臭い青春ラブストーリー。話の筋だけ追うと凡庸で粗い部分もあった。しかし構成が良く、イラスト、音楽を含めた、総合的な完成度でカバーしている。2次元的表現は抑えめで、どちらかと言えば国産ドラマ(携帯小説)のような内容。はっきり好みが分かれる作品。雰囲気が好きなら楽しめるかな。
構成が素晴らしく、ユキを終点とした枝分かれシステムは、作品の主旨にも沿っていて良い。
ユキとタッグと組んでヒロインを攻略していく流れも良いし、当のユキ√では夏未と共に彼女の秘密を探る展開になり、最後まで中ダルみせず楽しめた。全体の尺もベストだと思う。
ユキは終盤までプレイすれば、大半が好きになると断言できるイイ女。本作は実質彼女の1人ヒロインと言っても過言ではなく、その期待を裏切らない魅力的なキャラになっている。
だが、他のヒロインも決しておまけという訳ではなく、どの√も後味の良いさっぱりした内容で気持ちが良い。
中でも、まりか√が好みで、最初は元カノという立場に甘え、振り回されていた印象があったが、自立して海外に行くラストは成長が見られて感動した。
他にもバットエンドが印象深く、リサ√では、最後の台詞である「何かも忘れてしよう」からタイトル画面の「この世界には忘れてはいけないものがある」と繋がる小粋な演出がたまらない。
また、学園ものエロゲとしては珍しく、学年は3年で攻略ヒロインは全員同学年。変に先輩後輩キャラをだしバランス調整をしない点は好感がもてた。
そして、本作の舞台は渋谷がモデルとなっているが、都会の喧騒と作品の雰囲気が見事に調和していて良かった。大都会を舞台にしたからこそ、ユキとの出会いがより映えたと思う。
言うまでもなくイラストのクオリティが非常に高い。立ち絵のバリエーションも多く、ヒロインの私服が2パターンある点に感動した。服装もエロゲにしては珍しく、シックなカジュアル系で統一されている。
ムチムチとしたエロCGは好みが分かれるが、作品のリアル志向には合っている。肉感が伝わるダイナミックなイラストなので、ヒロインによってはとても学生に見えなくなるのが欠点。
音楽はメインテーマと言える「Insomnia」が作品の切なさをより際立たせている。
主題歌は「ラストタイム」の完成度が高い。本作はしっとりとしたバラードが似合う。「車窓の歌」も曲と歌詞は良いが、歌唱力が足りていないと思う。
本作の難点として、主人公にとって都合良く話が進み過ぎる点が挙げられる。
周りの人間は不自然なほど聞き分けがよい。とくに雅史は、抜群の距離感を保った空気読みスキルと善い奴ぶりに、好きを通り越して恐怖を覚えた。大半は主人公の思惑通りに話は進むし、彼が嫌な奴と感じた手塚はコテコテの悪人になる。
また、悪魔の契約という部分も粗が多く、ご都合主義的なものを感じてしまった。主人公が再契約した際の、ユキの受け入れの早さも違和感があり、悪い意味であっさりし過ぎている。
そして本作はスマホが登場している点から、発売年である2017年頃の現代が舞台と思われる。しかし「チーマー」「オシャンティー」「ばいび~」と言った当時からしても古臭いワードが見られ、些細な事ながらも気になってしまった。
切ないラブストーリーが好物なので、ご都合展開はあったが最後まで楽しめた。青臭いは本作にとって褒め言葉だろう。