「小さな翼だって君となら飛べるはず 幼い日々から羽ばたいていこうよ」―思えば贅沢な作りのALcot作品
GEARS of DRAGOON 3のあと、何をプレイするか迷ったときに、初めてOPを見たときから印象に強く残っていて忘れられなかった、FairChildを手に取ることにした。
本作はまずはOPを見て欲しい。途中に挟まれる台詞ありのOPが、何となくああALcotらしいなあ、と思うのだが、ここの台詞選びが実はシナリオの肝要なポイントを押さえているので、ぜひよく見てから、その台詞がどんな場面で出てくるのか、どんな展開に影響を及ぼすのか、見てみて欲しい。
なお、本作、第一部の「オープニング」のほか、第二部の各ルートごとにカスタマイズされたムービーが作られており、思えば相当凝った作りになっている。
●以下各ルートごとの簡単な感想
・恋鳥:何となく第一部時点から怪しい雰囲気を感じ取りつつ、第一部は一応ハッピーエンドで終わる。そこで終わる作品だって当時からしてそれなりにあったはずだが、ALcotは第二部を作ってきた。第二部はその怪しい雰囲気から見事に二人の関係が険悪になって、恋鳥は声を失う。「お兄ちゃんこそ、本当に私の前からいなくならない……?」という台詞に対して、主人公は十二分には応えられていなかったのだ、ということを否応なく見せつけられる。第二部の最後はALcotらしく、ハッピーエンドでしめるのだが、このルートで「あー、こういう作風なんだ……」と納得できるかどうか。
・とばり:折角恋仲になったのに恋鳥含め皆には隠しましょ、という展開に、またもや怪しい雰囲気を感じつつ、第一部は終わる。第二部はHシーンが多いのだが後半がとにかく辛い。陰鬱とした雰囲気のシーンもあって、学園純愛ものの美少女ゲームでは体験したことのない感触の悪いHシーンだった。
このルートのキーは、やっぱり「不変の愛を誓うことはできませんが、変わらぬ友情を誓うことは、できますわよ」というとばりの台詞。OPでも一番印象深い台詞だったのだが、とばりはとばりで、恋鳥との変わらぬ友情を求めていたから、主人公との関係を伏せようとしていた。もちろん、本当の意味で不変なものなどありはしない。そのことに気付いて、アクションを取れば……。最後は、マグマの大噴火みたいにため込んでしまった結果だけれども、同時に、彼らにとっては、次のステージに進むためのかけがえのない瞬間だったのだと思う。
・こころ:第一部は比較的明るかった恋鳥・とばりとは違って、とにかく第一部からシリアス多め。それもまあ、主人公がうだうだと一人悩んでしまっているせいではあるのだが、それが第二部でも出てくるという二段構え。隙が無いね。でも、トラウマを抱えた子供だからこそ、誰かを頼って良いのだ、という実感を抱くにはどうしても時間がかかったのだろう。
・悠姫:第一部は今で言えばツンデレな感じの彼女の可愛い側面が上手く描写されていたのだが、第二部もそのまま進むのかと思ったら、父親(これも確かに怪しい雰囲気は第一部からあったのだ、門限とか)との確執が色濃く描かれる。しかも悠姫の父親は亡くなってしまい、なお悠姫は父親とのわだかまりを解くことが出来ない。そのやきもきした気持ちのまま、最後のシーンになるわけだが、あのシーンは遠野そよぎの熱演がもの凄い。思わずクリックする手が止まってしまうほどに。なるほど人気投票一番になるわけだ。
・朔夜:全編を通じて一番ストレスなく読み進められた。ある意味彼女だけは、主人公以外のヒロインとのしがらみが弱かったのも影響しているかもしれない。「わたしが、小鳥遊君のつらさを、半分もらってあげる……」。一人ではなく、二人で、みんなで。ややご都合主義のきらいもあるのだけど、これはこれでよい。他のルートとのバランスを見れば、だが。
●全体を通じては、OP曲のFairChild/榊原ゆいが良くゲームを体現していると思う(作詞がシナリオライターの一人である「宮蔵」なので当然かもしれないが……)。一番が割合に前向きでなのに、二番は「傷つけ合う」「痛み」と急にシリアスな雰囲気が醸し出される。そして、最後はまた前向きな雰囲気に戻る。FairChildという作品の全体的な雰囲気はこんな感じだ。(そして、ヒロインの名前が多く入っているのは、二番。)
●しかし如何に2007年とはいえ、第一部・第二部、ルートごとのOP、イメージソング「Purest Days」と、どれだけ豪華な作りだったのだろうか。この頃どうだったか詳しくないのだが、今だとまあ見ない作りだなと、昔を懐かしんでしまった。