ありふれたメロドラマに思えるけど、でもなぜか心に残る作品
地上げの為に廃駅舎に住むバイトを始める中国人の青年と日本人の少女の物語。
日本人の少女栞奈は妹の手術費用を稼ぐために、景は大学受験をやり直す費用を稼ぐためににバブルの東京にやってくる。
栞奈は妹の手術台を稼ぐために売春に巻き込まれそうになった過去がある。その際に事故を起こし、売春を勧めてきた知り合いを失ったほか、足に二度と歩けなくなるかもしれない怪我を負う。またその知人の死をきっかけに地元に居づらくなり、東京に出てきた過去を持つ。
景の父親は大学教授だったが上下山運動で放逐される。妻は景を産んだ際に他界しており、そのため景の誕生日は妻の命日と重なっており、祝われることがなかった。景はその事実を知らされたのちに勉強のために都市部の親戚に預けられ、いつの日か父親に誕生日を祝ってもらうことを夢見ながら大学を目指す。しかし受験の年にとうに父親が亡くなっていることを知らされ、受験に失敗する。しばらくは中華料理店で働くも、バブルの日本では稼げるということを耳にし、大学受験をやり直す資金を稼ぐために、来日する。
そのような過去を持った二人は、廃駅に住むことによって地上げをするバイトを共に行うことになる。最初は言葉も通じずすれ違っていくが、互いが駅にいる間の時間を正確に記録するためのタイムカードという共通のルール、そして妹の絵美の同棲を契機として、徐々に心を通わせていく。
景の仕事のブローカーである社長さんもかつて漠然とした期待を抱き、違法渡航した過去がある。漠然な期待からかエージェントに「危険だが稼げる仕事、危険ではないが稼げない仕事」の選択を迫られるも景と同じように危険でない仕事を要求する。エージェントはその思いを抱き続けていれば幸せになれるかもしれないと忠言する。
社長は仕事の中で野良猫ティナを拾い、子連れのホステスと結婚する。社長は子供と猫とで広い家に住むために危険なビジネスを紹介してもらい。財をなすも、やがて妻とはすれ違い離婚してしまうことになる。
その娘が佐倉。
序盤佐倉が水商売の女を軽薄とバカにする景に対して「みんな色々あるのよ、あんたも私も」とたしなめたように、それぞれの登場人物に「色々」なことがあったことが様々な契機と共に語られる。
景はこのような出会いを通して、ある種の被害者意識を解消していき、栞奈ともうまくやっていけるようになっていく。
その後、廃駅でオープンカフェをやったり、その売り上げを盗まれたり、派手なパーティーから自転車二人乗りでの逃避行をしたりしたり、地上げの時期が早まって不動産屋に住みながら廃駅に居座るようになったりしてやがて季節は廻り冬へ。
妹の容体が悪化したことになり、予定よりも早く金が必要になりし栞奈はキャバクラで働くことになってしまう。景は止めるも栞奈は愛想笑いを身に着け何とか乗り切ろうとする。
景は夢も持てずに耐え忍ぶ栞奈の姿を前にして、クリスマス、バイトの最終日、ひまわりの種と貯金のすべてを渡し、栞奈は高校に通いながら、二人で働き妹のために背負った借金を返していくことを提案する。
栞奈は誕生日を中国語で祝い、ようやく捕まったティナと共にエピローグ。
景は初めて誕生日を祝ってもらい、栞奈は新たな居場所を見つけハッピーエンドといったところだろうか。
ティナはある種幸せの象徴的な存在で、離婚していくときは持っていかれてしまうし、二人の距離が近づくことでようやく顔を見せるようになるし、二人が苦難を分かち合っていくことを決意したことで初めて捕まる。
全体としてのテーマはねこねこソフトが繰り返し描いてきたもの。
約束の積み重ねが、やがて絆へと変わっていくこと。社会になじめない人間がどう生きるか。人生に降りかかる不条理の普遍性とそれをどう受け入れ前に進んでいくか。そして積み重ねた絆が社会の荒波を乗り切っていくための鍵となるという結論。
今回はそのような「いつもの味」に加えて、新規性のある舞台、ハイレベルなCGや演出も相まってより魅力的な作品に仕上がっていたように思える。
演技
中国語と日本語の織り交ざった独特の対話。最初は本当に通じていないのだが、最後の方は完全に理解しあっている。これはいいのか。。。とも思わないでもないのだが、プレイヤーは常に神の視点で翻訳が見えているというのもなかなか新鮮ではある。
後藤巴子さんの妙に甘ったるい声が出てくるとかなりねこねこ感がある。
結構シャッチョサンの喋り方が好き。
日中合作ということで唯一無二の出来だったし、演出もなかなか力が入っていて面白い。
そういう部分にも偶然の出会いやめぐりあわせを感じて心に残るものがある作品でした。
以下雑感
・妹が着物を着ているのはなんで?ビジュアル重視?(かわいい)
・無駄におまけ向けにSDもあって豪華。
・文革批判めいたことも書いてあるけど、中国では普通に流通している。三体の時も思ったけど中国における言論の自由というのはいまいち謎ですね。。。
・批判があるとすれば、まあ行ってしまえばかなりメロドラマっぽく、「ありふれている」感があまり受け付けない人が多いかもしれない。「ありふれていた日常はいつかかけがえのないものへと変わっていく」のがねこねこソフトの醍醐味ではあるが、このVNの射程は従来のねこねこファンの外にもあるようにも思えるので、このありきたり感がどこまで受け入れられるかというのは問題になるかもしれない。
・生日快乐