『水夏』との関連性は低い。
私は、『水夏A.S+~SUIKA~』(以下、「前作」と書く)に自分がプレイしたゲームの中で最高の評点を付けているので、この作品が前作の良さを減殺してしまうのではないか、と不安でならなかった。しかし、前作ほどの圧倒的な心証ほど抱かなかったものの、ゲームとして普通に楽しめる水準の作品には仕上がっていた。プレイ直後であるため、本作を前作と比較して良いものなのかどうかまだ考えがまとまっていないのだが、一応「弐律」ということなので前作と絡めて感想を記す。
本作は、前作でみられたような、「ザ・田舎」が舞台となっているわけではない。村が舞台にはなっているが、背景画からはそれなりに都会化されている様子が伺える。本作の舞台は携帯電話の電波も入るし、駅前はかなり開発されている。前作で感じた、なんともいえないノスタルジアを感じることは無かった。また、前作で作品を引き立てた人間の狂気もなりをひそめていた。作品の大きな相違点といえるだろう。
キャラクター同士の連関、各章の物語の絡めかたはなかなか良かったのではないかと思う。本作では、章の独立性が低く、あってないようなものである。物語は1章→2章→3章…と進むのではなく、1章の途中でいきなり2章がはじまり、章の途中で幕間が入るなど、視点がよく移動する。そして、キャラクターが章を跨いで別の章の登場人物になることも稀ではなく、主要登場人物の人間関係も前作に比して密で、作中で新たに人間関係ができたり、一緒に行動したりする。これが効果的になされているため、次へ、次へ、と読ませるシナリオだった。BGMも、前作ほどの威力は感じなかったものの、シーンにあわせて効果的に使われていたため、物語を上手くアシストしていた。前作の上代蒼司登場も嬉しかった。できれば立ち絵だけでもさやか先輩をみてみたかったところである。
残念だったのは、良い感じで物語を構成してきたのに、ピンチの解決が急転直下にすぎて、随分簡単に片づけてしまうのだなと思ったシーンが散見されたこと。また、名無しの女の子をはじめ、何人かのキャラクターの掘り下げがやや不十分で、思考や行動原理、来歴がよく判らず、感情移入し辛かったことが挙げられる。サブキャラについても、もう少し語ってほしかった。ただ、この作品は製品に同梱されていたパンフレットを見る限りFDの企画があるようなので、そこでのより掘り下げた展開が期待される。さらに、Hシーンが非常に簡単かつ軽かったように思えた。前作は短い中にも神秘性と深い愛情(ないし狂気)を感じさせ、物語の上で重要な役割を担っていたように思えたが、本作はとってつけたように感じるものもあった。
総じて、絶賛できるかというとそこまでは達していなかったものの、普通に楽しめるゲームには仕上がっていたと思う。ただ、全体的にみて『水夏』との関連性は低いように思われた。