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xianxianさんのVolume7の長文感想

ユーザー
xianxian
ゲーム
Volume7
ブランド
RococoWorks
得点
80
参照数
2397

一言コメント

良作。ほのぼのとして楽しめる。回収騒ぎもおきていているので入手が難しくなるかもしれません。入手できるなら早めに入手するのがいいかもしれません。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

予約特典でネタバレの小冊子、初回特典でドラマCDと音楽CDがつきました。
プレイ時間は十数時間程度です。良作。シナリオだけなら10段階評価で6~7評価ですね。人によってはあわないなどで5まで評価が下がる人もいるかもしれません。雰囲気を加点する人なら8まであがるかもしれません。
私の場合は、エロやシステム、音楽などの評価も含めて丁寧に作られているので少しあげています。ただ、一部、バグや誤字が残っていたようで、そのあたりのデバッグの甘さが残念なところです。ただし、新興の弱小メーカーの一作目としては水準も越えており、いい出来です。
序章となる「外世界編」、3組の恋人たちの話の「内世界編」、まとめとなる「真世界編」、アフターストーリーの「新世界編」からなります。


(エロ)
梗香4、琴良3、さくら3、由梨江とヴァレンティナ1、由梨江とマリ2。
百合があるなど、シナリオゲームとしてはエロは頑張っています。時々、ヒロインのお腹がぼっこりしてみえたり、肋骨のラインがあったりとロリ風味なところがありました。また、成瀬さんのやるロリ風味のさくらがHで積極的になるところなどエロかわいく、よかったです。
どうでもいいことですが、十丸は初Hで女の子に「口でやって」とか要求するのはどうなのか?と思いました。


(システム)
基本は選択肢を選ぶことで進むADVです。しかし、作中で登場人物がいる場所をMAPで表示できる機能や、メモ帳でキャラ紹介をのぞけることやバックログなど丁寧で細かいシステムが搭載されており、好感がもてました。

(その他)
雰囲気がいいですね。ほんとの悪人もおらずほのぼのとした雰囲気がいいです。
また、横浜が舞台となっているため親近感がわきます。
白黒写真や古い地図では見たことがあるのですが、色がついた百年前の横浜はこんな風だったのかなと思わせ、その綺麗な風景がとてもよかったです。
また、関内や桜木町はこれくらいであるけて移動するんだよねと自分の体験と照らして合わせて、現実と重ねあわせながら楽しめました。

(シナリオ)
物語としては丁寧でほのぼのとしていて悪くありません。しかし、予想外の展開や燃えに分類されるような展開が薄く、盛り上がりに欠けます。また、形式として群像劇をとっていてキャラの視点を切り替えて物語を読む形であるため、主人公・一人称視点で固定された状態ではありません。そのため、プレイヤーが感情移入しにくく、同一視による没入感が弱くなるため、カタルシスを得にくいなどの欠点もあります。そのため、主人公と自分を同一視してゲームを進めることが好きな人には向かない物語です。
「内世界編」だと三組の恋人たちの視点からバラバラにひとつの事件を追いかける形で物語が進むため、視点の切り替わりが激しく、場合によっては読みにくいかもしれません。また、同じ日に別のカップルは何をしていたかを覚えているのなら楽しめるのですが、忘れていると「何してたっけ?」と思い出せず、意味がない物語を読むことになってしまいます。小説だと前のページ戻って確認できるのですが、ゲームだとやりにくいので、その辺が工夫された新システムがあるともっとよかったですね。
後半の展開が少し急なので感情移入しにくいのですが、それほど悪い出来ではなく、カタハネと比べてお、落ちるとはいえ、それほどテキストやシナリオに差があるとは私は思いません。ただ、全体的にカタハネと比べて駄作みたいな評価が多いのでなぜかな?と考えたのですが、カタハネ過大評価されすぎでしょう。カタハネ、特にクロハネ編は悲恋や悲劇的な死が演出もいいですが、シナリオに組み込まれていますから、そのせいで水増し評価あるんじゃないでしょうかね。スマガの「悲劇的な話の方が好まれる」というのあながちまちがいじゃないかもしれません。

また、群像劇のスタイルなのですが、群像劇では登場人物のすべて事件に深い関わりを持つキーキャラクターである必要はありません。
私は入手しやすくて面白い群像劇あげろと言われたら、恩田陸作の「ドミノ」をあげますが、この小説読めばわかるでしょうが、登場人物の中にはしょうもないのもいます。
事件の外側にいて、一般人として別の視点から見えるものを表現することもあるわけです。
例を挙げると火事現場での消防士と救出される人間の事件を外から眺める野次馬を登場人物の一人として扱うこともあるわけです。そうすることで、無責任な人間がどう考えるか?どういう視点で受け止めるか?ということも表現したりするわけです。
ある小説では、ある事件がおきて犯人が暴れたために店が損害を受けた「店主」が群像劇の登場人物の一人として描かれる話もあります。
これらは、「事件の中での登場人物の役割」ではなく「登場人物一人一人の心情」に重点がおかれるわけですね。
この作品での批判で多い、登場人物たちが後半重要な役割をはたさないなどの批判は、そういう意味では的外れではあります。そのあたりは「群像劇」というスタイルを狭い範囲でとらえている人が多いかもしれません。私はこういうスタイルのものもあっていいと思うのですけどね。
ただね、この手の批判が多いことを考えると…「エロゲで群像劇はやめろ」というのが正解かもしれません。私は、エロゲ歴も、読書歴も長いですし、芝居や映画も大好きな人間なので変わったことやられるのは割と平気なのですが、
複雑でごちゃごちゃした仕掛けは理解しにくいからやめたほうがいいかもしれません。
必要な登場人物だけを配置し、メインとなるストーリーを追いかける形式で主人公を固定したほうが観客には理解しやすいですからね。

カップルの恋愛展開がやや速すぎる気も確かにして、そのあたりの演出不足は微妙なところだと思われます。実際には、伏線として、周囲がカップル形成に応援していたりしますから、作為もあるので自然形成なだけじゃないせいもあります。
また、ヒロインたちが、仕事や体、自分の将来に不安をもっているために、誰かに支えてほしい、抱きしめていてほしいという頼りたい気持ちがあるので、恋愛やSEXにはまりやすい心境になっているので、ある意味納得いくところもあります。

シナリオの設定として、未来が読めない「不定因子」が存在する世界という設定があります。これは私たち人間全体がもつものでしょう。未来が読めないからレールから外れることへの恐怖や性同一の悩みや生きることの不安、他人との関わりのずれ方への不安など、そういうものの比喩として使いたかったかもしれません。
ただ、そのあたりの演出がやや不足したのが残念なところです。前半は丁寧ですが、後半は駆け足になっているので、資金やらの都合もあるのでしょうね。
ただ、この独特の雰囲気はよいので、次回作には期待できるので、時間をかけて制作してほしいです。

・主人公の名前で気になるところがありまして、ヒロインが「昨日、今日か」で恋人が「常盤(ときわ・意味:永遠)」。そして憑依されるキャラが「八代(社;神が降りる土地)」ですね。そういう仕掛けがいくつかありそうですね。

(音楽)
挿入歌の「ゼロの軌跡」が一番よかったですが、OPやEDも十分いいできです。また、ほのぼのとした雰囲気のいい、質の高いBGMでした。

(声優)
演技がみなさん上手でいうことなしです。