プレイ時間4時間12分。収穫シリーズ(5作)の一作目。設定自体は正統派よりだが、奇抜なキャラ達が動きまわり、癖の強いテキストが非凡さを醸しだす。「殺し、奪い、新しい実りを得る。収穫を得るためには、殺さなければならぬ」 (後半にネタバレ少なめのシリーズ全体感想を追記しました 2011/1/2)
※一言感想のセリフほど殺伐とした作品ではありません。鋭く切りこんでは来るけれども。
プレイ時間/タイトル 点数 CG数(差分込) 視点
1:46/収穫の十二月 (80点) 12枚 柾木
1:05/境域の一月 (55点) 7枚 瑞穂
0:40/贈与の二月 (70点) 5枚 柾木+早苗
0:41/恋々の三月 (75点) 4枚 柾木
平均すると70点だけれども、全体を通して「面白かった。楽しかった」と素直に思えるので+5点。
普段は章別評価とかしてないし(「ましろ色シンフォニー」みたいにしてるのもあるけど)、
分野別や細分化して点数付けしてる訳でもないので余り気にしないでくださいな。
シリーズ通しての点数:75点。※平均点ではありません。全体感想は下の方にあります。
選択肢なしの一本道。
セーブ箇所は各章10個ずつあるので問題なし。
オート・既読スキップあり。ホイール可。
BGMは主題歌含めて11曲。良質。
雰囲気ゲーとの評価もされている大きな要因かと。
但し、雰囲気"だけ"は良いとの意味ではないと受け取っているが。
…主題歌は「YOU」(ひぐらしのなく頃に)で有名な癒月さんが担当されているのだが、本人か疑いたくなるような…
主題歌目当てではなかった(プレイして初めて知った)から別に良いのだが、曲自体は良いだけになんだかなぁ
一章は体験版として公開されてるので軽くでも触れてから買ったほうが良いかと。
(各定価1000円、3つほど無料配布のショートノベルあり)
繰返しになるが、テキストの癖がかなり強いので注意。
素直に良い意味で、とは言えないのがまた。もちろん見所もあるのだけれども。
理路整然と組み立てたり、正確な言葉遣いを重視するのではなく、音のリズムや感覚に訴える側面が強いかと。
読みにくいけれど慣れてしまえば言い回し・言葉遣い・リズムにハマる可能性は充分ある。
少なくとも言葉の内容・物事の捉え方はかなり面白い部類に入るのでは。
また、パッケージ版は手に入りにくいみたいなので、DL販売に頼る人が多くなりそう。(iPhoneでも配信中だそうな)
※少なくとも通販では。「~春~」は駿河屋の買取価格>定価だし
以下、個別感想。ネタバレ度は低いと思います。
<収穫の十二月>
テキストのリズムが掴みにくく、入りこそ苦労したものの、中盤から後半にかけての展開には見事に引き込まれた。
人の姿形を取って町をうろつく土地神である しろ と、土地で絶対的な権力を持つ家の一人娘である 雪 から見初められた主人公 柾木。(転校生)
(全体的に言えることだが)特に雪・柾木はかなり奇抜なキャラであり、
その彼らのやり取り・織り成す物語は平凡からかけ離れた異質さを放つと共に、抗いがたい「面白さ」がある。
柾木自身は主体性に欠く存在、というか恋愛感情を持たない存在で、所謂人間らしさに乏しい。
しろの神性に、雪の揺らがないまっすぐな想いに、"興味"を抱いているもののそれは"好き"ではなく。
柾木が見せるのは感情による荒々しさではなく、理知的で冷静で時に冷徹な言動。
そしてその冷静さと渡り合うしろと、それをねじ伏せるほどの激情を顕にさえする雪。
柾木を奪い合う様もそうだが、何より各々が柾木と向かい合った時に見せる、普段とはまた異なる"顔"に惹かれざるを得ない。
人並み外れたキャラ達が見せる"高み"。それと対の"人間らしさ"。
激しい。非常に激しい動きに呑み込まれる。
<境域の一月>
神の侵犯のお話。
隣町からそこの土地神がやって来て、その男の子の願いを叶えようと瑞穂(柾木の友人である耕平の妹)が奔走する。
この章で良かった点は柾木がまた違う一面を見せたことくらいで、
ギミックを明かされても「なるほどねー」くらいにしか思えなかった。
繋ぎとしての章以上のものは感じられなかった。
<贈与の二月>
二月と言えば、女の子が恋に積極的になれる時。
まさにPOV「友情発恋愛行き」。
但し、早苗のお相手は柾木ではなく耕平だけれども。
サブの男キャラに愛情が向けられるってのは良いものだ。よく不遇な扱い受けてるし…。
ともかく、早苗がかわいい。
近すぎるため、今まで築いてきた関係を壊さないため、踏み出せない一歩。
王道だ。奇抜さなどはない。
しかし、だからこそ身に迫る。感情を揺さぶられる。
淡い冬の日差しに照らされた、心温まるお話。
<恋々の三月>
かねてから雪は柾木とのやや子を欲しがっていたのだが(もちろん結婚も)、そんな二人にベビーシッターの依頼が。
この章の見所はなんといっても"赤子"という存在の特殊性。
泣くことで感情を顕にはできるが、言葉を持たず思考しているのかは判然としない。
それでも純粋さを持つ"人"故に、庇護の対象とは言え動物に接するのと同じではいけなく。
赤子と感情で接する雪と、感情を削ぎいわば機械的に接する柾木。
赤子のような日常の外にあった特異な存在に触れ、彼らが見出すものは――。
テーマ性が明確に出ており、密度の濃い章に仕上がっている。
そして雪は溶け、山笑う春の訪れが聞こえてくる・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
●全体感想(ネタバレ少なめ)
シリーズ通して15時間強。
CG数は114枚(差分、カットイン含む)
BGMは41曲。
各季節ごとに主題歌一曲+OP,EDあり。
定価1000円*5
(無料のおまけノベル*3あり)
同人は全く詳しくないのですが、量的にはしっかりしているのではないでしょうか。
設定として神が重要な位置を占めている(三角関係の一人など)伝奇ものだが、
「神」云々への言及はさほど多くない。
しかしキャラの思考やその捉え方に難解な部分もあるので、そこまで気楽に読めるほどでもなく。
まあ(女尊男卑的な意味で)結構コメディ調なのでテンポ自体は悪くないかな。
ギャグセンスが光っているというより、「輝かしい学園生活」とか「騒がしく楽しい日常」を
にやにや眺める感じに近いかと。
それによってシリアス面とのギャップが引き立っているのはgood.
