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vostokさんの明日の君と逢うために COMPLETE BOXの長文感想

ユーザー
vostok
ゲーム
明日の君と逢うために COMPLETE BOX
ブランド
Purple software
得点
75
参照数
2258

一言コメント

老いゆくエロゲーマーのための優しい作品。 (以下、プレイ日記)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 久々に(主に視覚的に)新しい感覚の作品。出たのは2007年らしいけど、いつの間にか世間のエロゲーは新しくなっていたようで、ゲームを進めながらいろいろ新鮮な感覚を味わった。まずキャラデザが新鮮。絵を形容する言葉をあまり知らないので何といったらいいのか分からないけど、バランスが取れていて明るくて可愛い。エロゲー的というよりはマンガ的というのだろうか、性的に媚びたフェティッシュで歪な絵というよりは可愛くて動きのある絵というか。まあこれもみんながみんなあまりに綺麗な丸顔で、大きな瞳の可愛らしく垂れたまなじりなので、意地の悪い見方をすればバッタみたいに見えなくもないけど、とにかく安定感があって可愛い。こういう子たちは性的な視線で眺めるというよりは、自分には入っていけない綺麗なフィクションの世界の妖精か何かのようなものとして、少し距離を置いて見てしまいがちになる(フィクションなのは当たり前だが)。大体舞台設定からしてあまりに綺麗な海辺の小島で、背景画の波が動いたりするような快適性を追及したようなリゾート感のある視覚的演出なので、その世界の綺麗さにちょっと戸惑う(そしてじきに慣れてくる)。その意味では冒頭の電車の車中のシーンの背景画は構図的にエヴァの車中の心象風景のシーンと重なって見えて、向かう先の世界の浮遊したような綺麗さとか綺麗な女の子たちとの距離感への暗示的な何かを意味しているようにも思われる。快適なのはシナリオの台詞回しにしてもそうで、掛け合いが何気に面白い。テンプレートの貧しい台詞から一歩踏み込んだ、相手が理解してくれることを期待した符丁的にひねった言葉の距離感が心地よい。進学校の頭の回転が早めの子たちという設定にも負けていないし、声優さんたちの演技もその辺の余裕を織り込んだ心地よいものになっていると思う。声優といえば、これは個別のヒロインの感想で書いたほうがいいのかもしれないけど、発声の仕方とか声質とか全体的に心地よいものが多い。明日香(安玖深音)や里佳(一色ヒカル)、小夜(祢乃照果)といったあたりもうまいけど、あさひ(井村屋ほのか)や舞(沢野みりか)はしゃべっているのを聞くだけで単純に惚れ惚れと聴き入ってしまう。ToHeart2やあけるりなどと比べても一長一短はあるのだろうけど、自然な快適さという点ではこのゲームは吹っ切れている感じがする。自然すぎて入っていきにくいとことはあるのかもしれないけど。あと、これも何度も言われたことなのかもしれないが、この作品は立ち絵が大きい。Kanonかそれ以上の近さ。安定感があって見ていて心地よい絵が多いので近くてもそんなに気にならない。というか綺麗なので間近で見たくなる。ただし立ち絵のポーズに動きがあるものが多いので、あまり立ち絵をころころ変えるとせわしない感じになってうっとうしい。主人公が立ち上がったり誰かに視線を移したりすると、その度にいちいち視界が背景ごと上下左右に動くのもうっとうしい。男キャラにズームインとかされても嬉しくないし、立ち上がりながらずっと正面前方を見ているというも不自然。BGMも細かく変えすぎていたりして、その辺はさじ加減の按配でちょっと演出過剰になっているように思った。BGMは全体的に地味あるいはしょぼ目で、これは残念。一曲ダ・カーポ的な幻想の曲があったなあとかその程度の感想。


