良い意味で香ばしさが堪らない作品。
作中のトリックが面白く、宇佐美vs魔王の対決を最後まで堪能できた。続きが気になるので、ダレることなく読める。
燃える展開なので、魔王の正体については、先を読めていても楽しめる内容だと思う。
だが、ミステリーノリに馴染みがなければ、全体的に少し茶番っぽく感じてしまうかもしれない。
作風といえる「中二的香ばしさ」を楽しめるかどうかで、評価が分かれる。
エロゲーながら、最終的に映画のようなスケール感になる手腕は見事。とくに5章からクライマックスまでの怒涛の展開には胸が躍った。
読了後には大作をやりきった心地よい満足感が得られる。
しかし、展開が全く気にならなかったという訳ではない。違和感を覚えた点を挙げると。
・絶妙なタイミングで発生する京介の頭痛
・絶妙なタイミングで発生する京介母の死亡事故
・最期に突然キャラ変する権三
・魔王によって未成年たちが暴徒化
・ラストに娘が登場
各々物語を盛り上げる為の展開なのはわかるが、いかんせんやり過ぎ感が否めない。
それと「G線上のアリア」を弾く、宇佐美を最後まで見れなかったのは心残り。
ラストは安易に希望の象徴である子供をだすよりも、出所した京介が念願であった彼女のヴァイオリンを聴く方が、終わり方として相応しいと感じた。
宇佐美以外のヒロインは正直おまけと言ってもいい内容だが、見所がないわけではない。
花音√は、彼女の母による毒親描写が妙にリアルで舌を巻いた。只怒声と暴力による浅い虐待ではなく、じわじわと子供を追い詰めていくタイプ。こういう自分の願望を子に押し付ける親っているよなと共感してしまった。大抵は無自覚にやるのでタチが悪い。狂気的な図々しさも解像度が高いと思う。
最終的に嫌いだった母の為に、祈りを捧げて滑るシーンは尊くて感動した。
悲劇なのに美しさもある。本作で一番好きな場面かもしれない。
花音自身も母を甘やかしていたと自覚するので、成長も感じられて良い。
逆に白鳥√は蛇足に思えた。仲を深める過程が薄いのにも関わらず、急に数年経ち彼女が別人化するので違和感が半端ない。
更に失踪した時田が自首するという内容で、わざわざ個別でやる必要があるのか疑問。メイン√での時田による立てこもり事件の方が、よっぽど完成度が高い。
スケールの大きさが上手く機能していた名作。それだけにラストが惜しかった。
作中から漂う香ばしさを存分に楽しもう。