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waravimさんのファタモルガーナの館の長文感想

ユーザー
waravim
ゲーム
ファタモルガーナの館
ブランド
Novect(Novectacle)
得点
70
参照数
466

一言コメント

冗長で恋愛中心の展開に辟易としてしまった

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

傑作と名高い本作だが全く合わなかった。他の人も指摘しているが悲劇をベースとしながらも、全体的な恋愛・ハッピーエンド至上主義みたいな部分が鼻につき物語が単調で冗長に思えてしまった。加えて伏線・文体といった技術的な部分でも不快没入感や予想を上回る展開というものに出会うことができず、総合的には早く終わってほしいと思っていた時間の方が多かったというのが正直な感想だ。

各章の感想を順に述べていく。

一章はヤンデレの妹に愛され過ぎて困るという話でまあこのような系統の話は、基本的には好きなだが、話としては新規性もない。プロローグであるため多少は興味をそそられる部分はあったのだが、結局明らかになる事実はあまり意外性のあるものではなかったように思える。

二章も「べステアは本当で人であった」という認識逆転があまり効果的ではなかったし、極めてストレートな恋愛描写は退屈だった。

三章のすれ違いによる悲恋というのもここまでの流れから言ってマリーアが実は悪意を持っているのだろうなということが容易に想像できてしまうため、予定調和的展開を待ちつつ、DV描写を見るだけとなっており面白くはなかった。

四章はこの作品における転換点であろう。話自体はごくごく単純な悲恋ものである。相手に触れないという設定は多少目新しさがあって面白かったかもしれない。

総合的にはここまでは館に関する謎がインセンティブとなってそこそこに楽しめた気がする。

一方で五章の女中編は特に退屈だった一章。素朴なヒロインに次第に絆されていく主人公という構図はあまりにもテンプレートすぎて、感じ入るところがほとんどなかった。

また六章のミッシェル編もトランス男性の話を扱う部分は新鮮な気持ちで読んだものの、性器がついていないという設定もあって同性愛であったりジェンダーの問題などの重い問題からやや主題が逸れている印象も受け、イマイチ何がしたいのかよく分からなかった。

七章に当たるべステアの真実も六章の魔女狩りの話のリフレインに思えてしまい、もはや新鮮味を以って受け取ることができなかった。

そして最終章の八章もわずかな齟齬が悲劇を呼んだという話が繰り返しなされるだけで、非常に冗長に感じた。

以上のように最初こそ悲劇をそれなりに新鮮な気持ちで受け止められたものの、読み進めていくうちに同じテーマのリフレインが鼻をつき、だんだんと飽きていってしまった。

全体を通して二点ほどまず技術的な観点が気になった。

まずノベルゲーのひとつの醍醐味である、伏線の回収について。本作は全体的にこの部分でのカタルシスを与えることを意図しつつも失敗している印象を受けた。特に事前に出す伏線だったり推理材料が貧弱で、後出しじゃんけん的に感じる機会が多かった。

本作の大きなトリックはクリア後のバックステージを見るに「主人公がミシェルであった」という点らしい。これについては特に事前にそれを示唆するような情報が十分に与えられるわけではなく、4章で出てきたキャラが唐突に主人公として転換していくというだけであり、何の驚きもなかった。そしてもう一つは主人公がトランス男性であったという話も大きなトリックのひとつだろうか。こちらについても後出しじゃんけん的でイマイチハマることができなかった。

もう一点は文体の問題だろうか。ところどころに入る「ウザい」といった若者言葉風の言い回しが現代風で没入感を一々損なう。例えばAIRのSUMMER編とかはもっと舞台設定の雰囲気を損なわない文体を使っていたように記憶している。もっとも古代の話だからといって、古代風にしゃべるとは限らないし、本当に正しい考証をしたらそもそも日本語にはならなく、日本語でも本当に時代に合わせた言葉遣いをすれば解読不能になる。よってこの辺は好みの問題でもあるのだが多少古風な言葉遣いをしようとしているところに妙に砕けた言い回しが挟まるために、統一感のなさのようなものを感じてしまった。(例えばマーリアのような貧民出身だとたまにおかしな言葉遣いになるとかだったら分かるのだが、ミッシェル含めてすべての登場人物がそのようなちゃんぽんな文体で喋るのが、重厚な雰囲気を壊していたように感じた。)

あとややに気になる点として中世ヨーロッパを舞台にする本作において「転生」という思想がすんなり受け入れられていることにやや違和感を覚えた。キリスト教なら復活はあっても輪廻転生はないのではないだろうか?(調べて見ると、初期キリスト教にはあり、辺境部などでもみられた思想のようではある。輪廻思想自体はいろいろな原始宗教に見られるものであり、別にすんなり受け入れられるのはそこまでおかしくないのかもしれない。とくにユキマサはアジア系の移民なためこの思想を自然に受け入れるのは不思議ではない。一方で修道院とかまでで割とすんなり受け入れられているのはやや違和感があるかもしれない。)

色々と悪い点を挙げたが、本作の良い点としては、美術面や音楽面のオリジナリティが挙げられるだろう。もっともノベルゲームではあまり見られないというだけで、他分野においてどこまで評価できるものなのかについては筆者は判断を下せない。

嫌いではないが好みでもなかったため、この部分で以上に述べたような低評価が覆ることがなかった(むしろ文体の問題でアート部分の作る重厚感が破壊されていたことに悪影響を感じた側面すらある。普通の萌え絵でこの作品をやっていたらまた違った印象を覚えるかもしれない(白昼夢の青写真なんかはそれに近いかもしれない))