・瑠璃子

 はじめということもあってだらだらと全体的な感想を書いたけど、この快適さの感覚が瑠璃子のシナリオの特徴でもあるように思ったということもある。他のヒロインでもそうなのかもしれないけど、なんとも至れり尽くせりなヒロインであり、シナリオだった。まず、「おっぱいのおは奥ゆかしさのお」を体現する個人的に直球ヒロインなので、水が低いところへ流れるように自然にこの子のルートに進まざるを得ない。もう少しゆるいゲームだと、ヒロインが病気 → 愁嘆場 → 解決というパターンだけど、瑠璃子はよく出来た快適なヒロインなので、主人公と精一杯いちゃつきながらも、簡単に愁嘆場を演じたりせず、早々と別れを覚悟して受け入れる。主人公もいつまでも見苦しく取り乱したりせず覚悟を決める。なんだかあまりに物分りがよすぎるような気もするけど、考えてみたらこの子以外のルートに進んだらかなり鬼畜なんだけどこれ。それはともかく、そういうちょっと新鮮な違和感のおかげで緊張感を保ったままエンディングまで進めたけど、落とし所としてはあまりに平凡なのがやや残念。綺麗過ぎて気づかない間にハッピーエンドになっていたというか。あとはエッチシーンの絵の美しさには目を見張るものがあった。素通りできないほどにエロいのに額縁に入れられるほど綺麗で、この幻想的な楽園の感覚、しかも手の届きそうなほどの近さの感覚と、綺麗さの離れた距離の感覚が、瑠璃子ルートとこの作品そのものをよく表しているように感じた。いずれにせよ、通り一遍の面倒なシーン描写をするくらいならこんな風に抑えて描くという方針なら、今後も過剰な読み方をしていいということなのだろうから楽しめそうだ。でも本当にこれ、瑠璃子と幸せになってめでたしめでたしで終わりにしていいような気がする。それほど可愛いヒロインと手に入れた幸せなのに、それなのにゲームは続くというのはある意味理不尽だ。

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・小夜

 思わず感化されてジョギングした(三日坊主だと思うけど)。というのも小夜はプレイヤーである自分に近いところにいるから。表面的な設定では、孤高(独りぼっち)、口が悪いせいで人を遠ざける、不健康な食生活、目が悪いなど、健全な社会生活を送る気のない生き方を固持しているヒロインで、これがエロゲー的に金持ちで優等生の美人でなかったら、現実的には嫌われ者のニートまっしぐらのはずだ。彼女の口の悪さは可愛さではなく病的な自意識の現われになっていたはずだ。だから彼女を攻略するといっても、それは感覚的には所有への欲望ではなく(自分の分身を所有しても仕方ない)、彼女を応援するのに近いのかもしれない。

 アキレスと亀の競争の話があるが、小夜はある意味このゼノンのパラドックスに囚われている。アキレスが追いつけないのは運動の概念を認められないからで、世界を無限に分割することが出来るのならそれはおかしなことになる。無限と無秩序を憎み、秩序と可視性を尊ばねばならない。世界は静的な一つに統一されいなければならない。無限と統一の両極端を往復し、それに囚われるさまは、そのまま投げやりな小夜と完璧な小夜の分裂にだぶる。姉の帰還を待つ間に彼女は不要な外界をシャットアウトして一人だけの世界を作り上げてしまった。姉を批判しているようでいて、いつの間にか姉と同じことをしてしまっていた。世界が一つであり、ONEであるならば、「向こう」に行ったきり後を振り返る必要はない。目を閉ざし、目が悪いまま放っておいてけっこう。「向こう」へ行くことを否定するとは現状の自分をも否定することになるので、主人公にそれをやってもらうしかなかった。でも結局彼女は後追いの偽者でしかありえなかった。姉に会いたいという自分の思いに翻弄されていたに過ぎなかった。

 小夜の表象は直線でもある。こちらをまっすぐ見て、まっすぐ歩いてきて、まっすぐ毒舌を吐く。ついでに体型もスレンダーだという。甘えるときもまっすぐで、毒舌癖を曲げることもないが、甘えることへの躊躇はない。全く卑屈さがないので、彼女の引きこもり型な生き方まで正しいのではないかという錯覚を抱く。でもまっすぐこちらを見る彼女の視線はどこか遠くを見ているようなところがあって、かすかにこちらを不安にさせる。気のせいかもしれないけど、これは彼女の目が悪いからだ。ONEのみさき先輩とは多分違うのだろうけど、小夜の目もまたどこかうつろで孤独な何かを抱えているように思えて、彼女との掛け合いを楽しみながらも、いつも彼女の「向こう側」の存在もなんとなく感じている。それが消えるのは彼女が笑うときだ。

