晴ルートとTrueは楽しめたのですが、使い切れていない設定、キャラ像の不安定さ、抱える問題の類似など、粗が目立ちます。矛盾というミスは少なからずありますが、それが面白さを削いでいるのではなく、設定・舞台を活かしきれていないという薄さ・軽さが伸び悩みの原因に思えます。もったいない。
音声3,4割聞いた時間。「クリック後もボイス継続」あり
1:00/体験版
2:58/奈月
2:01/晴
2:27/暦
1:15/夕姫羽
1:48/ニコル
0:21/杏・回収
2:13/True
計:14時間3分
CG数(内エロ):奈月21(8)、晴18(7)、暦19(7)、ニコル17(7)、夕姫羽6(3)、その他9、SD12
シーン数:夕姫羽(ハンカチオナニー、本番)、他3回ずつ
BGM数:32曲、ボーカル・インスト3曲
ルート評価は
80点ライン
なし
75点ライン
・晴(同好会仲間の維持と恋人関係の構築、晴の心情の明晰さ)
・True(シナリオの盛り上げ)
70点ライン
・夕姫羽(論点の明確さとまとまりの良さ)
65点ライン
なし
60点ライン
・ニコル(シナリオは唐突かつ茶番じみているが、声の使い分けが楽しい)
・奈月(シナリオも恋愛感情の動きも平坦。キャラよし)
55点ライン
・暦(演説の理屈が不明。孤児院出身が活きていない。マスターと信頼関係を結べた
ように、「家族」はつくれるという方向の話ならまだ孤児院が活きた。数式会話も唐突)
※ネタバレ全開です
◯「罪」と「魔可」について
「七つの大罪」というのは、各キャラに集中しながらも、固有の問題でシナリオも盛り
上げることができる、萌えに徹するのではなくシナリオでも魅せる(夏以降の?)サガ
プラらしい、いい題材だと思います。
あくまで萌えという枠があるので、映画『se7en』のように娼婦(色欲)やデブ(暴食)
などを出すわけにはいきませんが、「罪と言っても小さなもの」といった風にゆるめて
適用しているので、概ね適当でしょう。
この大罪、突然降って湧いたわけではなく、それぞれのキャラに「素質」があったから
選ばれたのだと――娼婦が色欲となるように至極当然のことではあるが、作中ではTrue
に入ってから――判明します。
Trueにおいては魔可(=罪の現象)を根本から消すための七夕の儀式の成功を、それ以外
においては儀式の失敗とヒロイン毎の「素質」の追求と罪の解消を。
魔可・罪を中心としたこういう構成だったら非常にわかりやすく、一貫性もだしやすい
ものになっていたかと思います。
しかし、パッチワークのように簡単に「罪」は外れてしまいますし、そもそも「罪」が
正常に機能していないです。
「素質(小さな罪)」と「魔可」
この整理に致命的なミスであればまさに以下は駄文尽くしになります。
海人・・・以前暴行事件を起こした罪。怒りの「憤怒」。鎖を引きちぎるほどの力。
奈月・・・幼少期、発表会より仕事を優先した母親への「嫉妬」。我儘を言ったことが
遠因となって引き起こされた事故への罪悪感。「嫉妬」は主人公大好き。
晴・・・欠陥工事発注について裏取引の責任を問われた父親への、信じたい気持ちと
不信との葛藤。「暴食」は疎遠となった父親に愛されたいという渇望か。
暦・・・他人の要望に応える力はあるし従うが、自分から動く主体性や願望に欠ける
ことからくる「怠惰」。突然の爆睡。
ニコル・・・祖国を憂いながらも、周辺諸国と戦闘行為の伴わない「戦争」状態にある
祖国を捨て、学生生活を謳歌する姫。「色欲」はどこに? 同姓を猛烈に惹きつける。
夕姫羽・・・親の敷いたレールで何不自由なく生きてきて、これからも生きていく未来。
愛情は感じていても自分が空虚に思える。「傲慢」に含まれる前の「虚飾」の方が適切
に思うが、空っぽの自分を満たそうとする「強欲」。限度を逸した衝動買い。
未来・・・現在リサイクルショップの店員であり、親しい友だちであった南々見に怪我
を負わせた7年前のカルマルカ接続から、カルマルカへの嫌悪とその廃棄を望む。超常を
一個人が破壊しようとなどとは「傲慢」な「対神罪」だ? 「傲慢」の能力は記憶改変。
※「対神罪」は雑記の最後に少し書きました
この「素質(小さな罪)」と「魔可」の問題点は以下の四つかと思います。
