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winsvr2008r2さんのそして初恋が妹になるの長文感想

ユーザー
winsvr2008r2
ゲーム
そして初恋が妹になる
ブランド
ALcotハニカム
得点
87
参照数
825

一言コメント

やっぱり心にジーンとくる……キラリ光る作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「春季限定ポコ・ア・ポコ!」「あえて無視するキミとの未来」「サツコイ」に続く、シナリオ:瀬尾順のハニカム文庫系統のゲーム。それだけで否応なく期待が高まる。

【ファーストインプレッション】
「そして初恋が妹になる」ってどういうことだろうと思っていたのだが、全体を通じてみるとまさしくその通りであるわけでタイトルド直球な作品ではある。

【シナリオ】
翼のみルートロック。サツコイのときもそうだったが、このルートロックは必要不可欠だと思う。
他のルートは、どれもちゃんと「せーしゅん!」している。
(1)現実主義だと自認しつつ、やはりこの年代特有の視野の狭さもあり、ある種青臭い理想を強引にでも押し通してしまう田中寧々子のルート。
(2)夢破れてそれでも諦めきれないところを周囲に背を押される形で一歩前進することで、夢を叶える宮本遊花のルート。
(3)出会いの関係性を引きずり、新たな関係性に、「家族」から「恋人」へと踏み込む時谷忍のルート。
このいずれも、スタートラインというか新たな局面を迎えたところでエンディングを迎えている。

翼のルートは、少し異質で有り、このいずれのルートにおいても解決できなかった(ペンディングのままになっていた)、母親とのわだかまりを乗り越え、新たな家族を形成するという構成になっている。このあたりの構成は、サツコイを思い起こさせる。サツコイは「妹」の成長を強く後押しする主人公、と言う構図だったのが、本作では主人公の成長を妹・翼の家族との再会という外部の力を借りることで実現する仕組みとなっていて、対照的で面白い。
翼のルートでアレほど大きなわだかまりを抱え込んでいた母親が小さく見えたという描写はまさしく主人公自らが肉体的のみならず、心理的にも大きく成長したということを顕著に示している。青年から青春期を経て、大人になったのである。だからこそ、主人公は親になるのである。親になれるのは唯一大人なのだから。

【テキスト】
テキスト面ではこれまでの各作品のネタが豊富に積み込まれているため、他の各作品をやっていない人には勧めづらい。反対に、これまでの作品をプレイした人にはあちこちでニヤリと出来る要素が積み込まれている。
なにより、多々良泰然は瑞穂学園の理事長であるし、多々良真奈美は多々良真奈の親戚で有り、田中寧々子は田中流々(「あえて無視するキミとの未来」のサブキャラクター)の妹である。ここまで大きく過去作が影響していることを考えれば、先に過去作品をプレイするのが宜しいだろう。

文体的な特徴であるが、何よりコミカルなシーンとシリアスなシーンがシームレスに繋がっている。ある種ジェットコースターみたいなものだろうか。シリアスなシーンでもコミカルなやりとりがある。これは私にしてみると救いも有り読みやすいテキストだと思うが、人によっては彼方此方に振り回される印象を強く持つだろう。そういったわけで、人を選ぶ節はあるかもしれない。

【キャラクター・声優】
多々良泰然役の一条和矢に「じいちゃん100テラショック!」とか面白発言連発させてるのが最高に素敵。

それはさておき、どのキャラクターもいかにも青春期らしさを体現している。男キャラについては青臭いと言い換えてもいいかもしれない。そして真奈美という青春より低い年齢の視点、泰然という大人の視点を導入しているのは注目すべきだろう。ややもすると青春期という疾風怒濤の時代、迷走し、自らを見失う(或いは確立する)その時代にガイドを設けている意味でも良いキャラクター配置となっているだろう。

声優面ではどのキャラクターも大好きなので問題ないだろう。関西弁ゆいにゃん幼女最高やで。

【システム】
ALcotハニカムのいつものワムソフト吉里吉里2。キーボードショートカットもあるし、便利であり不十分さを感じることはない。なお、修正ファイルがあるので適用推奨。

【その他】
ネグレクトというセンシティブな内容を扱うだけに、真摯な姿勢で向き合うべきだというのはある種その通りだと思うが、それほど不真面目な態度で向き合っているとは思われない。大人へと成長するという過程を「せーしゅん」というのならまさしくこれは「せーしゅん」劇で有り、子供のときに抱えた傷と向き合い、乗り越え、大人へと長じていった過程を描いている。確かに、コミカルな表現は多いが、その端々に見える中身は、真摯さを欠いていると評価するのは早計に過ぎると思われる。

【最後に】
全体的に過去作のネタも多く、ジェットコースターのように振り回される感もあり、さらにはネグレクトや虐待というセンシティブな内容を取り込んでいることを踏まえれば、そのライトな作品タイトルやOPだけから受ける印象とは反対に、万人に勧められるような作品ではないかもわからないが、この作品に含まれる温かさはやはり良いものである。胸にジーンとくるものである。サツコイなどに心惹かれた節のある人には是非ともプレイして欲しいと思う次第である。

【ドラマCDの話】
ドラマCDは本作では描かれなかった真奈美の成長を見ることが出来る。真奈真奈やっぱり格好良いなオイ。詳しいことは是非ともドラマCDを聞いて欲しい。