王道故の安心感あるストーリーと淡々としたテキスト。常に一段上のレベルを保っているが、ずば抜けたものに欠ける。
面白い。確かに面白いけれどのめり込むほどではなく。
何が足りないって、重厚さ。
数発の銃弾で糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
それくらい死が「あっけない」ものであるとの描写は良い。
けれども、そこへ至る過程やアクション、腹の探り合いによる緊張感等々でより"重さ"を出せたのではないか。
アインとツヴァイがカップルを装う場面で、満面の笑みから一転して暗殺者としての顔になる。
この変わり様は、文字より(瞬間的な)情報量が多い絵という手段を用いたからこそ「ゾッ」とする。
これと同様に、"重さ"と"あっけなさ"の高低差を見せてくれるかと期待していたのだが……。
もちろん、ど派手なアクション映画の様なものを期待していた訳ではない。
2章のキャルBAD(ロフト爆破→皆殺し)などは特に心の闇が表せているとも思う。
ただその場面での失意・絶望感・憤怒etc...が"強く"伝わってこないのは、
自分にとって対岸の火事でしかなかったからであろうか。
3章の学園生活は"日常"の表現として「かなり」軽さがでている。
しかしその対である非日常の暗殺者としての日々の"重さ"が物足りなかった。
振れ幅が(予想より)小さかった為、暗殺者としての一面も、そこから離れた学園生としての一面も、
そこに現れる悲壮感・日常の美・平穏も心を打つほどではなかった。
虚淵氏の文章は読みやすく、それでいて(さほど重くはないけれど)軽々しくはない印象を受ける。
硬派と言えばいいのか、淡々としている面が強い。
無駄を削ぎながら、暗喩に任せず平易に、対して趣味(銃や車など)には熱く。
確かにレベルは高いと思う。
しかしながら、"抗い難さ"を感じない。
どうしようもなく感情を揺さぶられるような、心を抉られるような、そんな強さを。
面白さは心が揺さぶられる幅の大きさに比例する、もしくはそれに近いものだと思っている。萌えでも抜きでも。
だから自己主張の強いテキストの方を好みやすい。(希、瀬戸口廉也、田中ロミオなどなど)
主張が強いほど、合わない場合(人)も増えるので商品としてよろしくないのだが。
巧いと面白いを一致して見れる人って、(発信の巧拙はともかく)評論家気質なのだろうか。