丁寧に作られた萌えゲ。派手さはないものの音楽、背景、お話、システムなどは丁寧に作られており好印象です。また、ただリアルに作っているというわけではなく、漫画の表現も多用しており、ラブコメディとして楽しめました。
初回版は10周年記念ということで、過去のHook作品を振り返りながらインタビューなどがある冊子や音楽CDがつきます。予約特典で面白いパッチがつきますが、人によっては不評なので、いらないといえばいらないでしょう。個人的には「ギャグ」として面白いとは思うのですが。
序盤の共通ルートが1時間くらいあった後に、特定のキャラを選択することでイベントを見る前半2時間くらいの「選択ルート」。中盤攻略キャラが固定された中、会話選択肢で仲良くなる2時間ほどの「友好ルート」。恋人になってイチャイチャしながらHやイベントを経験する2時間ほどの「恋人ルート」でほぼ出来ています。流れでやらないといけないというわけではないため、毎日少しづつ楽しめる適度な量の作品です。「選択ルート」でキャラを固定して追いかけない場合と、「友好ルート」で好感具合が悪いとバッドエンドになります。クリア展開で、追加のサブキャラ2人のHありの話も攻略できるようになっています。また、追加のおまけページ「コイン王女の間」でシステムボイスやミニドラマが聞けるようになるなど追加のおまけにも工夫がされています。
話は雰囲気ゲーというか、まったりとして空気が流れています。けっこうご都合主義展開も多く、千鳥先輩やゆのかはこの傾向が強いです。逆に、鼎や小春は不思議要素が少ない展開でけっこうグッときます。話自体は、田舎の少年の文隆が好きな女の子のために頑張る話です。文隆自体は特別優秀というわけでもなく、ほんとに等身大の男の子という感じです。性格がまっすぐで頑張り屋で、ここぞという時に相手を思いやって、言ってほしい時にははっきりと男らしい言葉をいってくれます。そういう意味では「カッコいい男の子」で好印象です。ただ、普通の男の子が頑張る話で、漫画で言うなら「GE」とか「初恋限定」みたいな話なので、盛り上がりにはちょっと欠け、目立つ要素は弱いです。
作中で工夫されて美味しい「卵焼き」が登場するのですが、この作品も印象で言うなら「卵焼き」です。腹にたまるほど重くは無いのですが、美味しく食べることが出来、バリエーションに富むという感じです。基本は「萌えゲ」ですが、そこにキャラごとに話をかえて、甘い卵焼きやゴマやシーチキン、ノリが入るなどで細かい味付けが変わることで楽しめる。そんな印象です。
キャラ設定では全然貧乳ではないのに、なぜか胸がない扱いのキャラもいたりするのは、毎度のエロゲヒロインの設定のズレですね。
話自体は丁寧で、田舎の風景がテキスト・背景絵ともにきちんと描かれているように思えました。厳密には、田舎だと後継者問題の過疎化や産業の衰えなどの問題もあるのですが、そういう暗いリアルは漫画ならでは描かず、よいところだけをピックアップして取り上げています(作中で描いていないだけで問題自体は起きている可能性はあり)。もっとも、冊子のほうで、島根県の有名観光地をモデルにしているようなので、世界的なレベルで有名な観光地とセットだからこそ、田舎の問題が深刻でない地域を選んでいるので、問題が発生していない可能性もあります。田舎の学生らしい実習や農家らしい家のつくりをしっかり盛り込んでおり、「田舎の風景を描く」「田舎ゲー」としては良作です。どうも当初の企画では、「唯一生まれた男子」とか「恋咲き神社」関係で伝奇方向だったらしいのですが、あまりに「暗くドロドロする」からということでカットされて、ラブコメ方向になったようです。ここまで丁寧に田舎の風景を描けるならば、伝奇作品にしてもしっかり描けたような気がするので、ちょっと読みたかったのでそこは残念です。
「ガがーン」とか「メラメラ」といった表現や効果が入り、漫画的な表現を効果的に使っています。
キャラCGは主に3人の原画さんで分担していますが、それほど違うというわけでもなく、同一作品のキャラとして許容できる範囲で、魅力的といえます。ただ、個人的には、ゆのかはHシーンにおいてはちょっと微妙だなと思いました。上半身と下半身とのつりあいに少し首をひねったのですが、これに関しては単純に下手といえず、特殊な主人公視点のアングルで描いているために「ずれている」ような違和感をもっただけの可能性もあります。Hシーンの場合、構図がパターン化されることがままあるので、個人的にはこういう「挑戦的」な頑張りは否定したくないと思います。また、Hシーンにおいて、ゆのかは「この構図だと首とか腰とか力いりそうで、体柔らかくないとつらい体位だな」という気がしたのですが、作中でゆのかは成人男性(主人公)にサバオリをしかけることができるくらいの筋力があるようなので、見た目に反して柔軟で筋肉質の設定の可能性もあるので、不可能じゃないのかとも思いました。ゆのか担当の原画家さんはこれが商業エロゲ1作目らしいので、これから「伸びる」ことも期待されての起用みたいなので、これからの活躍に期待したいところです。
声優に関しては、まったりとした田舎の善良な雰囲気を皆が出している好演です。サブキャラまでフルボイスで、まきいずみさんや金田まひるさんをはじめサブキャラを担当した声優さんが名前の無いモブキャラを複数担当しており、軽快な雰囲気つくりに貢献しています。松田理沙さんのまったりした声が呑気な小春にぴったりでしたし、宗次郎役の広末涼さんのコミカルな演技も楽しめました。また、みるさんの鼎は最初「無口キャラ」ですが、Hシーンでの盛大な喘ぎや親しくなってからのかけあいなどの演技はベテランらしい安定感をみせていました。あと、千鳥先輩役の篠原ゆみさんは最初みるさんかと思ったくらいで上品な声が似合っていました。同人「リザイン」のほうでもお嬢様役がはまっていましたし「品のある声」の演技がはまる感じです。
音楽は派手さはないものの良曲です。春の穏やかな雰囲気とちょっとした淋しさが出ています。Ritaさん、茶太さん、Ducaさんとエロゲの音楽の有名歌手がそれぞれ歌って、OPや挿入歌、EDなど歌っています。初回版についているサントラCDでこれらの音楽は聴くことが出来るので、エロゲ音楽好きの人間はこのサントラCDのためだけでも購入する価値ありといえます。
おまけ
・CG/MUSICモード(シーン回想、CG鑑賞、音楽鑑賞がひとまとめ)
・CG鑑賞(差分数枚あり)
小春17枚、璃子18、ゆのか18、千鳥18、鼎17、その他12(その他2、みどり4、菜乃香4、コイン王女2)
・シーン回想
小春4枚、璃子4、ゆのか4、千鳥4、鼎4、その他2(みどり1、菜乃香1)
・音楽32曲
・コイン王女の間(王女の声、王女の間音楽、プチオンリーワ(タイトル変更)、システムボイス集、ドラマショートS、SMEEなひととき(SMEEの作品デモ紹介など)、川波無人独壇場(おまけADV、王女の大切なもの(王女Hシーン))