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・舞

 舞のモノローグはない。舞はツインテールの強気なヒロインでありながら、ことあるごとに自分が普通の女の子であることを強調する。舞にはトラウマ設定もない。

 ここは御風島ではない。神風は吹かない。風通しがよいように思えるのは舞自身が吹かせている風のせいだ。ここでは主人公の化けの皮ははがれ、舞の前でとんでもない醜態をさらし、舞に問い詰められてうろたえ、みっともない泣き顔を舞に見られる。舞の問い詰めが生々しくてひやりとする。まっとうな変態ならのちのちこの傷を舞に抉ってもらって悶える快感を覚えること間違いなし。主人公の「トラウマ」はこの本土というアウェーでは正常に機能せず、作り物の設定くさい不可解さを残す。明日香が消えることによってトラウマを2回目で無理やりプレイヤーに理解させようとするけど、無理やりだからかかっこ悪い。

 明日香の置手紙も嘘くさい。居場所を探すだけなら普通に考えれば「向こう」に行く必要はない。実はベタなシーンだったという可能性もあるけど、ここは意図的な仕掛けとしてとっておきたい。明日香の消失に生々しさがないのは、島vs本土という二項対立に引っ張り出されてしまった時点で明日香が取らされざるを得なかった立ち位置に起因するわけで、神のそばにいて優位を占めているはずの「普通じゃない女の子」は、その実、神なしでは思いがけない脆さを露呈する弱者の一族だったりする。舞の作るまかないやお弁当が地に足の着いたとてもおいしいものである一方、明日香が1人で料理を練習しておいしく作れるようになっていくのが見ていて切ない。

 舞とのいちゃつきやエッチシーンは、品のない言い方をすれば、リア充的に見える。さらに下品に言えば、舞が絵的にギャルっぽく見える瞬間もある。エロゲー的ではなく自然に惹かれあって、ドラマチックなこともなくカップルになったからだろうか。「普通」の女の子が一生懸命がんばれば別に珍しいことじゃないのだろう。といってもさすがにそれで興醒めするほどの馬鹿ではない。舞が一生懸命エッチをがんばるから(声がすごく大きい)、こちらも応じざるを得ない。一度舞に問い詰められて征服されているから、その恩を返すために、もうひたすら尽くすしかない。中華料理店の看板娘であり、店長の娘として将来店を背負うことになるという立場は、出世というには程遠いささやかな人生を想像させるけど、舞が切り盛りしていくならきっとやりがいのある楽しい仕事になるだろうなという気がする。そして世の中の大半の仕事は、そんな風に受け取り方しだい、人しだいで楽しいものになるのだろう。主人公は頼りない。中出しとかしてる場合じゃない。こんな誰かさんみたいな奴に舞なんて、本当はもったいない。それでも彼女が見ていてくれるのなら、全力でついていくしかないだろう。彼女は「普通の女の子」として生きることをとうに受け入れているような、大人びたようなところがあるのかもしれないけど、そうではないかもしれない。モノローグがないから決定できないし、したいとも思わない。というわけで説教くさい感想になってしまったが、要するに舞のチャイナドレス姿を見ると元気が出るなということと、彼女がいつも幸せでいられるようにがんばれよということ。

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・あさひ

 かけあいがいまいちで話もなかなか盛り上がらないのでどうしようかと思っていたら、設定に仕掛けあったようで、そのまま肝心なところは設定というか物語外の部分に投げたまま終わってしまった。物語としては中途半端印象で、それを想像力で補うかどうかは読者の自由という感じか。出会いと別れとか成長とかいうような通常の動機付けというよりは、もっと漠然とした自分の存在の不安とか違和感が主題となっていて、そのプリズムを通して見ないとあさひの見ていた世界が見えてこないという回りくどさ。シナリオを通してあさひは多分そんなに成長していないし、彼女を大人か子供かで区分することにはあまり意味がなさそう。もし成長したのだとすれば、主人公と一緒になったエピローグ以降の世界で何か新しいものが始まるということなのだろうけど、その描写はすっぽり抜けている。プレイヤーに残されたのは、あさひが半ば無意識的に夢中で自分の周りに築いてきた、どこか夢のように歪で偏った、でも楽しい世界の記憶だけで、それは決して隠されてはいなかったけど、主人公にだけ明かされたあさひの秘密だ。

