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violinsさんの銀色の長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
銀色
ブランド
ねこねこソフト
得点
80
参照数
1058

一言コメント

凶器。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

心を抉られませんか?
私は言葉が出せない程苦しかったです。
最後には心が綺麗になるような、そんな感動を覚えましたが。



1章が終わったときの感傷。茫然自失に近い。
そして立ち上がり、ふと手を止めた瞬間に襲い来る絶望感・虚無感。
なんかもう、訳分かんないんですよ。
訳分かんないのに、呼吸するのも苦しくなって。

そして恐ろしいのは、日常の影に見えること。
おにぎりを見たとき、「あぁ、白いなぁ…」って。
これが、数日分の命の価値なんだって。




2章

ひとつの自己犠牲ものと言える話なのだが、私が今まで抱いていた印象と大きく離れた位置に属する。
4章も2章とは違い、今までの印象に近い話なのだが、ここは敢えて違う作品で。
思い出補正も手伝って「風の谷のナウシカ(映画)」が自己犠牲もので最も印象深く、
それから得た印象は"美しさ""強さ"といった、正の側面。
もし仮にナウシカが死んでいたとしても、この印象は変わらなかっただろう。
悲しみはあっただろうが打ちのめされるものではなく、生への糧を得るようなものを感じて。


本作では、狭霧が村のための贄となる。
それが謀られたものだと知っても全て受け入れ、自らすすんで。
形は違えど、自らの命を賭して他者を救おうとする姿勢に違いはない。
それなのに、"悲しく、辛く、苦しい"。

確かに意志の強さはあった。
生き方を、死に方を決めた彼女に、言うべき言葉を持てないほどに。
見届けるしか、覚えていることしかできないと。
けれども。


 >なぜいじめられっ子が、いじめられると分かっていても後ろを付いて回るかわかりますか?
 >いじめられる役が欲しいからです。存在を否定され、無視されるよりはずっとマシですから。


「自分にしかできないこと」と捉えていたとしても、そもそも"与えられた"役割であることに変わりはなく。
彼女の心を占めていたのは村の幸せなどではなく、役割をこなす、それだけで。
彼女はそれで幸せだった。
そう、他人の幸せに口なんて出すもんじゃない。
それでも。
自己犠牲という役割に至った人生が、それを望んだ境遇が、美しさなど塗りつぶして、ただ哀しく苦しい。



追記(2011/2/5)
ニーチェの「力への意志」を権力に当てはめると、権力への意志は以下のようになるそうな。(傍点省略)

I)非圧迫者は「自由」への意志としてあらわれる
II)権力へと成長しつつある比較的強い者は権力の優勢への意志としてあらわれる。
 但し、支配者が持っているのと同等程度を限度として。
III)ルサンチマン(=弱者から強者への妬み、不満)を持ち得ない権力者は、
 「人類への愛」「民衆」、真理、神への愛としてあらわれる。そして、「自己犠牲」という形でも。

結局、「自己犠牲」は"力ある者"若しくはそれに相当する者が行うことなのではないか、ということ。
だから狭霧がそれを行う様に憐憫を感じるのかなぁと思った次第です。



3章

精神的にかなり弱い姉と、健気に愛し続ける妹。
「恋」によって異常なまでに精神異常を起こしたとも、銀糸の代償でそうなったとも取れるが、どちらにせよ受け入れがたい。
前者に関しては変化に付いていくには素地がまず足りないし、後者に関しては他キャラへの影響の無さ・弱さが際立つ。
(他の章との整合性から見ても後者は無いように思える)

ねーちんの支離滅裂な言動自体はまだ良いとしても、他キャラもそれに当てられたかのように思い・思考が見えなくなるのが…
主人公があからさまな贔屓を受け入れたり、当たり前のように「奇跡」を信じ、それに頼るのも、
朝奈とエッチを行う流れ・会話にしても、(シナリオ上そのように)"言わされている"感じが拭えない。
そもそも素地が足りなかった為ねーちんのキャラ自体も"作られた"ものという印象が強い。
会話の端々に違和感を感じて仕方なかった。

彼女たちは、生きていたの?




4章

現代に受け継がれた「銀糸」を持つ少女と、「銀糸」の始まりにまつわる中世の物語。
出会いと恋。身分と人間。会話と言葉。
どんな違いがあろうとも、相手はひとりのヒトに変わりはなく。

身分も、失声症も、全て「その人」として認めて気負わずそのまま受け入れる。
それを当たり前に行えるっていうのは、本当にすごいことだと思う。
苦痛でも不幸でもなく、人の強さに感動するのは、気持ちいい。
…それでいて、それを成し遂げられないことにイタさを感じる。






幸せのカタチ。
ささやかな奇跡。
みながみな、客観的に見て幸せに満ちているとは言えなくても、
心が晴れるような幸せは感じられる。

誰も彼も皆、光ってた。