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vivid_pokeさんの蒼の彼方のフォーリズム Perfect Editionの長文感想

ユーザー
vivid_poke
ゲーム
蒼の彼方のフォーリズム Perfect Edition
ブランド
sprite
得点
100
参照数
343

一言コメント

部活動・青春・恋愛。スポーツを全力で取り組んだことのある人ほど刺さる作品。自分的最高傑作。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

一応無印を何年か前にプレイしたけど、あんまり内容は覚えてなかった+結構追加シーンやCGがあるっぽいのでほぼ初見です。
アニメは3周くらいしたのでFC周りの説明は結構すんなりいけました。ここですんなり行かないと多分この作品は楽しめない。

攻略順は莉佳→真白→EXTRA1→明日香→みさき。みさきと明日香は入れ替えてもいいかもしれない。




新しいスポーツをはじめて、最初は戸惑って、大変な練習を反復して、
時には楽しいイベントを挟んで、大会にはじめて出場して、初勝利が嬉しくて、
それでもかなわないなにかにぶつかって挫折しかかって、
スポーツとしてだけじゃなくて内面でも大きく成長し、恋をする。

そういった"青春"と、青春時代の細かな心の動きを繊細に表現していると思います。



また、エロゲにありがちなベッタベタなパロディが少ない、あってもあっさりとしているという点
そういった"読みやすい"材料があまりないのにもかかわらず、どんどん読み勧められる面白さがある
FCというスポーツそのものの出来もあるけど、テキストがよく練られてると思いますね。

サブキャラの良さというのもあります。ここまでサブキャラが生きる作品はあんまりないかと。
明日香ルートなら葵先生、真白ルートなら莉佳、莉佳ルートなら佐藤院さんがいい味出しています。みさきルートでは…強いて言うならみなもかなあ。



○共通
FCという架空のスポーツを以下にプレイヤーにとってわかりやすく、世界観に没入させるかについては、かなり上手に描写できたのではないかと思います。
特に試合の演出は、画面上の動きが無印に比べて強化されたのもあってかなり掴みやすいものになったかと。
自分の頭の中で試合風景を再生することは難くなかったです。

そもそもFCというスポーツの完成度が非常に高いです。まだルールに穴があるというのは否めませんが、
個人競技でありながらセコンドといったサポーターがついて2人1組で戦う点。3つの役職?があってそれぞれに長所短所があるバランス感。そして得点方式やそれに従って生み出される多くの技。
ないはずのスポーツなのに、まるでFCが我々の世界にあるかのような説得力を感じました。
ここまで本気のエロゲはないんじゃないか。ライターの脳味噌に感謝。というかはやくグラシュを現実世界に実装してくれ。頼むぞインドの重力加速器。


もちろん一般エロゲ要素も十分にあります。アニメで感じたようなスポ根感はあんまりなかったですね。なんでだろう。

ここですんなり世界観をつかめた人は楽しめたんじゃないでしょうか。


以下各ルート感想……の前に、
やればわかるんですが、今作の個別の大テーマは「楽しい」です。疑う余地なし。
そのなかでも明日香と莉佳、みさきと真白で大きく二分できます。
タイトルをつけるなら前者は「勝負を通じて"楽しい"を広げる」、後者は「努力は楽しい」になるかと。
どっちが好きかで割れると思うんですが、私は後者のほうが好きでした。

ちなみにお気に入りヒロインはみさき、一番好きなルートは明日香です。



○明日香
明日香は強いです。本当に強い。
そりゃFCも強いんですが、作中に何度も出てきたように、絶望するような相手に立ちはだかられても、まったく折れないのが強い。
自分は壁にぶつかったときに折れて諦めてしまった経験があるので、それだけに明日香の強さはすごいし、羨ましいです。こんな人に会ってみたかった。

明日香が好きなものをまっすぐ好きといえる、楽しく振る舞える、というのも、昔の主人公との約束でした(ここらへんはアニメでも言及されていましたね)
明日香にとって、昔の約束も含めて主人公の存在が大きすぎるんですね。
「空に答えがある」「空を楽しもう」といった、今作の根幹に関わるようなワードも主人公からいっぱい教えてもらってるので、それだけこのシナリオは練ったものなんだと感じます。こういうの好きです。
それだけに、明日香ルートのあとに誰かを攻略するのは罪悪感がパないですね。真白は明日香のあとにやらないほうがいいかもしれない。


それだけに、秋の大会の決勝でバランサーを切るという手段に出たのは、今思えば"いままでのFC"を否定している感が否めなくて少し違和感がありました。
その後なんとかフォローしていますが、あそこはもうちょいうまい終わらせ方がなかったものか。


あ、あと明日香のおっぱい要素はPEになって増えた気がします。私は大好きです。




○みさき

「わかってる。そうじゃなくて、ここまで真剣に、毎日やってることで、負けたら――あたしって何なの?」

「こんなに真剣に練習してしまったら、負けた時、言い訳できない。
まだ本気じゃないとか、他人にも自分にも絶対に言えない……。
心の中で自分に言い聞かせることもできない。それが怖い!」

「だって真剣にやるってことは、大げさな言い方だけどあたしの全部を使っているってことだよ?
それなのに負けたら。……負けたら全部を失いそうで恐い」

「FCを本気で始めなければ、こんな不安を抱かなくてもよかったわけじゃない?」


痛いくらい刺さりました。負けるのが怖い。負けたとき、今までの数ヶ月の練習が、それまで信じてやってきた自分全てが否定されるようで怖い。
何かしらに熱中するほど取り組んだことのある人なら絶対に経験したことがあるはず。