◯シナリオ
「冬75、春76、夏62、秋70、収斂72」と全体的に下がり気味なのは尻すぼみだからという訳ではないです。
「衝撃」という意味では段々と薄れていってしまうのはしょうがないと思いますし。
OHP見てもらえれば分かる(16人)ように、キャラ数が多め。
章によっては更に増えます。「夏」はそれが顕著。
「夏」の点数が低い理由にも関わるのだが、
これは「神事闘劇カーニバル」というシリーズ外の作品の続編にも当たるそうな。
いきなり8人増えてバトル始められても…って感じでした。
※バトル(多少のグロ表現あり)に関しては「夏」くらい。主軸は恋愛ものです。
キャラ数が多いということは必然的に話/キャラを絞って描いていくことになるが、
さすがに扱いきれなかった面が。
特に主要キャラの一角であるはずの蒼の出番が早々と無くなっていったのは悲しかった……
「春」でしっかりと盛り上げてくれた、という点に満足しておくべきかもしれないが。
補足:おまけシナリオの最初二つは蒼がメインだが、本編に入れてもさほど変化ない「おまけ」にしか過ぎないです。
また、落ち着くべきところに落ち着いたというのが「収斂」の点数が伸びなかった理由。
キャラはかなり奇抜です。上で述べたように思考の捉え方にも特殊性が見られる。(柾木side)
だからこそ「普通の恋愛」として耕平sideが際立っていたのは気に入っている点なのだが、
柾木のラストが「普通」に回帰し「あれ?それで解決しちゃうの?」という結論だったのが…
全くもって納得できないという訳ではないのだが、ネタが思いつかなかったのか、はたまた彼だからこそ「普通」に落ち着けたかったのか…。
どちらにせよ、さほど満足いくものではなかった。
(この場面の一枚絵に重要な"あれ"が描かれていなかったのは明らかなマイナス点)
また耕平sideは明らかな描写不足。
いくらなんでも簡単に幸せにありつきすぎだろ、と思ってしまう。
逆に言えば(完全ではないものの)Happy endで締めくくられるので、後味悪いということはほぼないかと。
◯テキスト
「言う」よりも「読む」ものである会話であったり、
女尊男卑のノリ(他の女にデレデレすんな→長刀でばっさり)みたいなものは多々あるので好き嫌い分かれるかと。
それでなくても癖が強いので体験版推奨です。
個人的には感情/思考の捉え方が好きでした。
※癖はあっても造語は特になかったと思います
◯音楽
シリアスやコメディ、バトルなど場面に応じた曲はもちろん(なかなか良曲揃いだと思う)、
丸一年を通して描かれるのに合わせてしっかり季節感を出せているのが良い。
特に冬・秋の寂寥感ある曲や郷愁漂う曲は好きです。
◯絵
笑顔かわいくないですか?このサイトでもパケ絵が見れます。
顔/基本的な表情(笑顔など)は描き慣れているというのもあって結構安定感あります。
身体全体になったり、普段あまり使わない表情(ぼんやりしたものなど)はもう一歩かな。
しっくりこなかったのは、キスシーンで直前の顔を離したものばかりだったのと、
「収斂」ラストの"あれ"がなかったこと。
また、目を引く構図がなかったのは少し残念。バトルの躍動感もちと薄かったかな。
総じて綺麗めで好きな方なんだが、少し辛口になってしまったかな(汗
◯システム
吉里吉里。声なし。全画面表示。選択肢なしの一本道。
既読スキップあり/未読スキップなし。
セーブ箇所は各章10個。(2章で10個の)「~夏~」が少なく感じる以外は問題ないかと。
ホイールで読み進めることは可能。オートもあり。
使いづらいのはウインドウ消しかと。
右クリック=「テキスト消し+右下のセーブなどのシステム画面表示」なので、
右クリック→システムから「背景のみ表示」の二段でないと消せない(と思う)。
こんなもんでしょうか。シナリオ面はちと部分的になりすぎてるので少し補足して終わりたいと思います。
一本軸が通っており、多少不足感はあるもののよく描いてくれたと思う。
そしてやりたいことを/描きたいことを描いっていった印象が強い。
軸が折れ曲がって方向変わらない程度に軸の周りをうろちょろしていた的な(分かりにくいですかね(汗 )
まあ、ぶっちゃけバトルとかいらな……ゴホゴホッ
クリエイターも楽しめて(多分)、ユーザーも楽しめる作品っていいものです。