走り続けるのは楽だ。一度止まってしまえば、以前と同じスピードでまた走るのは難しく、下り坂を一人降りてしまえば、みんなのところまで登るのはもっと難しい。変わりたくなくても、周りが変わってしまえばそれは許されない。自分に嘆いても、周りを呪っても、動かなければ堕ちるだけ。どんなに不恰好でも、もがけばみんなが幸せになれるなんて子供だましの夢でしかないけれど、それでももがくしかないじゃない。諦めたらそこで試合終了というやつですよ。というゲーム。長文は主に義理の兄妹について。
音声8割ほど聞いた時間。「クリック後もボイス継続」なし
4:01/莉寿
3:44/未来
1:52/美桜
計:9時間37分
登場人物は尽く不器用で不恰好で、だから「がんばる」姿がかっこいい。
なんとか「ありたい自分・環境」になろうと苦しみ抗う話で、当然キャラに重心が置かれて
いるが、心理描写は概ね理解でき、それなりに満足いったかな。
(時間を置いたから他二人はあまり記憶にないが、)美桜は決定的な岐路が弱い。
本人が言うように、簡単には変われないからこそ、主人公が他とは違うんだという特別さや
過程に厚みと長さが欲しかった。
が、70%くらいの満足度は得られたからそれなりっていうことで。
※以下、莉寿(妹)ルートのネタバレ度高いです。
このゲームで一番心を打たれたのは「(義理の)兄妹」になることについて。
特に、青年期を迎えてから兄妹に「なる」という点。(本作は物語時の3,4年前くらいから。)
恋愛ゲームにおける義理の兄妹(姉弟)って、「兄妹」→「恋人」という間隙をつく話が
ほとんど、というのは言い過ぎでも、多いとは思う(“恋愛”ゲームだし)。
「兄妹」であることは当然の前提となっていて、義理か実かってのは「恋人」へのハードル
の高さに関わってくる感じ。
義理特有の「兄妹」像・観は、専ら「恋人」像に引き寄せられて語られる。
で、本作は「他人」→「兄妹」→「恋人」という中で、前者の変化を重く扱っている。
精神不安定な妹を(恐れながらも)救うため、チンピラから四六時中「優しいお兄ちゃん」
に徹するようになる主人公:真之。
次第にそれに応え、「妹」となっていく莉寿。
あれ(兄妹)もこれ(恋人)もと器用に使い分けられる真之でもなく、彼は頑なに「兄妹」
という枠でしかお互いを捉えない。
しかし、恋人を捨ててまで自分だけを見てくれる「お兄ちゃん」に対し、お年ごろの莉寿
が男を感じないわけがなかった。
そんなふたりの折り合いは、テンプレ的「兄妹」に徹し、身体的接触は抑えながらもお互い
が一番身近な位置を占め続けることだった。
そんな中で、外的要因によってこの関係が崩されていくというのが本編。
結局sexしなきゃHappyEndに辿りつけないし、「恋人」関係にかなり近づいてはいる(結婚
はしないと主人公が頑なに言っている)。
一方NormalEndは性的関係(莉寿の思い)を拒否し、「兄妹」にとどまるというもの。
真之も内心、莉寿を「女」としてみることを抑えている。
だから一緒に寝るとかなると性的なにおいに敏感で、それを受け入れない。
そう考えると、「兄妹」といえどふたりとも「恋人」関係に片足突っ込んでると言える。
しかしそれでも、Endは逆が良かったなぁと思ってしまう。
(HappyEndも「兄妹」を捨ててないから、好ましいが)
何が良いって、意識的・意図的に作り上げた「兄妹」だからこそ、そこにこだわらざる
を得ないこと。
確かに「兄妹」という地位・形式は与えられるものだが、その中身は作り上げるもの。
「初めから◯◯だったやつは、その価値がわかってない」とはしばしば聞く言葉だが、
苦労したからこそ、その価値も重く見るし、そこへの固執もうまれる。
演技だろうと「兄妹」として関係を深めてきたからこそ、簡単に捨てられない。
つまり、なかでも真之の気持ちが迫真的で味わい深かった。