ErogameScape -エロゲー批評空間-

waravimさんの千の刃濤、桃花染の皇姫の長文感想

ユーザー
waravim
ゲーム
千の刃濤、桃花染の皇姫
ブランド
AUGUST
得点
80
参照数
422

一言コメント

評価の難しいゲーム

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

萌えゲーとしては全然キャラとのストーリーが足りず、シナリオゲーとしては練りこみが足りないといった印象だろうか。

テーマとしては忠義であったり、為政者の覚悟といったところだろうか。
忠義がぶれているのでは見たいな話があるが、それは忠義というものが絶対的な善として書かれているわけでなく、それが多面的に見られて、検討されていくのが面白いという話ではないだろうか。そもそもこの手のものを無理に昇華したところで怪しげな思想になって終わってしまうだろう。

つまり「為政者は一度命じた以上、最後まで覚悟を持って動かねばならない」、「一度は祀り上げられた偽りの君主がそれでも信じている国民の為に答えようとすること」とか、民主主義においては「努力して権力を勝ち取る」ことでむしろその権力を横暴に用いることがともすれば正当化されてしまいがちであるとか、権力・君主の様々な像が多面的に描かれ、そしてそれに対応する忠義というのが描かれるのが本作の面白いところだろうか。

忠義とは為政者・主君が覚悟を示すのであれば、それに全力で答えること。逆に言えば覚悟示されていないのであればそれは諫める、では覚悟とはどこで判定するのか?というとそれは自身の中に積み重ねてきた価値観であるというのが本作での忠義の描かれ方だろうか。恋愛が持ち込まれ過ぎていて判断がブレブレにも思えなくなかったのが何とも評価しがたい点である。

あとは結局のところ、忠義というよりかは、結局のところ、「自分が積み重ねてきた経験こそが人格や思想を成しているのであり、それを安易に否定せず、尊重することに人間の気高さが表れる」といった思想が描かれている節もある。これは割とオーガストのゲームで普遍的に描かれるテーマにも思える。

最終的には朱璃への愛があったことで主人公は帰還でき、大団円につながるという恋愛ゲームらしい王道展開で、それなりにすっきりまとまっていた気もするが、忠義を描くには分岐するシナリオが致命的に相性が悪いのではとも思えなくもない。

不満点を上げ始めればきりがない気もする。結局世界設定がイマイチ練りこまれていないように見え、ツッコミどころが満載のゲームになってしまっているように見える。世界設定にいちいちツッコミを入れたくなる人間には致命的に評価しがたいゲームになっているのではないだろうか。
またタブレット等がある世界観というのが全く活用されていないような印象で、タブレットがあるならば、盗聴・監視カメラの類を気にして立ち回る描写があっていいはずなのだがそういったものが全くなかった。
近代兵器が出てきたのもまあ刀と硝煙を出しておけば「バエる」からといった印象が強い。似たような設定の装甲悪鬼村正なんかと比べたら全然作りこみが足りないだろう。
アイドル設定とかも必要だったのか完全に謎である。

他にも、ハードなストーリーを描くには大人が不在過ぎたように思える。学園に通う人間がほぼすべてのストーリーを動かしているのもかなり不思議に思える。
主人公の周りの人間があまりにも都合よく死ななすぎるし、小此木の采配もあったのだろうが、あまりに主人公の周りに対する追及の手が甘いこと、それに対してあまり主人公やその周囲が気にしていないのは何なのかという印象。

色々と不満点はあるのだが、キャラクターの魅力である程度読めるものになっていた印象。一方でシナリオ、キャラゲーとして単体で評価するにはなかなか難しいので、どちらかが好きな人に勧められるかというと?である。
奏海ちゃんみたいな、一見祀り上げられた無力な被害者に見える人間が芯を持って物事を動かしていくという展開が好きなので、個人的にはベストキャラクター。古朴音みたいなつまらんギャグを言うキャラクターもとても好きなのでこの二人がいたことで80点に落ち着いたといったところ。