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walnutさんの徒花異譚の長文感想

ユーザー
walnut
ゲーム
徒花異譚
ブランド
ANIPLEX.EXE
得点
85
参照数
89

一言コメント

幻想的な雰囲気、物語の入りから様々なモノを暗示しつつも、それぞれの終わり方が等価のように感じられる描き方にもっとも惹かれた

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

何から話し始めるべきでしょうか。
『徒花異譚』はANIPLEX.EXEのコンセプト「ノベルゲームだから、おもしろい」のもとでLiar-softが作った作品ですね。参画しているクリエイターは同ライアーにて「フェアリーテイル」シリーズを作った方々でしょうか。女性主人公で、幻想的な雰囲気なのは、そのクリエイター固有のものなんだと思います。

開幕すると列車の中で、読み手である人が出てきて、対面に座った男と雑談する様子が描かれます。そして対面に座った男が大切に抱えている本、「徒花異譚」を読ませてもらう、という感じで始まるのです。そして閉幕には、男が「徒花異譚」を読み終わり、その感想を作者である相手に伝えるという形式になっています。
作り手と読み手のメタファーは明らかなので、ここで注目すべきことは次のことでしょうか。
「徒花異譚」の主人公はヒロインたる白姫であり、決して作り手の男が知りえないところが含まれていること。この物語はその時点で想像の産物なのです。
だから、実際に作中作であり、かつ本編であるものが始まったときに、ちょっとした違和感があるわけです。すなわち、三人称的に語られる「白姫」が主人公であったこと、これは期待されていて一人称で男が語るものでなかったこと。このシナリオに三人称が適しているのはそういうわけでしょう。そして三人称的であるからこそ、プレイヤーである私たちとノベルゲームの距離を示せている。

そして、おとぎ話が描かれた絵草子の修復という感じで、白姫と黒筆が物語に介入していくという、そういう物語という入れ子構造になっているのに気付かされます。更に、白姫が存在しない記憶を取り戻していく、つまり物語外、現実を繰り返し暗示している、メタ構造がここにもあります。結論から言えば2重の入れ子になっていただけの話なんですが、それだけじゃなくて、それぞれの入れ子にも意味があるのが面白いですね。
つまり、白姫が選択肢によって物語に介入できるとき、どのように動かせるかは、ノベルゲームを動かすプレイヤーに委ねられるところ。これはわかりやすいメタ構造ですが、よくできていると思います。二重の入れ子が同時に作用する瞬間です。
さて、このポイントをもう少し突っ込んで見てみましょう。これは、作り手である青年がどのように物語を作ったかにかかわります。青年は少女が病に伏せってうなされている傍らで物語を編んでいます。これは少女がこういう夢を見ているのだろうかと考えながら書いているのでしょう。ならば、物語に真に介入しているのは、読み手である私たちではなく、作り手である青年の方ではないだろうか。
白姫が選択肢によって物語に介入するということ、その選択はプレイヤーに委ねられているということ、これをどう捉えればいいのでしょうか。

ここで、ノベルゲームというメディウム自体に目を向けてみます。そもそもプレイヤーは選択肢によって物語に介入できるとしても、どのように介入できるかは既に作り手が定めてしまっている、というポイントです。
私たちプレイヤーが、エピローグで「徒花異譚」を受け取った時点で物語は完成していますし、それでもなお物語は私たちに委ねられている。この時、読み手は作り手であるかのように振舞える。だから、読み手は、作中作「徒花異譚」を読んでいる間は、作り手である青年にもなっている(しかし、物語はすでに完成している)。以上のもどかしさが、白姫が選択肢によって物語に介入する瞬間に描かれているのです。

ANIPLEX.EXEのコンセプト「ノベルゲームだから、おもしろい」というのに対し、ノベルゲームというメディウムに挑むという形で応えた、そういう作品だと私は感じました。