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violinsさんのClear -クリア-の長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
Clear -クリア-
ブランド
MOONSTONE
得点
72
参照数
815

一言コメント

主人公ゲーという言葉がぴたりと当てはまる。ヒロインもそうではあるのだが、一番は主人公の成長物語。とある設定に基づく主人公の独白がかなり特殊であるため、やや人を選ぶテキストが見受けられる。しかし、√によってはその設定が巧く生かされており、なかなかにスルメな作品となっている。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

序盤はネタバレ控えめで。


OHPなど、ぱっと見キャラゲーの雰囲気を冠しているが、暗い側面も強く有しており、ドタバタ系にはなっていない。(これを明確に表しているのが朝一で流れる「Blue Morning」というBGM)
主人公は欠けた心の持ち主という設定であり、「理性によって感情を作りだす」思考を常としている。
勿論「感情」全てが作為的なものであるわけではないが、意識的に「普通」を演じるようにしている。
この点が好きになれるか否かで、本作の評価は大きく変わるだろう。
この点が他作品と比べてかなり特殊であり、それがテキストにも存分に現れているため、これからやる方は体験版を先にやることをお勧めしておきます。


本作の特徴として、共通が短めで、5人ヒロインの個別が長めに用意されてる点。(個別は共通の2倍くらいか。)
そして、各ヒロインの個別にはそれぞれ別のサブキャラが当てられ、各々の独自性を高めている。
しかしながら、共通短めということから分かるようにヒロイン同士の掛け合いはそれほど多くなく、
個別といってもイベント(体育祭や臨海学校など)では同じような展開も見られるので、やや飽きが生じやすい。


他に付記すべき点としては、各ヒロインは主人公と同様に”影”を抱えている。
その”影”を抱えながらも、ヒロインは魅力的に描けている。(とはいってもいちゃいちゃするキャラゲー程ではないが。)
良い点としては、根底部分のぶれが少ない事。さすが呉氏といった所か。
故に違和感を感じることが少なく、「愛らしさ」を感じやすくなっている。








――――――――――――――――ネタバレやや多め―――――――――――――――



攻略は無月→美姫→ののか→春乃→紗由 とやったが、最後の二人、特に紗由シナリオはよくできていた。
二人に共通している点は、光一と同様に「欠けて」いる点。
欠けた者同士の掛け合いが本作で最も評価すべき点であった。


春乃は簡単には恋愛関係に至らず、自然と友達としての、それ以上を望まない距離感が良かった。(勿論途中までの話ではあるが)

>だって、心の底から、なんて、言えるはずないじゃないですか。
>あたしは、自分の気持ちさえ、遠くにしか分からないくらいなんだから……


紗由のマスコットの演出、理性を欠いた紗由と光一の噛み合わなさ。
特に紗由の感情の起伏・動きには目を見張った。
紗由を救うのが誰でもない、心を欠いた光一だからこそ感動できる物語であった。

>一人では生きていけないということは、誰でもいいということではない。
>人が本来一人であるなら、選択にこそ意味がある。
>マスコットの無意味な笑顔は、楽ではあるけれど。
>それじゃ意味はないから。だから。