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xezldwr24さんの時計仕掛けのレイライン -朝霧に散る花-の長文感想

ユーザー
xezldwr24
ゲーム
時計仕掛けのレイライン -朝霧に散る花-
ブランド
UNiSONSHIFT:Blossom
得点
81
参照数
1524

一言コメント

名作に一歩届かなかった良作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

1、未プレイで、この作品をプレイしようか考えている方へ

一、絶対に順番を間違えてプレイしてはならない。
 言うまでもなく、『黄昏』→『残景』→『朝霧』

二、分割作品の割には短いことを認識しておくべき。
 どのくらいの長さで満足するかは人それぞれだと思うが、「3本で1作の長さ」と評する人がいても不思議ではない。ボリュームを気にする人は留意のこと。
 ちなみに、私はかなり速読するほうであるが(読み終わったら音声を最後まで聞かない)、『黄昏』7.5時間、『残景』10時間、『朝霧』8.5時間である。3作計26時間であるが、フルプライス1作で26時間を超えるゲームは沢山ある。

三、多数の伏線が張り巡らされ、それを回収していくゲームが好きな人には向く。
  そうでない人にはお勧めしない。
 論理的にあれやこれやと考えるのが好きでない場合には、プレイが苦痛になるかもしれない。

四、きちんとした個別√があるキャラクターはごく一部であることを心得ておくべき
 出てくるかわいいキャラクターが全員攻略できるとは思わないほうが良い。

五、ありとあらゆるところにネタバレがあるので注意。より楽しんでプレイするなら極力情報に触れないことを強く推奨する。
 公式ウェブページ、OPムービー、攻略サイトなど、他のゲームであればそれほど気にしなくて済むものであっても容赦なくネタバレになる可能性がある。どうしても攻略サイトをみたい場合は、感想と一体になっていない、選択肢のみ記載のものを必要最小限度で見るとよいと思う。未プレイ時に、他者のネタバレ感想を読むことは(このサイトであるか否かを問わず)好ましくないだろう。

 未プレイの人で今後のプレイに前向きな方は、ここより下に記載されている私の感想を含め、これ以上の主観的な情報に触れないことをお勧めする。(ネタバレを気にしない場合はこの限りではないが、本作については諸々知ってしまうと全く面白くなくなるおそれがあると思う)


===以下、3作品を通じた内容の言及あり===


2、分割と価格設定について
 前提として、私は「Limited Trilogy Box」を購入し、3部作をまとまった時間で一気にプレイしている。そのため、約2年半にわたり不完全年燃焼のまま待たされ、また全てを定価で購入したユーザーさんとは異なった心証をもっていることは否定できない。その旨を予めお断りしておく。

 上記の通り、私はBoxを購入しているので、特にストレスを感じることなくプレイすることができた。しかし一般に、作品を分割して販売し、その間隔が大きくなることによってユーザーに「完結するのだろうか」という不安を抱かせることは、適切な販売方法とは言い難い。特に、それほど長さが無いにもかかわらず『残景』と『朝霧』の間隔が2年と比較的長期にわたり開いていることは、「Box」ではなく1作ずつプレイしていたユーザーさんからしたら気が気でなかった人もいるかもしれない。その点を考慮し、私自身に直接の不満はなかったものの、2作目と3作目につき得点を若干減点している。

 なお、私は「分割」という方法をとること自体には必ずしも否定的ではない。作品を分割することによって、文章でいう“句読点”が表現でき作品に深みが出ることもあろうし、現実問題として資金や人材の問題から1作にまとめることが困難な場合も生じるだろう。
 しかし、分割をするからには、1作目から作品を追い続けてくれている人に対するケアはあって然るべきだと思う。単体の価格は、内容に沿った価格設定にすべきである。本作に関して言えば、『黄昏』の通常版が7140円、『残景』の通常版が5880円だが、ボリュームや内容からして明らかに逆にすべきだったと思う。まず『黄昏』だけプレイした人からすれば、損をした気分になっただろうし、そこで作品全体の印象が大きく下がっている気がする。これはメーカーにとっても損であろう。また、何部作なのか、次作はいつごろ発売予定なのか、ということはできるだけ丁寧にユーザーに伝えられるべきだし、それでユーザーを不安にすべきではない。さらに、「Box」を購入した私がいうのもおかしな気がするが、全て単体で購入した人と、「Box」を購入した人の出捐の差がやや大きい気もする。

 分割にするにしても、適正な価格設定をして、販売についてより手厚いフォローをする。それが出来ていれば、多くの人がより高い評価をしていたかもしれないと思う。その点が非常に残念であった。

