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vostokさんのplanetarian ~ちいさなほしのゆめ~の長文感想

ユーザー
vostok
ゲーム
planetarian ~ちいさなほしのゆめ~
ブランド
Key
得点
75
参照数
550

一言コメント

永遠の世界や幻想世界がないKeyだからか、テンション低めなだらだらした感想になりました。堪能したし共感もしましたが。(4月9日追記)(2008年11月9日追記)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 題材の選び方はけっこう親近感わくんだけど(宮澤賢治の歌とかずるいよな・・・)、期待していたほどすごくはないなあという感想。星座や天文の世界は、漠然とした関心はあるんだけど、めぐり合わせが悪いのかまだかなり未知の世界。ふたつのスピカや宮澤賢治やフレーブニコフを読んで、いつか少しつっこんでみたいなあと思っても、天文学の乾いた記述とダイジェスト過ぎる神話再話の強引な組み合わせの壁に、いつも阻まれてしまう。星やプラネタリウムが好きな人って、そのどこに魅力を感じているのかいまいちつかめなかった。星空自体は視覚的には綺麗なものだから、このよさが分かるようになればきっといいだろうなあと思う。そしてKeyならやってくれる・・・と思っていたわけですが。・・・あー、涼元氏にはもうひとふんばりほしかった。Airの神奈には唸らされたけど、Clannadではいまいちだった。本作もことみシナリオと同じくらいだった。泣かせ所に甘さや既視感がある感じ。個別にはいいところもあるだけど・・・「プラネタリウムはいかがでしょう」と「どんなときでも決して消えることのない、美しい、無窮のきらめき・・・」はあの声と絵で読まれると大層いい具合です。ゆめみのとぼけた受け答えも楽しい。マルチの時代に乗り遅れた者としては、いまさらながら、ヒロインがロボットであることと本作がパソコンゲームであることが上手く結びついているように感じた。マニュアル的な受け答えと、数が少ないながらも可愛い立ち絵と、プレイヤー・主人公・ゆめみ・作者の間の距離感を器用に混乱させるやり方が、なかなか上手く組み合わさっているように思った。特別上映の前口上で「それでは皆さま、盛大な拍手を」と言われたときには、恥ずかしいけどちょっと拍手しちゃったし。メッセージをストレートに出すやり方も割とうまかった:終盤の天国のくだりはちょっとあざとかったけど、あの地球を背景のしたゆめみの訴えには、パソコンのモニター越しならではの不思議な強さを感じた。人間とロボットでは時間の尺度や心と体の関係が違うっていうSFの定番ネタについては、あまり語るまい。本作では特にすごかったりはせず、まあ手堅かった。肝心の星空やプラネタリウムの話をもっとふくらましてほしかったです。



(2007年4月9日追記)
 評価を変えます。またkeyの軍門に下ってしまった。月森さんのレビュー(http://d.hatena.ne.jp/tsukimori/20060430/p1)を読んだことと、初回版付録の小説の「星の人/系譜」の章をネットで見つけて読めたことが大きいです。

 つまり、チンプだのセンチだのの様式の問題で躓いていたけど、そんな風に読み流してしまえるほどの心の余裕が僕の生活や僕の世界にはない、そんな偉そうなこと言えないほど僕自身が殺伐といているだろ、という感覚に、今朝薄暗い部屋で目を覚ましたときに包まれたから。ゆめみがロボットであるという壁を感じさせられるほど、そんなゆめみに狂わされる屑屋の貧しさが際立つ。これは暗い話だ。こつえーさんの絵の可愛さや宮澤賢治の童謡(の見た目の癒しぶり)に騙されるけど、こんなロボットに救われてしまうなんて、悲しすぎる。「ちょっと」人間らしいゆめみが、その曖昧で際どい位置から発する少しずれたメッセージや、彼女の自足して閉ざされた心。人間にない天国を生きているロボット。彼女の30年はあまりにも暗く、そのあとの1週間は奇跡的に美しい。猫の地球儀もそういうギリギリの話だったけど、本作は暴力的なまでに機械であるゲームだからまずいのです。


(2008年11月9日追記)
 VA文庫から出た短編集を読んでからゲームを再読して、ポロポロと泣いてしまった。
 前回は『星の人/系譜』を読んだといっても、この短編集は読んでいなかったのでその内容はほとんど分かっていなかったはず。雰囲気だけで何かの電波を感じていた。やはりこんな風に丁寧に物語を与えられないと、突発的に、断片的に与えられたシチュエーションで判断しようとすると、その断片がよほど個性的でない限り、どこかで見たものの借り物みたいに感じてしまうことがある。本作のSF的カタストロフ設定が僕にとってはそんな感じだったわけで、初めからこの短編集と合わせてゲームをプレイできていればその厚みが分かって別の印象があったのだろうけど、いまさらそんなことを言っても仕方がないし、今回こうして1年半ぶりにゲームを再プレイする機会を与えてくれたのだからこれはこれでありなのだろう。

 ゲームをやっただけでは結局想像の余地を残して曖昧に終わっていたストーリーが、どうにか継続していたことが分かって少し救われた気になった。しかしそれもまたはかない束の間の物語であったとでもいうかのように、最後の最後に描かれるのは人間のいない世界。その世界の中でつむがれる言葉だけが人間の思いを優しく伝える。幼稚な言い方になってしまうけど、人間とロボットが同じになって同じ夢を見ることができるようになったら、本当に素晴らしいなと思う。人間だけでもなくロボットだけでもなく、一緒にというのが特に。

 文体においてもテーマにおいても突出したものがないときにどうやったらよい作品ができるのだろうか。やはり何か形式と内容の調和みたいなものなのだろうか。物語が全体として美しくなるように、うまく断片化されているような感じがした。物語の時間は人の一生を越えるほど長いのに、描かれたのはその中のいくつかの瞬間だけの、寡黙な物語とも言える。寡黙で優しい。そういうある意味デリケートな作品だから声高な説得力はなく、あるのは言葉にするとかき消されてしまうような、読者の心の中にしかないようなはかない気配だと思う。ここら辺で僕も黙ったほうがよさそうです。