ダークでポップなギロチンシティでの日常を愛するゲーム。雰囲気も良く、最初から引き込まれ、だんだん住人たちの物語が繋がり合っていき、終盤でしっかり盛り上げてくれた。最高のゲームだった。
『うさみみボウケンタン』が面白くて、そのままの流れでこの作品に手を出した。本当に面白かった。今までのLoser/s作品の面白さを引き継ぎつつ、そして大きく「うさみみ」を遊んでいてよかったと思える、そういう面白さだった。ここまで遊んでよかった。
最初の3日間でいきなり水星が滅ぶ。ムジュラの仮面だ、になる。でも、その時点で物語の導入として完璧で、ワクワクした。チュートリアルでまず、主人公が音楽を奏でて人を特定の気持ちにさせる魔法の使い手だとわかる。その魔法は足し算さえわかればプレイヤーが簡単にできるものだ。その魔法を使ってギロチンシティの住人を満足させて様々な話を聞いたり、物を貰ったりする。
そういうチュートリアルを経て、水星が滅ぶ。「日常を愛してくれ」というメッセージを受け取る。そして主人公が、水星が滅ぶ謎を追ってガツガツするより、いつも通りに楽しく生きようって言う。そういう風なコンセプトで始まるのだ。しかし、ギロチンシティのアングラな雰囲気や、3日間で水星が滅ぶなんて、なんという非日常だろうか。その中で変わらない毎日を謳歌するなんて、すばらしく対比が効いている。
さてゲーム性の話だ。
3日間を繰り返す、そして1日にできる行動は限られている。1日あたりのAPは5個。これを指定数支払って行動する。1日にできることは、住人を楽しませるために音楽を聞かせる(2個)、すでにクリアしたミッションをスキップする(1個)、その他いろいろ。音楽を聞かせるイベントは、どの音楽を聞かせるかによって結果が変わる。失敗すると、2個無駄になる。失敗すると住人に「なんか違うんだよなぁ……」とかいう、クリエイターをイラつかせる定番のセリフを言われる。もうAPを失って絶叫する。それで1日を失おうもんなら尚更だ。でも3日は繰り返されるし、ゲームを再起動するのも面倒だ。無限回繰り返されるなら気にしなくていいじゃないかケセラセラ。
ところで住人は、1日の頭に流す音楽によって変わる。街に流れる音楽を最初に3つの中から選ぶ。BGMを選択→住人にアタックという感じだ。これだけで選択肢がかなり増える。最初のうちはやりたいことが多くて大変だった。
さて、ミッションをクリアした住人は情報を要求してくることがしばしばだ。しかも、音楽を隔てて要求してくるから、1日の中で済ませるなんてできない。何度も3日間を繰り返して試行錯誤する。
このようにして3日間をとにかく繰り返して住人を楽しませて情報を聞き出していく。だんだん住人同士が情報によって繋がっていく。こうやって点と点が繋がり線になり、線が組み合わさって面になっていくのはとても気持ちよかった。そして水星を滅ぼす犯人へと辿り着いていく。
この中で興味深いイベントがいくつか。このタイムリープを仕組んだ人物がおり、その背後には『うさみみボウケンタン』のナイア、バナナオイル、うなさかがいるということだ。OPでチラッと見ていたが、まさか、と。びっくりすると共に感動した。
「うさみみ」の外伝でバナナオイルと獅童宗谷が同一人物だとわかっているだけに、本当に痺れた。そして「うさみみ」のマスターとうなさかの関係が、本作の主人公とメカニカの関係とパラレルというのも驚きだ。最高だ。
こうしてラスボス戦へと辿り着く。今まで身に付け、住人から受け継いだ思いで戦うのは本当に楽しかった。その直前に主人公たちがプレイヤーを巻き込んでくれたんだから尚更だ。
一度負けてしまうが、その先でうなさかと再会した(それはプレイヤーがマスターとして)シーンは泣きそうになった。もう感謝の言葉しかない。
そして流れるバンバードのアレンジ。この作品はフリーBGMの使い方が本当に上手だと思っていたが、バンバードをここまで盛り上がるシーンで使ってくれるなんて。
最初から最後まで、このようにして楽しませてくれた。とても良い作品に巡り会えた。
そもそもSF要素が好きだ。その要素をうまく取り入れてある時点で大興奮。そしてなんとなく遊んでいたLoser/s作品の各要素を使っていて更に好きになる。一々琴線に触れてくれるんだよね。
更には、住人たちにも好きになれるやつが多かった。個人的にはクトゥルフさんとか、酔っ払いとかが好きかな。あとはブラウン管の中でほんの少しだけ出会った人たち。なんとなくSessions!! に出てきた探偵たちを思い出して温かい気持ちになった。
この作品は背景のキレイさで雰囲気に良さの土台を作り、センスのいいフリーBGMの選び方をして底上げして、さらに最高のシナリオで演出してくれた。かけがえのない一作だ。