04年の作品ということを差し引いても中途半端な……勿体ない……
元々ファミ通文庫から出ている文庫版や、パラダイムノベルスから出ているノベライズ版などは読了した上で、思い入れ+OP曲に惹かれてプレイすることとした。
しかし、04年の作品と言うことを差し引いても、全体的に描写が不足気味なのが目立つ。とりわけ主人公の病気の話は最初期を除けば最後部に強引に押し込められているような状況で、結果病気によって理不尽にも二人の中が引き裂かれるという悲劇性が非常に薄まっている。そうすると、前半部の日常描写も、恋愛描写も然程濃密に描かれていない本作では、物語に入り込む前に全てが終わってしまうような印象を受けてしまい、とかく薄味に仕上がってしまっている。
テキストそのものは椎奈のルートを除いて読みやすく、テンポも良いものなので、倦むことなく読み進められるが、それだけにもっと丁寧に描き出しても良かったとの印象を強く受ける。なお、椎奈ルートについては句点があったりなかったり文体が統一されていないために非常に読みづらい。他のルートではきちんと地の文で表現されているような心理描写が、「心の声」として台詞のように扱われているのも理解を難しくさせる。誰か他人が手がけたのだろうと強く推認させるが、句点の有無ぐらいは統一するほうが望ましかろう。
他方でOP曲「遠い背中」やオープニングムービーそれ自体は非常によいものであり、さらにイベントCGでは口パクするのみならず冬場の白い吐息まで再現されていて、実に素晴らしい。
各素材部分を取り出して検討してみると、磨けば良作になったであろうに、というところが目立つ。2004年というとF&C的にはCanvas2(FC01)などをリリースしていたころであることを踏まえても、残念ながら「中途半端で勿体ない作品」との評を免れ得ない。いっそのこと、病気の描写を省いてしまったほうが、まだ良かったかもしれないと考えてしまうほどである。