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vostokさんの水仙花の長文感想

ユーザー
vostok
ゲーム
水仙花
ブランド
FLADY
得点
85
参照数
3391

一言コメント

挑発的な売り文句に乗せられて何気なく買ったらすごいゲームだった。Forestでエロ方向に突っ走ったような変則ゲー。行間が豊かで、ヒロイン達の言葉や絵の裏から、大切な言葉が倍音となって響いてくる。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

水仙花が終わったので、今までの分をプレイ日記風に並べておきます。

(2006年1月7日)
 テキストがほとんどヒロインの短いセリフだけでできている、という変わった構成。これは従来目立たないエロゲー主人公の、さらなる透明化なのだろうか。ときどきプレイヤーとヒロインの距離感が狂い、ヒロインがこちらの思考まで説明してしまうような、主客の分化があいまいになって相手に呑まれてしまうような感じになる。一文一文がとても短いためか、ヒロインが電話の受話器に向かって話しているのを横から聞いているような気がすることもある。もちろんどちらもときどきだけど。

 Hシーンでも大半がヒロインのセリフ。しかもそれがみさくら語を韻文化したような、リアリズムから程遠いおバカでふしぎなものになっている。変な例えだけど、まるで宗教儀礼やフォークロアにおける祈祷文や呪文のような、あるいは、原始への回帰、音楽への回帰を目指したモダニズム文学のような、楽しい電波や卑語ポエム。逆に、Hシーンを誰か第三者に見られているような気がするときも。
 大げさなことを書いたけど、とりあえずエロゲーのライトユーザーにとっては結構経験値が高いと思う。フタナリ×ショタHなど、抜く抜かないはともかく、セリフごとにプレイヤーの視点があっちこっち飛びまくって(正確には私が勝手に飛ばしまくって読めて)面白かった。あえぎが少なめなので抜きにくいけど、読んでいくぶんにはけっこう面白いです。

 ストーリーの全体はまだ見えないけど、シナリオはメタ視点による中断や断片化がけっこううまく入れられていて、この先の展開が楽しみ。「ヒロイン」は他のヒロインたちとの関係において、主人公の清らかな分身的役割を果たしていて、そのため主人公も彼女をどう扱っていいのかもてあまし気味、という感じでしょうか?なんだか形而上学的ですね。この先ではあまり普通のカタルシスに囚われないような変態的な展開を期待。というか、多分面白いのは過程なんで、アンチクライマックスで終わってもいいです。

 絵のタッチは「腐り姫」のようなべったりしたもの。特別際立ってはいないと思うけど、あえて言うなら、ミュシャを萌え化した歪なアール・ヌーヴォーを思わせる。話も室内が舞台だし。
 トリッキーなテキストのおかげで、絵にキャラの魂が入ったり、絵から魂が抜け出てしまうような感覚を味わった。

 ここまではかなり誉めてきたけど、つまらないセリフや寒いギャグも普通のエロゲー並にはある。芝居がかった言い回しはいかがわしく、そのいかがわしさが戦略的なものであるとはいえ、どちらかというとすべり気味な場合が多い(追記:すみません、けっこう楽しいです)。あと、処女と相思相愛になるというような普通のエロゲー的なモチベーションがない(?)ので、進めるのはかなりゆっくりしたペースになってしまいそう。
 まあその辺には深くはつっこまず、この先も楽しみながら進めていきたい。



(3月18日追記)
 久々に水仙花を実用的に使用することができたので記録しておこう。Hシーンが多くて中身が充実しているのにもかかわらず、このゲームではなかなか難しいのだ。
 絵は下半身がいまいち丁寧ではなかった。しかしあの小夜が足を開き、小夜と交わっているのだと思うだけで感慨深いものがあるのだ。水仙花では言葉を信用できない場所があるように思う。感じてないらしいそぶりや冷淡な眼差しは、それが確からしいほどに、逆に一体になれるような気も漂わせる。特に小夜の場合には。そういう幻想を肯定してくれる作品だと思う、水仙花は。だからHには達成感があり(抜けなかったとき寂しさもちょっとあるが)、その後にむなしくなることがない。



(4月30日追記)
 少女王国の復興を見た。最後まで辿り着く前にちょっと一息。
 ある程度予想できたとはいえ、ラストスパートがすごい。今までが抑えすぎですよ。というか、抑えてたというよりは変な方向に爆走してたのかもしれないけど。とにかく、野心的。『未来にキスを』や『Forest』も可愛く見える。そりゃあもちろん理論的な厳格さや優等生的な終わり方もいいけど、こういうハッタリのノリもいい。『きみとぼくの壊れた世界』よりももっと観念的に、『飛鳥井全死は間違えない』よりももっと楽しく。この5作は一つの星座に属し、そしてその中でも楽しく咲き誇る水仙花。ヒロインたちに萌えは薄い(眼中にないらしい)。しかし、読者とのこのざっくばらんな関係は何でしょうか。みんなかっこいいです。大量のエロは苦行だった。僕はまだ修行が足りないみたいだから、またいつか鍛え直さないとダメかもしれない。でも今は終局へと進もう。悲劇は喜劇に勝てないのか?勝っても空しいだけなのか?勝てば悲劇とはいわない。終わりは見ないで、可能性のままに残しておくのが華。でもそうはさせてくれない。突き進んでこそ見えてくる、現実との・・・



(5月1日追記)
 ・・・水仙花読了。
 最後まで、ギリギリまで妥協を許さない作品。ちなみに僕の最後は「エンディング」だった。さて、パッケージの二人は誰でしょう?佳苗と裕子か。衛と恵美か。それとも御門と小夜か・・・
 何を言おうとしても言葉は作中ですでに先回りされている、批評を許さない作品。それでも敢えて言っておこう。僕にとって衛は最後まで一番遠い、一番抽象的なキャラクターだった。声が合わなかったのが大きいのかもしれない。あと一人称も。物語に抵抗する物語においては、それはもちろん特別な意味を持つけれど。それからもう一言。畏怖とともにその名前を口にする以外にはどうしたらいいのか分からないヒロイン。御門。
 この作品のメッセージは別にエロゲーじゃなくても言える。というか何度も言われてきた。でも、これをエロゲーで言うことの意味は大きい。少なくとも僕個人には。


(5月1日:OHPのレビューページに投稿)
何を言っても言葉足らずになりそう、というか作中ですでに先回りされています。そういう意味では隙なく作りこまれていて、言葉などのよって消費されることに抵抗する。消費してしまって御門に軽蔑されるのは嫌だし。でも、この作品にあるのは厳しさだけだなんて断言はできないし、しない。いろいろあります。