「本気で練習しないと、そんなことを思ったりできないだろ? だからそれはいいことなんだ。」

「恐いって良いことだよ。恐いを乗り越える時が楽しいと思う。」


いつだって、本気を出すのは怖いです。なぜならそこで自分の限界が決まってしまうから。でも本気で頑張り続けて、ある一瞬でコツや光のようなものがわかって、それ以降は人が変わったような動きを見せる。
夜間の背面飛行の練習のシーンにありましたが、現実でも起きます。見たことがあります。

それを乗り越えられたみさきと主人公は本当に凄いです。羨ましいです。


私がやっていたスポーツ(一応武道なのでスポーツというと怒られるけど)にも、「負けたと思わない限り本当の負けではない」「勝ちたい・上達したいという気持ちでひたむきに努力を続ければ必ず結果が出る・報われる」といった内容の教えがあります。

私はこの教えを信じ切ることができずに引退を迎えてしまった選手でしたが、生きていくうちに再び信じられるようになったらな。と思うくらいには生気を与えられるような言葉でした(今が腑抜けているわけではないですけど笑)


他のルートほど"楽しい"を押し出した感じはなかったですが、互いを救うため、根性のような練習をして、必死に必殺技を思いついて、我武者羅に練習して、互いに勇気づけて、負けたくなくて。伝えたいことが十二分に伝わってきました。


主人公のトラウマを払拭するための最後の"再現"のシーンも好きです。ああいうのに弱いんですよね。
主人公の立ち直りといった面でも、このルートが一番しっくりきています。




○真白
かわいいに尽きる。なんだこの生き物。
全体的に1枚絵のCGが良い。語彙が足りてないけど良い以外に表せない。

シナリオ的には、一本のテーマがあるというよりも真白という少女の成長物語であるように感じた。
才能という壁になんどもぶつかって、挫けそうになって、周囲の支えもあって努力して、最後にはじめて勝つ。
よくある話ですが、感情移入出来てしまうのでものすごく好きです。

一度壁にぶつかって折れてしまった主人公・才能を諦めかけたみさきとの対比がよく描かれていると思います。
このルートのみさきは苦手だと感じる人がいるというのはうなずけるが、自分はそうは思わなかった。みさきみたいな人間なので。

あ、付き合ってからのバイトのくだりとかはちょっと長くてダレたかもしれない。まあ全部必要な話だったんでしょうがないんですが。


EX1の感想はそっちで書いています。良ければ読んでください。



○莉佳
"楽しい"が自分を、周囲を、世界を変える。それを軸としたストーリー。
生真面目で自分の気持ちを抑え込んでFCをしていた彼女が、自分の気持ちに素直になって、変わって、
それを幼馴染にプレイを通じて伝えてあげる。

まあ王道的な展開であるんだけど、そこに至る葛藤とか、感情の動きなんかがうまく書かれている。
特に最後の試合の黒渕霞との互いの信念のぶつけ合いみたいなのは、シナリオの最初では考えられないほどに熱血的で燃える。こういうのすき。

あ、あと好きを抑えきれない感じの描写は本当に初々しくていいですね。ツボを的確についてくる感じ。
共通のどこかで明日香が言ってた「真夜中の空中でのキス」が一番のお気に入りです。

水着エプロンでえっちしちゃうCGはないんですかね???EXTRA3とかで出る感じですか???待ってますよ!!!


◎CG
言うまでもなく美しいです。最近のエロゲの絵やCGはどこも一昔前に比べたら良くなっていますが、
ここの絵は前作のときから透明感があるように感じます。
空や海といった"蒼(青)"が多く出てくるこの作品で、その透明感がよく引き出されていました。最高の組み合わせだと思います。
本当に風景絵が美しいです。実際に聖地巡礼して見に行きたいと思えるくらいに印象的でした。

告白シーンの絵もいいですよね。本当にああいう場面を迎えたらあのように見えるんだったら素敵ですね。しらんけど。

またPE版になって追加されたCGもいい味出しています。より描写が濃くなったというか、手に取りやすくなりました。


◎声・BGM
みさきの脱力感ある声が大好きです。声優さんの声質的にはなんかちょっと考えられないけどこんな声も演技もするんだ~って思いました。
明日香の声、いいですよね。主人公が脳が溶けるとか言ってたのがわかります。ASMRにしたいです。
その他のキャラの声も私は大好きです。乾さんの素の声もたまらん。

BGMや楽曲についてですが、私はこれが一番あおかならしいと思っています。
詳しくは各楽曲のところで書きますが、テーマ曲・2ndOP・EDのキャラソン含め、よりあおかならしさを与えているものになっています。

特に歌詞が秀逸です。"詩"として、一回読んでみてください。泣きます。



◎システム
プレイ中に特に使いにくかったところはないですね。CG回想とシーン回想はめちゃくちゃ使いにくいです。
あと可能ならば音楽鑑賞もつけてほしかったな。あおかなの良さは音楽・BGMにもあると思うので。


◎えっちシーン
明日香の初えっちの初々しさがたまらん。
萌ゲーにありがちな全体的に全く抜けないという感じではないですが、各ヒロインが好きすぎて抜けなくなることはありました。みなさんはそんな経験ないですか?
無印に比べたら格段に使いやすくなっているのは確かです。書き直ししたりしていたっけ?

ただしエロシーンが必要か?と言われると正直微妙です。でも裸体CGは見たい。


◎まとめ
これだけ感情を動かされる、大きなテーマをぶつけられた作品はありませんでした。
「楽しい」が全てを変えること。かなり理想論的ではありますが、何をするにあたっても絶対に忘れてはいけない気持ちであることを思い出させてくれました。

それをフライングサーカスという未知の・発展途上のスポーツを使い、部活動に向き合う少年少女たちの繊細な心の動きをうまく描写できています。没頭できました。

前にもあとにも、これが私にとっての最高な、大好きな作品です。