他のメディアでこの作品のと同じテーマにはいろいろと触れていて、驚きは期待していたほどではなかったし、旬に乗り遅れてしまったわけだが、でも十分評価できる意欲作。こういうことをエロゲーでもっとやってほしい。でも、この人の書く日本語の貧しさ(余裕のなさを貧しさとするなら)はわれわれの世代(?)の病気だよなぁ・・・
以下、ネタバレ気味。
はじめに式子シナリオに進んでしまったので、言語をめぐるモダニズム文学のテーマが出てきて、この過去のテーマが最後にはどう「未来」に繋がるのかと期待しながら各シナリオを進めていったのですが・・・結論には同意はできるけど、特に強い感銘は受けませんでした。
ある意味「楽園のような」ゲームなので、本当は多分禁欲的で散文的な作品なのかもしれないゲームを、倒錯的に大いに楽しむことになりました(Hシーンが多いのでかなりゆっくりしたペースで)。
もともと、哲学の真面目な近代的自我の問題とかに飽きて、エロゲーならどんな新しいものを見ることができるのかと期待して手を染めたところがあるのですが、架空の人格と対話していく形で進めていくエロゲーはやはり面白いですね。でもやはりこのレベルで満足せずに、もっと遠くまで行ってみたいですね。あと、もっといい日本語が読みたい(この点、今のところいいと思えるのは、細かい思考の動きで心地よく読者を揺さぶってくるkeyの作品くらい;もっといろいろ読まなきゃなぁ)。
ともあれ、この作品の後を継いだのってあるのでしょうか?あるといいけど。
(とりあえずグレッグ・イーガンの小説でしょうか。エロゲーヒロインが規定以上に知的に発達してしまい、その消費財としての短い寿命に悩む男の話。脳内妻をハッキングされてそれを基に作られたコピーが拉致さていることに苦しむ男の話。マルチシナリオ内の存在であることからアイデンティティの危機に陥る男の話。etc,etc,etc... ただし、第一にこれは小説だから音楽とか音声とか萌えとかの肉体がなくて、理論的でシャープになってしまっている。その結果第二に、問題が主人公である男に焦点化されて、ヒロインたちは脇役っぽくなってしまい、エロゲー的な濃密な時空間はない。まあ、エロゲーはイーガンの小説で描かれているようなことを原始的な装置で実践しているんだろうな。2006年3月6日追記)