 演劇というのは言葉だけでは伝達できない部分を持つ、卑怯な芸術だ。役者自身は何を隠し立てすることがなくても、役者と観客が分離されてしまっていたら両者の間の溝は決定的で、役者は秘密を墓まで持っていってしまう。役者を自己完結させないためには、昔のギリシャの演劇がそうであったように、観客も上演に加わり、劇自体は誰とも知れない「神様」に捧げられるものにならなければいけないのだろう。その「神様」がりんなのかそれともかつてのあさひ自身なのかは別として、あさひルートはそこに至るまでのプロローグ的な部分だったように思う。別に人には役者であること以外の生き方がないなんてことはないのだろうけど、その善悪を問うても仕方ないレベルであさひは乾いてしまっており、主人公がそれに付き合っていくことに決めたのなら、後は彼女と一緒に手探りでその夢の中を生きていくしかない。僕の想像力が貧困なせいか、なんだか何も解決しないまま一方的に巻き込まれただけのような気もするが、この先彼女の夢に包まれてその手触りを感じながら生きていくというのは、「えっち」で幸せなことなのだろう。それが出来るのは相手がどこかつかみどころのない雰囲気を持つあさひだからなのだろう。

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・明日香

 神隠しというのは割りと日本(アジア?)特有の現象らしくて、小説とかでもあまり読んだことがない。もちろん、子供が異世界に行って帰ってくるという話ならいくらでもあるけど、それを「神」に「隠された」ためとするという見方があまりないということ。キリスト教圏の西洋なら取り替え子(チェンジリング)ということで、赤子を(悪い)妖精がさらって変わりに奇形の妖精の子供を置いていくという、悪い力からいかに自分たちを守るかみたいな話になる。ロシア版の取り替え子であるポドメーヌィシの場合も大体同じで、置いていかれる子供は頭が大きくてぐらぐらと傾き、手足が枯れ木のように細く、おなかはぷっくり膨れていて、なかなか言葉を覚えないという奇形だ。知恵遅れの子供を間引いていた時代のフォークロアだ。逆にこの作品の場合にように美しい天才肌の人間に育ってしまうような例外もあるらしいけど。他の国と違いがあるのか分からないが、ロシアの場合はさらわれる原因は母親の愛情が足りない場合が多い。母親が産後間もない赤子を罵るとさらわれる。さらうほうも女性の水の妖精であるルサールカの場合が多い(まれに男性の森の精レーシイ)。さらわれる場所は通常お産が行なわれる風呂場。女性性のイメージが強いのは性別的なイメージの弱い日本の神隠しとは違っている感じがする。

 あすかが「知らない世界があるならそれを見に行かなければならない。この世界は少し狭すぎる気がする」というとき、彼女が主人公に先んじて自分でどんどんかたをつけて終わりにしてしまおうとするとき、彼女の思い切りのよさ、切り替えの速さの裏に、行き急ぐような切実さが見え隠れする。何かに駆り立てられるように1人で新しいものを探し続けた子供時代、周りから浮き立つようになってしまったその加速ぶりが自分でも少し怖かっただろうと思う。それでも怖いもの知らずな子供は止まらないし、自分を止めることもできない。つないでいてくれる主人公の手を命綱にして未知の宇宙を探索するようなものだ。彼女がさらに進みたいと言い、主人公が止めてくれなかったとき、物分りのよい彼女は明るい顔をしていたけど、その透明で綺麗な表情は悲壮な決意や心細さを覆い隠すものだったように見える。ここから先は1人で行かなければならない。子供は驚きの中に生きており、人と馴れ合うことの安らぎには気づかない。駆り立てられるように「向こう」へと進んでいってしまったあすかが独りよがりだったからといって罰を与えるのは残酷なことだ。戻ってきた子供を責めてはいけない。また先に進むというのなら、えらそうにたしなめるのではなく、今度は自分から追いつかないといけない。どちらかというと人間不信で自虐的な人間にとっては、あすかの振る舞いや彼女に対する振る舞いはなんとなく理解できるものだったりする。卑近な言い方をすると、全能のボクっ娘は去勢され、記憶にも体にも穴の開いた明日香が帰ってきたけど、天才で何が悪いと主張するのは天才だった明日香の存在感だ。エロゲーには何かに囚われていたりポンコツだったりするヒロインが多く、明日香のように切り替えが早くて先へ先へと進んでいこうとするヒロインは珍しいと思う。去勢と恋愛がセットなのだとしたら、その仕組みに抗うかのような明日香の存在感は新しい形を探しているようにも見えて、どこまでもついて行ってみたくなる。