3、内容について
 3作を通じてみると、とにかく構成が非常にしっかりしているし、話が面白い。この作品の最大の魅力であろう。
 私がシナリオで評価した点の第一は、多くのキャラクターが出てくるにも関わらず、意味のない者が殆どおらず、何らかの形でしっかりシナリオに絡んでくることである。「笑わせるため」「萌えさせるため」「立ち位置として取り敢えず必要だから」というだけで存在しているキャラクターは非常に少ない。それでいて、違和感なく世界観を構成できている。また、各々のキャラクターのシナリオへの関わりはサブキャラクターを含めて強く、萌えゲー色は非常に薄い。だからといってキャラクターに魅力がないわけではなく、シナリオと連動させながら純粋な人物の設定や、思考、行動原理で勝負をかけ、キャラクターの魅力をアピールし、萌えさせることに成功している。シナリオとキャラクターの連関が非常に優れていると感じた。
 第二は、本作は「魔術」という、下手をすると何でもありありになってしまう設定を使っていながら、それに頼り切って強引に話を進めていこうとするのではなく、特査や風紀委員のやり取りを通じて、時に泥臭い方法すら用いながら問題を解決していくシナリオ構成であったことである。シナリオはかなり練り込んだことがうかがえ、非常に重層的で面白みが感じられ、高く評価できるものであった。
 第三に、本作のように多数の伏線が入れ子のようになっているシナリオは、時として読者に対する混乱を生じさせるが、極力それを分かりやすくする工夫がなされていたことである。魔法と時間軸が組み合わさるなど、イメージが難しい部分では、説明用のCGが用意され、頭の中にスッと入ってくるよう工夫がなされていた。また、ややこしくなるような部分では、例えば『朝霧』の真弥のように、特査でも風紀委員でも学園側の人間でもない―プレイヤーに非常に近い立ち位置の―キャラクターを登場させ、プレイヤーの疑問を代理でどんどん質問させることにより、過度に混乱が生じないようにしていた。選択肢の部分では、自分の回答が正しくても間違っていても、その理由と根拠が示されるのも分かりやすさをアシストしていた。これがあれば、自力で良いランクを取ることも十分に可能となっている。さらに、登場が極めて短時間であった夜の生徒が伏線になることも多かったものの、適宜回想を挟むなどしてユーザーの記憶を喚起しようとする工夫も好印象だった。ただ、この工夫が作品をまたいでいることがあり、1本ずつ購入しているユーザーさんからすれば、これで思い出せるのかな、と思う部分もあった。
 第四に、安直な御都合的エンディングにしなかった点も高く評価した。ただ、あのような終わり方をしたからには、どうしても「その後」が気になってしまうのも人情である。私としてはFDを出してほしいが、この3部作はなかなか綺麗にまとまっているので、クラッシャーになってしまうくらいならこのままでいい。なかなか悩ましいところである。

 テキストも、次へ次へと「読ませる」もので、総じてレベルは高かったと思う。ミステリの中には極めて安易な叙述トリックに走るものもあるが、本作はそのような要素は無い。また、主観の切り替えが上手く、極力無駄を排したテキストは、テンポよく読み進められるし、章の長さも適切に感じられ、ダレることなく読み進めることができた。しかしそれゆえに、伏線が露骨に感じられたのもまた事実である。サクサク読み進めていく中で、「おやっ」と違和感を覚えた部分は、十中八九物語の解決の糸口だった。「謎解き」として見る分には、やや工夫の余地ありか。また、伏線の一部は、「もう少し前にはったら良かったのに」と思うものもあった。章だてということもあり、ある章の中ででてきた伏線がその中で解消されるということも多かったが、その幾つかを前倒しすることで、よりダイナミックな物語に出来たのではないかなと思う箇所もある。

 是非ともこのブランドで維持し続けてほしい部分であるが、ほっこりとしたグラフィックや、音楽、悪役たる悪役がいないことによって生まれる安心感、などが相まって、非常に作品の雰囲気が良い。「ユニゾンシフト ブロッサム」らしさ全開だった。

 実質的な唯一の攻略対象であるモー子は、ツンデレの具合が抜群であり、素晴らしかった。なにしろ、最近の「ツンデレ」というのは、結局は「デレ」なのである。モー子は、「保留」という、普通のエロゲーであれば間違いなく「デレ」に崩れ落ちるポイントからも「ツン」をほぼ最後まで貫き通し、決して主人公とイチャイチャしようとはしない。しっかり本来の性格である「ツン」を貫き通している。だからこそ、わずかな「デレ」が非常に可愛らしく、魅力的に映った。それゆえ、「保留解消」のときのモー子の表情には感動を覚えるし、主人公がカッコ良くみえるのだろう。正直なところ、モー子に対して『黄昏』をプレイしているときにはあまり魅力を感じなかったのだが、じわじわと魅力を感じさせる良く練られたキャラクターであると感じた。

 これは『朝霧』の評価に関わることではないが(したがって、『朝霧』の評点とは無関係である)、『黄昏』『残景』で個別ルートがあったキャラクターは、やや掘り下げ不足である。おそらく設定はしっかり作りこんだのであろうから、是非とも個別ルートをしっかりさせて欲しかった。
 また、『朝霧』でオマケのHシーンがあったことは、サービスとしては歓迎する。しかし、その多くが夢オチか夢オチ絡みでネタのようになっていたことは残念で、もう少し丁寧に描いてほしかった。また、リトのオマケに関しては、ifであることはよく分かるが、もう少し背景をしっかり描いてもらっても良かった気がするし、「あり得た一つの可能性」としてより長い話にしてみても良かった気がする。消化不良感があった。
 モー子以外に関して言えば、魅力的であるにも関わらず攻略不可、あるいは個別不十分、というキャラが多いので、上述のように悩みはあるものの、やはりキャラFDくらいは出してほしいかなぁ、と思った。

 総じて、シナリオ・テキストが非常に充実した良いゲームだったと思う。ただ、これだけ色々褒めたけれど、ケチがついた部分はそれなりに影響していて、点数は80点台前半が精一杯である。
 上記2、で記した分割のこと、モー子以外のキャラのルートもしっかり描くこと、などをしていれば、シリーズ全体を通して名作の仲間入りをしていたかもしれないと感じる作品だった。