の山谷を作り出す感じです。とはいえ、サブが勝手なことをすると全体のまとまりが悪くなります。なんか、ティーンズ文庫にMF文庫のキャラが強引にコラボしたような印象をうけました。何をやっても自分のスタイルを崩さず、協調しないライターかつ遅筆では使い勝手が悪いです。しかも、宙形さんルートでは名前つき立ち絵ありキャラは4つで一番多く、サブなのに使用した声優も多く、システムなどでも一番コストがかかっています(いや、担当ヒロイン一人のため、全体では同じコストなのかもしれませんが、サブがメインよりキャラ増やしてどうなるという話です)。一番先輩でえらいから、なおさら自制してシナリオを作るべきだったのではないかと思います。ライトノベル的ラブコメとしてみた場合は一番、典型的なラブコメをしているかもしれません。また、他のルートと比べ、一人称ラノベ主人公のように、主人公が頭の中で一番多弁な印象を受けました。そこが、人によっては、かれんルートが一番いいと評価している理由かもしれないと思います。個人的には、他のルートと比べ、主人公がしゃべりすぎて余韻がないように思えていまいち好みじゃなかったです。また、このルートだと他のルート比べ、主人公が一番生臭いというか、性欲を丸出しにしている印象がして、いまいち受け付けない感じでした。エッチシーン的な話ではないのですが、例えば、他のルートだと、主人公が女性の下着をはいたり着替えるのにあまり羞恥心を感じなくなってくるのにたいし、このルートだと、服は女性ものでも下着は男性ものを維持するんだ、みたいな設定になっています。あと、エッチシーンなどでは、主人公の思い切りがいまいち悪く、必ず室内でのエッチ限定です。なんか、このあたりが、男性ライターが描く、女装する男キャラの考え方、動かせ方のように思えました。


(声優)
ディーネ・ラナ(さかのゆりな)、本庄綾乃(沢菜りょう)、相馬深千流(真名瀬あい)粧子(深海玲依)曽我部智哉(竹田いづも)、ヤナギキョウコ、HAYATO、さがわゆうじ

(2013/3/1追加)
2dconさんが疑問にもたれていた「粧子から『従姉弟』と伝えられたのに、琉星が自分たちの恋を禁断の果実にたとえたか」で、再考して、以前読み落としていた可能性を考えました。

それは、琉星自身は「姉弟」と気づいていながら、琉奈と二人の恋のために演技しているということです。
結論として、「粧子さんの言外の言葉を琉星が悟った」ということではないでしょうか?

dovさんが引用している粧子さんの台詞を、私は「琉星が忘れた」と思って読んだのですが、
「覚えていた」のではないかと考え直したからです。

粧子さんのその台詞は言外の意味で、『私は二人が幸せになるために嘘をつきますよ』という宣言です。
そして、琉星へお願いしているのではないでしょうか?

『誰か(琉奈)が幸せになるために嘘をつき、秘密を抱えていく覚悟をして』

ということを。だから、琉星は粧子さんから「血がつながっていない」という報告を受けたと聞いた時、
次のような言外のメッセージを受け取ったのではないでしょうか?
「二人はやっぱり血がつながっていた」ということを。

そして「宣言通り、今回は『白』と私は嘘をつく。だから琉星くんが、二人の未来を決めて。もし、覚悟を決めたなら、二人が双子であると悟られないでね。双子でありそうということを否定し、笑いとばしてね。これからあなたが、『黒』を『白』に変え続けてね」と。

「禁断の果実を食べる」覚悟を決めない場合、琉星は琉奈に
「粧子さんからは『嘘をつく』宣言を自分は受けたから、もう一度再検査しよう」と言えばいいのです。
少なくとも、嘘つく宣言をしているのですから、琉星が粧子さんを信じる根拠はありません。
真実(本当の『白』)にこだわるならば、粧子さんとかかわり無いやり直しをすべきでしょう。
それをしなかったことで、琉星は覚悟を決めたのではないでしょうか。

粧子さんの行動がまわりくどいかもしれません。しかし、決断は琉星がしないといけません。
なぜなら、二人の人生は二人のものだからです。
今回では、二人が恋仲とは知られていないから、粧子さんが言葉ひとつ嘘をつくだけで解決します。
しかし、将来的にどうでしょうか?いつまでも粧子さんが守ってくれるわけではありません。
また、琴音の婚約から予想されるように、二人の出生に関して、親族だけではなく、一族外の人間にも知られているでしょう。
二人が恋愛関係にあると判明したときに、親族や他の人間が「仲を裂く」ために秘密をあきらかにしようとするかもしれません。
そんな上の立場の人間が出てきたときには、粧子さんは「守り手」としての役を果たせません。
侍女ではなく、王子さまがお姫様を守らないといけません。
そして、その後の障害は、言葉ひとつで安心や解決ができるほど簡単ではないでしょう。
琉星(そして将来的には琉奈自身も)が、あらゆる手段と覚悟を決めて「守る」ことをしなければいけません。
だから最後に「禁断の果実を」という言葉が出てくるかもしれません。