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violinsさんのnarcissuの長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
narcissu
ブランド
ステージ☆なな
得点
84
参照数
425

一言コメント

非常に処理に困る作品。”日常”が”日常”でなくなった時、身に残った刺は何を与えるのだろうか。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ブラウン管に映るナルキッソスと、窓際に咲くナルキッソス。
壁のない世界と15cmの隙間。
日常と非日常。
仮想と現実。

普段行かない場所など無数にある。
山小屋、空港、警察署、球場、ダム…
それでも病院という場を、
"日常"の延長ではなく切り取られた一部として感じるのは、
"死"を想起されられるからだろうか。
"いい気がしない"からだろうか。



自殺者3万5千人の中の一人。
どんな想いを抱いていようとも、
どんな状況の末の決断であろうとも、
社会ではそう処理される。
笑って死にゆく者も、失意の底で死ぬ者も、
遺せなかった者も、等しく。

「ナルキ1」でセツミは、断片的な過去しか見せない。
彼女が車に詳しい理由も、5万円を持っていた理由も、
ナルキッソスに何を見ていたかも、知ることはできない。

身近な者ならまだしも、常々赤の他人の死を悼んでいる人はそうはいないだろう。
セツミ…通りすがりの、若しくは出会うことすらない他人より少しだけ知ることができた人。
けれど、思いを汲み取れるほどには、身近ではない人。

だから、「佐倉セツミ(瀬津美)」で「阿東優」であり、
声の代わりに言葉を費やし、始めから(=表紙で)笑顔を見せる小説版は好きじゃないし、
「セツミ」の過去が語られ"身近に"なる「ナルキ2」は、
彼女の幸せを見せる優しさはあっても、残酷でもあると思う。

彼女の死に、何を感じるだろうか。
それとも、何も感じないだろうか。



2月、寒空の下。生涯の伴侶を抱いた胸にはタオルを巻いて。
中学生の時のままの背格好。
数日も保たない身体でグラビアアイドルの真似事をした彼女。

殺したはずの心は溶け、死地で笑ってみせた。
未来が閉ざされた中で、幸せを感じさせた。
二十二年間を哀れだとつぶやいた彼女が、
僅かな時間でも、きっと、自分を愛せた。

彼女の死は自分には響かない。
それでも。
"わがまま"を言えた最期を、美しいと思う。