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winsvr2008r2さんのシュガーコートフリークスの長文感想

ユーザー
winsvr2008r2
ゲーム
シュガーコートフリークス
ブランド
Littlewitch
得点
78
参照数
55

一言コメント

「遠い異国の空の下、僕らは出会う」―発売から時間が経ってからプレイする作品の妙味とは。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

シュガーコートフリークス。OPの初恋CarnivalがElements Garden III-phenomena-に収録されていたことで知ったのだが、OPのアニメで随分と凝った作品なんだなあ、との感触を持って、以来そのままプレイすることなく14年も経ってしまった。
その間に、同じ2010/01/29発売作品では「メルクリア~水の都に恋の花束を」、「はるかぜどりに、とまりぎを。2nd Story~月の扉と海の欠片~」をプレイしており、結果的にこれで良かったのかもしれない(後述)。


●作品概観
本作は賢竜大祭(グラン・フェスタ)までの前半と、各ルートの後半という作りに分かれているのだが、豊富なサブキャラクターは一部を除き後半になるとパタッと姿を見せなくなるところがあり、ちょっと残念。

そして、この構成だと賢竜大祭までのところで早くもルート分岐させて話を決着させるのかと思っていたのだが、実際には分岐は賢竜大祭まで持ち越される。だから、各ルートの山場は賢竜大祭のあとに別口で作られることになる。

ジルルートでは、身分違いの恋といえば、という感じの展開なのだが、彼女の頑張り屋さんなところもよく描かれていて、キャラクターの魅力をよく引き立たせていたと思う。

マリールートは、マリーの出自の秘密に唯一触れるルート。娘を失った母と、孤児であった娘と。一度は母のトラウマが蘇って母を失いかけるも、主人公の力添え(というか、力業?)で取り戻すことができた。手を握るCGが印象的に使われていてて、いやー、ホント、良かった良かった、とホッと胸をなで下ろす展開。

レンルートが一番キャラクターの魅力を描き出すという点では優れていたかもしれない。色恋沙汰に縁なんて欠片も無さそうな、少女というよりは寧ろ子犬のような、レンというヒロインと、どうやって恋愛関係になるのだろう、そう来るか、という感じ。聖堂騎士見習いという役柄から、一番切った張ったするのかな?と思っていたのだが、そこまでには至らず。

珠子(珠姫)以外の3ルートでは、やや悪く言えば、「凡作と佳作の間を彷徨う感じ」という印象。

珠子ルートは、グランドルートという作りもあるのだが、珠子が「同化」の儀式に入って以降が急激にギアが入ってきてグッと引き込まれる。そう言えば賢竜大祭以降他のルートでは一切出てこないライカも登場するのだが、一色ヒカルの演技がまた良い物だった。

珠子ルートが最後に来る作りなので、余韻としては結構良いのだが、他のレビューを読んでよく考えるとあれこれ足りない気もぼんやりとする。そんな感じの作品。

●本作の声優陣は2010年当時を思っても総統豪華な布陣。特にジルは北都南の演じるヒロインといえば!みたいな想像通りのヒロインなのだが、思い返すと意外とこんな雰囲気のCV:北都南ヒロインのゲームをプレイしたことが殆ど無かった。真中海もどちらかというと「空を仰ぎて雲たかく」のローリエのようなお姉ちゃんキャラのほうが印象強いのだが、珠子の雰囲気によく似合っていたと思う。どの作品でも一つは「これは凄い!」という演技のある一色ヒカルの演技は本作でも健在。

●前段でサブキャラクターがパタリと出てこなくなる寂しさを触れたが、クロエ・ライカはまるでヒロインの一員のように公式ページに書かれているのだが、ライカはともかくクロエはイベントCGすらないのはちょっと寂しすぎる印象。エリスやフィオもキャラクターとしての役割が乏しく、折角出てきたのに勿体ない。

●冒頭で、同日に発売された他の作品に触れた。珠子のルートは、この2作品と、特に「メルクリア~水の都に恋の花束を~」と似ている部分、違う部分の両方を意識しながらプレイしていた。
メルクリアも、本作も、以下のように整理するとよく似た作品のように思える。つまり、主人公の出身とは異なる遠い美しき異国(メルクリアは「異世界」だが)で、この美しき環境を守るシステム維持のために「大祭」があり、しかしながらそのシステムには長年の歪みが生じており、このシステムの歪みの解消のためにヒロインが人柱となって自己犠牲を払うが、主人公が新たな突破口を開いて、再会することができる、ということである。
発売延期によって偶然同日の発売になったとはいえ、ここまで似たプロットの作品が2本同じ日に出たというのもちょっと意外の感。
だが、この2作品はプロットは似ているのだが、当然異なる作品となっている。メルクリアの主人公は単なる普通の日本人学生だから、打つ手がほぼ何もない、という感じであるから、寧ろ来たるべき別れの瞬間までを情感たっぷりに描き出し、結果訪れる悲恋を描き、続けざまに奇跡の再会による望外の喜びでシナリオのフィナーレを飾る仕組みになっている。
他方で本作の主人公ハルは、英雄ミナトの息子であるし、元々は剣士であるから、別れの瞬間はさらりといつも通り、寧ろこれまでの出逢いを大切に、この世界を掌る「大いなるプログラム」というシステムから神剣片手に珠子を積極的に取り返しに向かって、結果再会する様子を描き出し、そこにプレイヤーはカタルシスを感じることになる。
似ているようで違うこの2つを並べてプレイする人は案外と多くなかったのかもしれない(本批評空間でのレビューでもその2作品を並べて論じる人は管見の限り見当たらなかった)。だが、プレイ中はたと気付いてからどうにもこの異同が気になって仕方なかった。

また、人は想いを紡いでいく存在だ、という発想は、「はるかぜどりに、とまりぎを。」に似通っていて、ここでも同じ発売日の作品の存在と重なる偶然がある。(もちろんはるとまほどシナリオの根幹をなしているわけではないのだが……)

同日発売の作品のプロットや考え方がこれほど交錯する作品も、というか、発売日も、中々稀少だったのではないか。同日発売の作品を複数プレイしたことはあるのだが(「春季限定ポコ・ア・ポコ!」と「晴れときどきお天気雨」など)、てんで違う作品で比較しようとも思わなかった。偶然にしてもできすぎの感触もある。しかし、こういうことを考えられるのは発売からある程度の時間が経ってないとできないわけで、そういう意味でこのタイミングでこの作品をプレイできたのは良かったと感じる次第。

●ところで、タイトルの「シュガーコートフリークス」の意味は何だったのだろうか……。お菓子のように甘い作風なのかな、と想像していたのだが(OPムービーは見ているので、「そう単純ではないな」とは認識した上でプレイしている)、そうでもなし。ちょっとこの辺は不思議なまま終わってしまった。