ErogameScape -エロゲー批評空間-

winsvr2008r2さんのガールズ・ブック・メイカー -幸せのリブレット-の長文感想

ユーザー
winsvr2008r2
ゲーム
ガールズ・ブック・メイカー -幸せのリブレット-
ブランド
ユメミル
得点
80
参照数
704

一言コメント

ハッピーエンドを「作りに」、一緒に出かけようよ!

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本作は、図書館を舞台にしたメインストーリーと、「マッチ売りの少女」「不思議の国のアリス」などの小説の登場人物を中心とするサブストーリーからなる二部構成的作品である。

メインストーリーが進むことでサブストーリーが徐々に解放されるという仕組みであり、それぞれのストーリーは小話構成となっている。おかげさまで、長時間じっくり腰を据えたゲームプレイ時間が確保しづらい場合でもゲームを楽しめるようになっている。とはいえ、それぞれの小話がバラバラに存立しているわけでは無く、特に「不思議の国のアリス」やルパンで典型的であるが、最終的に一本の織り糸となるようによりあわされていく作りであり、優れている。

全体像としては、デモムービー末尾でテイルが述べる「ハッピーエンドを作りに、一緒にでかけようよ!」というところに集約されるのでは無いか。主人公や、テイル、イストリアや詩織を初めとするキャラクター達は、ハッピーエンドを目指して能動的に行動する。OPムービーでは「ハッピーエンドを探しに」と、どこかにある所与のハッピーエンドを想定した物言いであるが、テイルのこの「作る」、つまりは意識的に自らの行動によってよりよい未来を作りださんという行動がこのシナリオを作り上げている。そこには、ありがちな受け身のキャラクターは無く、ゆえに、多少のご都合主義展開も、単に物語の展開としての不自然なシチュエーションとしてでは無く、むしろ労苦に対する報酬として現在し、読み手にとって違和感なく―寧ろ好感を持って―歓迎されるのである。

全体的なテキストは、多少ご都合主義的な印象を持たせる部分もあるにはあるが、概ね自然にスッと読める。また、7名ものライター、11名もの原画を抱えているにもかかわらず、作風として統一され、極端な違和感を持たせない。その統制された作り込みにはひたすら感服するばかりである。

また、ヒロインも思わず目移りしてしまうほど魅力的である。サブストーリーでもキャラクターの魅力が掘り下げられることで、単に記号をまとったキャラクターでは無く、物語のアクター(参加者)として受け止めることが出来る。欲を言えば、各ヒロインにさらなる掘り下げがあってもよいだろうというところだろうか、それは望みすぎであろう。

これほど多くの多種多様でまとまりの薄そうな題材を、よくぞ一本の作品として纏め上げたと評するべきだろう。この種の多人数ライター・多人数原画家・多人数ヒロイン作品は、しばしば適切なダイレクションを失い、各々についてみれば光る要素があったとしても、一本の作品として観察したときに、そこに貫徹されるべき軸が失われた、バラバラの小さな作品の集合体として我々の目前に立ち現れることが多い。本作はハッピーエンドを能動的に作り出すという行動の軸を各アクターにあたえることで、この種の弊害を回避し、一本の芯の通った作品として提示した。だからこそ、エンディングは主人公も、詩織も、テイルも、イストリアも、プリマもレジスタもみんないる、これからの未来のプロローグたり得るべきであった。そこに必然がある。作為がある。この作品は、その意味で徹頭徹尾作為によった作品であった。これを少なくとも私は好ましく感じるのである。

ゆえに、以上の得点のように評価する。