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waravimさんの車輪の国、悠久の少年少女の長文感想

ユーザー
waravim
ゲーム
車輪の国、悠久の少年少女
ブランド
あかべぇそふとつぅ
得点
78
参照数
130

一言コメント

法月アリィが結構好きだったがそっちの掘り下げ不足かなと思った

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

法月編がメインといえそう。しかし単に車輪の夏咲ルートの再演に感じてしまう部分が多かった。
特に追加のエピローグがかなり半端に感じてしまった。
法月将臣のある種人間を見切ったリアリスト的価値観は法月アリィ由来であることがこのルートでは明らかになっている。結局法月自体は面従腹背の道を選びいつしかその価値観に飲まれてしまうわけだが、前作車輪ではかつての自分を超えていく森田に感化されていたことがよりはっきりと描かれ、最後にはエピローグとして打算なしに愛した人を救いに行くことが描かれる。
しかしこのエピローグは単に将臣の自己満足に終わっており、そこに社会の変革の萌芽のようなものを特に感じ得ないため、なんとも半端な終わりに感じた。
何らかの芽吹きがあり、それを森田が育てていくことを感じさせるという終わりであれば納得感があるのだが、結局自己完結してしまうのは、社会構造というのをうまく描く能力がライターにないからなのではないかと思ってしまった。
社会構造をうまく書けないがゆえに法月アリィが単なるヒールで終わってしまっていたように思える。
マイノリティでありながら社会の中で押しあがってきたリアリストという点が魅力的だったので残念。

そこら辺の描写を掘り下げ社会構造を描いていればより、森田や将臣の叛逆にも立体感が生まれたのではないかと思う。掘り下げなく社会の暴力を淡々と描くという点が、かるーすぼーい作品のワンパターン感に寄与しているようにも思える。

ライターにとっては社会とは巨大な車輪であって、それを変えることは不可能であるがゆえに単に個人の意思の輝きを描写すればOKということなのだろうか。