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wing_ergさんの君と彼女と彼女の恋。の長文感想

ユーザー
wing_erg
ゲーム
君と彼女と彼女の恋。
ブランド
NitroPlus
得点
82
参照数
559

一言コメント

プレイヤーへの問題提起

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品は、我々プレイヤーへの問題提起であると解釈できる。

 まず、最初の「美雪ルート」で主人公は美雪と「永遠の誓い」を結び、エンディングを迎える。この段階ではプレイヤーは一つのルートが終わったとしか考えていない。しかし、ここで注視すべきは、美雪にとってはそれは我々が現実でするのと同じ永遠の誓いであり、ルートなど存在しない。次の「アオイルート」において、美雪はセカイを改変する方法を知ってしまい、「ルート」の存在に気付く。すなわち、美雪ルートで結んだはずの永遠の誓いが破られたと認識する。ここで誓いを破ったのは主人公ではなくプレイヤーであり、美雪はこの後、アオイを殺して、主人公ではなくプレイヤーを自分のものにしようとする。

 我々プレイヤーは、一つのゲームにおいて数人のヒロインと各ルートで永遠の誓いを結ぶし、この先も多くの作品で誓いを結ぶわけであるが、この作品はそれをテーマとしているといえる。我々は自分に「刺さった」ヒロインを「嫁」などと言ってグッズなどを買いあさる。しかし、ゲームをプレイしていくなかで新たに「刺さった」ヒロインが登場すれば、また「嫁」ができる。人にもよるだろうが、新たに「嫁」ができたとき、それまでの「嫁」たちにわずかでも負い目のようなものを感じたことがあるオタクも少なくないのではないか。たいていは「まあ、ゲームだし」ということで、そこまで深く考えずこの問題を棚上げするだろう。本作は、そんな問題に対してバカ真面目に向き合ったメタ的要素を多分に含む意欲作である。

アオイと美雪という二人のヒロインはそれぞれこの問題について対照的な立場を取る。
まず美雪はプレイヤーが数々のヒロインと永遠の誓いを結ぶことに耐えられず、自分だけを見て欲しいという立場である。それに対して、アオイは自らを「ヒロインのイデア」と表現する。ニトロプラス作品に限らず、例えばゆずソフト作品のヒロインの中にもヒロインのイデアたるアオイは確かに存在している、と言っているわけだ。美雪との二項対立で考えると分かりやすいが、要するにアオイは「確かにプレイヤーは多くのヒロインと永遠の誓いを結び、それは誓いを破ることになるとも考えられるが、どのヒロインにもヒロインのイデアとしてのアオイが同居しているはずで、だからこそ負い目を感じたりすることはない」という立場を取るということになる。
プレイヤーは最終盤で、この二人のどちらか「のみ」を選ぶことになる。注意しておきたいのは、本作は前述の立場のどちらかを正解とするものではない。作中のモノローグでも、二人のどちらかを選び、その選択に責任を持たないことは、アオイや美雪、さらには今まで攻略してきたヒロインたちへの冒涜であると言っている。

本作がテーマとする問題に正解はないが、どの立場を取るにしても、そのヒロイン一人一人に対して真摯に向き合え、ということが言いたかったのではないかと私は考えている。「エロゲってなんだよ(哲学)」と大真面目に考えさせられる作品であったし、それを表現する演出も非常に秀逸なものであった。ここまで作り込まれた演出だったからこそ、プレイヤーに真剣に考えさせることができたのだろう。