過去・現在・未来…「めぐとわ」の根幹はここに
◆全体を通じて
「廻るセカイで永遠なるチカイを!」(以下、「めぐとわ」)の発売から4ヶ月経過した後にリリースされた「廻るセカイで永遠なるチカイを!―巡り来る春―」(以下、「めぐはる」)。当初私は2016年冬のイベント展開や、めぐとわ本編での春廻ちゃんの扱いから考えて、マイエンジェルっぽい、ある種純真無垢なヒロインという所を前面に押し出して「めぐはる」を展開するのだと考えていた。
「めぐとわ」自体は確かに多少残念に思われた部分もあるが、結構思い入れのある作品であったので、勿論「めぐはる」も相応に期待してはいたのだが、これほどしっかり内容のある、きっちりしたものとは思っておらず、良い方向に期待を裏切られた。
◆シナリオの構成
「めぐはる」のシナリオについては、次の二点に整理できる。
第一に、この「めぐはる」は、「めぐとわ」の3人のヒロイン(舞冬、深夏、秋穂)とは根本的にシナリオの立脚点が異なっている。
改めて整理すると、「めぐとわ」の3人のヒロインは主人公に支えられて、自らの持つ時間に対する指向に由来する課題を乗り越え、更に今度は翻って主人公の存在と表裏であるカイ(塵塚怪王)を克服するという作りになっている。このベースはどのルートにあっても共通であるが、若干ヒロインに応じたイベントなどが加えられている。
他方、「めぐはる」はそもそもの構造が違う。勿論「めぐとわ」で戦いに参加するはずのない春廻が加わった結果という作中の理屈も妥当するところであるが、春廻の時間に対する指向に着目して考えて見る方が良いだろう。春廻の時間に対する指向は、過去、現在、未来その全てに負い目を覚えている点で、「めぐとわ」の3人のヒロインの凝縮で有り、故に、「めぐはる」は「めぐとわ」のストーリーの根幹をなすものとならざるを得ない。より詳細に説明すると、春廻は過去に対しを負い目を覚えており(この点で舞冬と類似する)、現在に対しては戦闘に参加できず社でただ待つという引け目を覚えており(この点で現在に拘る秋穂に近い)、さらには未来への指向は強い一方で具体的な方策には欠けていて、ひたすらに「きっと明日は良くなる」という希望にすがるしかない(この点で未来に拘る深夏と似ていて、かつ、バイオレンスで直情径行なやり口とはいえ、具体的な方策を持ちうる深夏とは異なる)のである。
そして、「めぐはる」のもう一つ大きな特徴は。那由太はあくまでサポート役で有り主人公として、大きく成長していくのは、疑いなく春廻であるということである。
「めぐとわ」のラスボスは、先も述べたように「カイ」であり、主人公の実在と表裏であるが、「めぐはる」のラスボスは、「玉繭」であり、「長頸眩師」である。この二人については、春廻の次のような特性の裏返しである。
(1) 未来に対する無条件の信頼―玉繭は過去に対する妄執に囚われている。
(2) 本来なら有り得ないはずの恋愛を成し遂げた―玉繭は不可能だった。
(3) 成長することの目標を見いだしたこと―只管に成長のみを追い求める長頸眩師
このように整理してみると、「めぐはる」は「めぐとわ」の根幹をなすものであり、絶対的に他の3人のヒロインのクリア後である必要があった。従って、「めぐはる」が追加シナリオとしてリリースされたことに違和感はないし、これを素直に歓迎したい。
◆テキスト
「めぐとわ」の批評で残念に思っていた、ひたすらにお勤めを繰り返しているとの印象を払拭しようとしているとの印象を強く持った。RPGのシステムの限界もあるとはいえ、各ミッションの前後に多くのテキストを挿入することで、お勤めお勤めまたお勤めとの印象はほぼ消えている。それだけ、春廻のシナリオについて重要視しているとの現れであるとも受け止めた。
◆追加CG、ゲームシステム
追加CGやゲームシステムはどれも「めぐとわ」本編と同様のクオリティである。ただ、累次のアップデートで戦闘システム面は進化している。バランスの全体的な見直しも入っているとともに、捕獲・進化できる妖怪の数も増えていて、遊べるゲームの部分でも進化していて面白い。那由太ハーレム全開である。唯一注意が必要なのは、春廻がパーティに加わった後もパーティの最大人数は変わらないので、妖怪か、ヒロインのどちらかを外す必要があると思われる。
◆最後に
期待以上の出来で本当に満足しているのだが、それ以上に、「めぐはる」全体を通じて、何かを選択すること、それにより失われるものと得られるものということを強調している印象を強く受け、そのことに興味が引かれている。
「めぐとわ」を一見すれば分かるように、この作品は明らかにこれまでとは毛色が違う作品である。原画も山本和枝一人ではないし、そもそも過去の変わりようとは別次元で画風もガラッと変わっている。声優関係も中々従来でぼの巣製作所やStudio e.go!では見なかったようなところが出演しているし、シナリオも「るいは智を呼ぶ」を手がけた人物を連れてくるなど、これまででは有り得ないような「選択」がなされている。そして、次回作の「弓張月の導き雲はるか」もシナリオは続編であるが、原画は「めぐとわ」の系譜の上に有り、声優関係でも「めぐとわ」同様相当大きな変革を感じさせるものである。
こうして考えてみるに、「めぐはる」はでぼの巣製作所ないしStudio e.go!の大変革への決意表明ではないかと受け止めた。「でぼの巣製作所」も「Studio e.go!」もともにブランドロゴを大きく変容させ、このような作品を提示するのである。そうであるなれば、これは決意表明として、次回作以降もずっと追いかけて、でぼの巣製作所・Studio e.go!のありようを見つめていきたいと考えるのである。