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・里佳

 一ヒロインのルートとしてはシナリオが破綻している印象。里佳のテーマはりんや咲との物語に書き尽くされてしまっていて、その間主人公は聞き手あるいは傍観者に過ぎない。中に入っていけなかったのに、りんや咲との物語が終わったらいきなりくっついてしまう。でもりんを送り出してこの作品を閉じるという意味では、作品全体のシナリオとしては構造的にきちんと成り立っているように見える。一つの世界が終わって別の世界が始まるのタイミングというのは奇妙に唐突だったりするもので、覚悟しだいで外面的にも内面的にもあっさりと切り替わってしまう。それが神様がいないということなのかもしれないけど。

 里佳はキャラデザが君のぞのの水月を思い出させて、面倒くさい人情キャラシナリオなんだろうなあと少し勝手な警戒をしていたけど、一色ヒカルさんの緩急自在の名演もあってか、女性的なやわらかさも感じられるヒロインになっていてよかった。飲んで酔っ払っては道端で寝込んだりしていたのは、自分を省みずに一生懸命働いていたからで、それは島にはまだ神様がいるという安心からできた無茶なのだろうと思うとほほえましい。神様を見送って過去にもけじめをつけてしまってからの、寂しさを抱えた姿は確かに綺麗に見える。それから若い主人公にころっと転ぶのは、笑えるけど幸せなことなのだろう。

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・七海/真奈美

 明日香、里佳とテンションの高めなヒロインのルートに続いて一日でまとめてやったら、さすがに脳の許容範囲を超えてしまったようで、やってて疲れてしまったのがもったいない。

 里佳シナリオで一度きれいに閉じた作品だが、この2つのシナリオは最後までなんだか本編から少しずれた感じがしていた。七海はもともとサブキャラだったせいか、必要な設定は全てサブキャラとしての活動で全て消化できるようになっていて、メインヒロインに昇格してもキャラの「内面」が次第に明らかになっていくようなことはなく、全てはキャラを動かすというアクションで話が進んでいったので、受動的に読まされているようになりやすくて疲れた。二次元的に喜怒哀楽が激しくて裏がないというのもまた。七海の立ち絵は斜め向きがあまりなくて体が正面を向いているものが印象的で、頭の形が丸く、目も大きく開いている。馬鹿正直でまっすぐな感じだ。ポイントとなるはずの属性もことごとく「無駄」なものとしてまとめられている。つくづく損な役どころなわけだが、そんな風に武器の使い方を身につけないまま、貧相な装備で体当たりの恋愛をして見せたのが七海の素直で健気なところという見方もできるかもしれない。

 真奈美シナリオに至っては本編ではいわば象徴に過ぎなかった「向こう」を具体化してしまうという、いよいよ二次創作的な展開まで入ってくる。「ライオンと魔女」みたいな設定をはさんでいたのでまだ抑制が効いていてよかったけど、シナリオの展開の仕方には余計な妄想を読み込めるような余地はもはやなく、この作品に収められなければいけない必然性はあまり感じられなかった。強いて何かを挙げれば、手足が長いヒロインという印象で、腕の怪我やピアノの演奏などのような身体性を意識させられるモチーフが多かったので、そこらへんを妄想すると可愛くてエロくてよい。森の曲のイメージと合わせて。

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おわりに

 エロゲーハングリー精神が旺盛だった頃なら、抜きゲーでなければ大体3~5日で集中してプレイして、ハイテンションなまま感想を書いていた。その頃は学生だったので時間もあった。今回は20日間ゆるゆると進めてきた。今は仕事が割りとルーティンワーク的に進められる環境にあるということもあるけど、その間もある程度の集中力を保ちながらこの作品のヒロインたちと会えるのを楽しみに続けてこられたのは嬉しいことだった。なさけない言い回しでアレだけど、負担の少ない心地よいエロゲーライフを志向する作品だ。原因は綺麗な絵と、声優さんたちの見事な演技と、そこそこ抑制の効いたシナリオ運びにあったと思う。小夜との掛け合いに極まっていた気の置けない距離感は素晴らしかった。エッチシーンもよかった。音楽はもう一歩だった。こればかりはもったいなかった。

 「向こう」との関係がそれぞれのヒロインに少しずつ異なった影を落とす様は読んでいて心地よさがあった。夏休みの終わりとともにりんは消え、その心地よい世界を支えていたものはなくなる。それを肌身で感じる登場人物たちの感覚と、この作品自体の外にあるプレイヤーの感覚が共鳴して、終わりの寂しさもまたひとしお。そこをしつこく説教せずに、控えめに終わっているのもよかった。