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wide-wideさんの僕が天使になった理由 LOVE SONG OF THE ANGELS.の長文感想

ユーザー
wide-wide
ゲーム
僕が天使になった理由 LOVE SONG OF THE ANGELS.
ブランド
OVERDRIVE
得点
95
参照数
1518

一言コメント

主人公(プレイヤー)が幸せな気持ちになれるなら、それが本当のハッピーエンド。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

久々に問答無用で心を抉りにくるようなエロゲーに出会えた。

この物語での恋愛は常に二者択一。
どちらかを求めればどちらかを失う、或いはどちらも失ってしまうこともある。
ましてや、赤い糸の呪縛がある以上、アイネ以外の√はすべて、事実上のバッドエンドと言ってもいいだろう。
まずこの設定からして、既存の恋愛ゲームの価値観をひっくり返すものである。
大前提に「結ばれた相手と別れる未来」が約束された恋など、本来あってはならないものだ。
だが、それらを踏まえたうえであえて個別を用意し、主人公とヒロインに恋をさせるという邪道っぷり。
果たして巴の恋は意味のないものだったのか?プレイヤーに知識を蓄積させるための踏み台でしかなかったのか?
・・・と考えるととんでもなく頭の痛くなってくる話であるが、物語の主題はそこではない。
心を欠いた主人公・巴が、刹那的であれ幸せを感じた瞬間に、物語は幕を閉じている。
ゼロから始まった主人公が、満たされて終わる。
そういう意味では、主人公に自己投影する立場である我々プレイヤーが味わってきたものも、またハッピーエンドではないだろうか。

設定を除くシナリオの総評としては、とにかく読みやすいといった印象を受けた。
オムニバス且つザッピング形式なため、登場人物毎の心情や状況が掴み易く、
「欠片の返却」という形で主人公(天使)サイドを問題の解決に絡めていくやり方は巧いと思った。
主人公も基本はどうでもいいスタンスなので、余計なことに首を突っ込まないし口にも出さない。
それでいて芯が強く、冷静に判断する思考能力を持っており、感情に身を任せて暴走するなどの愚行も犯さずにきちんと葛藤するため、
読み手に近い視点で行動してくれる理想の主人公。
中には徹底的に合わない人もいるだろうが、少なくとも自分はこういう「枯れた」タイプの主人公が好み。

ヒロインでまともなのは奈留子くらいか。
個別のシナリオはありきたりだったが、それ以外の各√において、核心に最も近い立場にいるのが彼女だ。
自然にフェードアウトする他ヒロインの中でも、最後まで一際強く存在感を放つ彼女こそが、この作品における重要なファクターなのかもしれない。

オススメ攻略順はみなもor百合→奈留子→アイネ。
アイネ√終盤での展開が急ぎ足になりがちだったのが減点。