中途半端なコンセプトが邪魔する微妙な作品
本作は公式サイトに寄れば「LOVE」「H」「異文化交流」の三点がコンセプトであるらしい(*1)。ではそのコンセプトにたがわぬできあがりかというと、これが甚だ心許ない仕様となっている。
2点目のHについてはシーン数もシチュエーションも整えられていて、まだよいのであるが、1点目のLOVEはどうか?「ハプニング&ラッキーによるスキンシップ」というか、初っぱなから好感度MAXどころかヒロイン主導のHで押し込んでくるので、なるほど本作は萌えエロ路線で押し切るつもりなのかと思いきや、シナリオの構成はそうはなっておらず、途中に微妙なシリアス風味を突っ込んでくる。
果たしてそのシリアスも、解決策に至らしめる過程を考えるにシナリオ構成上必須と言いがたいために、ただシナリオ全体にとって異物にしか感じられない。資金がショートして廃校が決まったと思って行動したら実はただの思い違いだった沙良ルートや、実は紛争国の皇女だったベルアージュルート、散々咎められてもHを止められず明らかに好ましからざる結果を招くであろう逢瀬を重ねて終局的にそのような事態に至らしめそうになるアリーゼルート。それぞれ、シナリオの後半部に急に押し込んでくるために、これらの事態を乗り越えて、乃至は、うまくやりこなして主人公やヒロインの変化を促すというのが期待できないし、実際達成できていない。即ち、これらのシリアスは無くても良い、若しくは、必要性が薄い。
3点目の異文化交流も、コンセプトを見て初めて「これコンセプトに入れていたのか……」となるほどにはシナリオ上触れられていない。スタンハールの文化の話はベルの童話ぐらいで、しかもスタンハールの物語ではない。他の転校生はモブキャラなのは差し置いても、シナリオ上殆ど絡まず、アリーゼもベルも日本の文化に一方的に触れるばかりで、交流と呼ぶにはいささか心許ない。主人公がスタンハールに行くシーンはあるが、行ったというごく少ない描写だけである。
そうじて、プロット部分というか、シナリオの構成部分に大きな問題を抱えていることが重大なネガティブ要素となってしまっている。個々のテキストは良質で、故に辛うじて全編を読み進めたが、コンセプト部分が固まりきっていないが故に、上記の指摘をせざるを得ない。
もとより、十分な理由も提示されないままヒロインの好感度が完全にMAXであり、Hシーンも流れに任せるような形で入ってくるのであれば、あまり重要な意味をなしていないシリアス要素を取っ払ってしまっていた方が、好ましく思える。或いは、ヒロインの好感度がMAXである理由を深掘りすれば、シリアス部分に意義をもたらしめることもできたであろうか。二者択一を言うつもりは無いが、いずれにせよ、プロット部分を煮詰めきっていない印象が強い。
全体を総括すると、ヒロインのかわいさはいわゆる中の人の優れた演技と相俟って十二分に表現されているが、プロットに由来するであろう軸のぶれにより、シナリオはコンセプトすら心許ない、好ましからざるクオリティと評さざるを得ない。
*1:「姫と乙女のヤキモチLOVE」, https://www.s-digi.jp/princess-sugar/01-soft/05_himeoto/himeoto01a.html, (2019.06.12)