痒いところに手が届いている。概ね良FD。
『この大空に、翼をひろげて』(以下、『ころげて』という)の本編は、(あえて気に入らなかった所に焦点をあてたので、長文感想は減点した部分をけちょんけちょんに書いてしまったが)物語に深みがあり、楽しめる作品に仕上がっていると思う。しかし、シナリオの構成上、イスカや達也の話はやや記述不足であり、補ってほしい部分もあった。
コンテンツ「ソアリング部ビフォア」「ソアリング部アフター」は、これらの要望にしっかり応え、非常に満足度が高い出来であった。このFDの価値の8~9割はここにあるといってもいいのではないかと思うくらい、『ころげて』の物語に厚みが出て世界にどっぷりと浸ることができた。特に、イスカについては、他のキャラクターと関わりながらその人物像が深く掘り下げられていた点が高く評価できるものであった。
また、『ころげて』本編公式人気投票で2位を獲得したほたる、4位を獲得した佳奈子について、追加ストーリーがあったことも評価したい。FDというからには、ファンの期待に添うものであってほしいと常々思っている。ストーリーの長さや質は、どうしてもビフォア&アフターの前に霞んでしまう気もするが、キャラクターをしっかり描いてファンのニーズに応えていたという点では、及第点だろう。
姉妹2組の3Pは、オマケ程度の扱いである。私がどうしても気になったのは、『ころげて』『ころげてFD』を通して、依瑠単独のルートが無かったことと、FDであげは・亜沙の単独シナリオが無かったことである。
特に前者について。依瑠は、『ころげて』本編の人気投票で第5位、攻略対象キャラ中3番手、全体の8.3パーセントの集票をしていた。人気投票は優勝キャラのみにグッズ開発の恩恵があったこともあり、小選挙区選挙のような状態になり、票が集約されて上位3名で全体の約58%を集票してしまっている。そのような状況下でも100人に8人以上が依瑠に票を投じていたことからすると、依瑠の支持はかなり高かったといえよう。また、投票者コメントの中には、「依瑠を単独で攻略したい」というものが複数みうけられた。『ころげて』本編では、亜沙は単独ルートがあるのに、依瑠はない。そうであれば、FDで補ってあげても良かったのではないかという気がする。その点はファン心理を汲み取って欲しかったところで残念であり、減点の対象とした。
相変わらず雰囲気作りは上手く、新規の音楽もあり、これらには高い評価をした。
『ころげて』本編から大きく話が展開されたり、新たな試練が訪れたりするわけでは無いが、本編を気に入った人にはその世界観をさらに楽しめる作品になっていると感じた。