ErogameScape -エロゲー批評空間-

vostokさんのForestの長文感想

ユーザー
vostok
ゲーム
Forest
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
85
参照数
707

一言コメント

入魂の一作。メタ演劇的、そして(冒険ものの児童文学を引用しまくっているだけあって)叙事的。昔読んだ『はてしない物語』や『ライオンと魔女』のような雰囲気かも。西洋詩歌好きにはうれしい韻文や詩人や創作のモチーフと、現代エロゲー文化の幸福な出会い。メインヒロインをめぐる物語という点では腐り姫の系譜だろうけど、こっちはヒロインたちが神話的な広がりを持つというよりは(それもなくはないけど)、作品の中で居直ってる感じがする。ともあれ、万華鏡のように精巧にできた作品で、ルールが見えにくいので読み応えがあってよいです。ただし硬派で萌え弱し。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

でも、うーん本当に精巧なんだろうか、本当に意味があるんだろうか、冗長なんじゃなかろうかと思ってしまうディティールもあったような・・・。登場人物たちと同様にプレイヤーも外から与えられるルールに翻弄されてしまう、ってこれでいいんでしょうか(笑)。それとは逆になんだか理詰めな感じもしました。それではダメだと作中でほとんど「立証」されてしまっている、ヒロインを神話化・象徴化してしまうような結末でもよかったのになあと、だらしないない人間なので思ってしまいます。制作者のオナニーというのは言い過ぎでしょう。彼らも「キャラ」たちを手放してしまっているわけですから。まあ作中では常に現在形で話は存在しているので、寂しくなったらまた本作を起動させて彼らに会いに行くこととしましょう。


個人的にうれしかったのは、しっかり作られた韻文がけっこうあったこと(朗読のほうがあまり合ってないところもあったが)。他にも韻文のあるエロゲーがあったらどなたか教えてください。
お洒落っぽいグラフィックは、一部を除いてあまり萌えないけど、たまにはこういう絵本ぽいのもいいかと。音楽も相変わらずよかった。Hシーンはほとんど使用せず、なんだか鑑賞してしまった。ヒロインたちの目があまりこっちに向いてないし。
サブヒロインでは薫がとてもとてもよかったです。

引用について。必須なのは『不思議の国のアリス』くらいですね。
(本作と平行して、私は副読本として『不思議の国のアリス』、『鏡の国のアリス』、エリオットの実用猫詩篇を日本語やロシア語で読みました(英語は苦手。ナボコフ訳のアリスなんて面白かったです)。トールキン、ピーター・パン、プーさん、ピッピ、ナルニアシリーズは読んだことはあるけど、あまりはっきりとは覚えていない。それから、読んでないんでアレだけど、ユリシーズってこういう話なんだろうか。)