①「素質」がわからないキャラがいる
②魔可が罪を表していない、関係性が薄い(発動条件が不明なのもその一端を示している)
③「願望」と「罪」の混同
追加:④魔可は「罰」か「能力」か。未来の「傲慢」は単純にスキルでしかない
ある行為を過去に起こした(=小さな罪)。その経験が「素質」であり、この学校という
カルマルカの力の及ぶ場所に来たことで「魔可」として発現した。
こういう筋のはずが、ニコルは酷すぎて除外するとしても、晴の「父親を信じられなかっ
た」がなぜ「暴食」になるのか。果たして愛の渇望だとしてもそれは「願望」であって
「罪」ではないはずだがどういう理屈なのか。
暦の自主性の欠如が「罪」だとするならば、睡眠によって関係を途絶するよりも、無気力
によって意識的に行動を制限し、罪の意識を抱えさせるほうが良いのではないか。
奈月の影響で主人公を宇宙フリークにして、「家族か仕事か」ならぬ「恋人か星か」とで
もして「嫉妬」させればまだマシだったのではないか。かわいさ重視ならば「罪」は脇に
置き、素直に他の女の子への「嫉妬」でもいいが。
暦が寝てる姿をみせる、奈月の照れ顔をみせる。蓮という代役を立てシナリオ進行に使う
ために記憶改変能力にする。全体を貫く解決すべき「問題」の位置を与えられながら、
(制作上)便利な道具程度に堕している感が否めません。
追加:色欲は『となりの怪物くん』に出てくる、異性に好かれまくるけど興味がなく、それが
原因で同姓からも疎まれて孤立・「男嫌い」になる夏目さんみたいになのでもアリだったのでは。
無碍に扱った罰として、本人が急激に惹かれる形だが、配慮して対象は同姓に限るとか。
夕姫羽が暦を可愛がるパターンの強化版的な感じですね。
単純にエロエロにするにしても、萌えゲの枠内で「色欲」って結構めんどくさいもんです。
◯対「魔可」という共闘関係から、「友だち」へ
結論を言えば「友だち」描写が少なすぎて、虚飾めいている。薄っぺらい。
Trueではまさに「ハッピー&スマイル」を体現するテーマであったが、予想通り魔可の
解消と未来も過去も改変する「カルマルカの接続」に話をとられ、「友だち」として楽し
げに過ごすのはエピローグに持ち越されている。
「カルマルカ」シナリオを進めなければいけないTrueでこういう展開なのはしょうがない、
和気あいあいとした空気がエピローグにあるだけというのも、ある前提があれば受け入れ
られるんですが、その前提がない。
前提ってなにかというと、Trueに至るまでに経過しないといけないヒロイン毎の個別ルー
トでの「友だち」関係です。
「他でも仲がよかったのだから今回(True)も当然そうなれる」という下地作りがあって
然るべきだったのではないでしょうか。
普段の同好会からして、本当に仲が良いとみてとれるのは暦と夕姫羽くらい。ムードメー
カーであるニコルも、主人公を介して他とつながっている印象が強い。
新参者ながら円の中心に主人公が居て、ヒロイン同士の交流が十分ではなかったように
思います。
また、個別でも、9割方奈月は主人公と二人っきりだし、暦は夕姫羽と主人公の三人セット
で他キャラの出番はほとんどない。晴とニコルがかろうじて他キャラの出番も多いが、
問題解決が主で友だちよりも共闘関係の匂いが抜けない。
そして共闘といっても、結局個別に害を被っているだけで、魔可によるつながりも希薄。
だからこそ文化祭という行事が輝いたはずなのだが、グダグダした会議で何時間何日
と無為にしたことが、「一緒になにかするのは楽しい」というプラスのつながりを奪っている。
個別では儀式が失敗するものの、魔可についてはほとんどが自然消滅します。
特に奈月ルートみたいに出番がなくなると、まるで魔可がなくなったら関係もなくなった
かのように見えてしまい、余計つながりが薄く見えてしまったのも失敗と言えるのでは
ないでしょうか。
薄さっていうのは何も友だち関係についてだけではなく、他でも多々見られます。
例えばニコルや奈月は主人公が(止むに止まれず)暴力を振るうことを止めますが、主
人公の「罪」と悔みをどこまで理解し、主人公のためを思って言ったのかと考えると、
上辺だけにしか見えませんでした。
主人公の机破壊にとどまらず他人に向けた暴走(未遂)を、共通部分などで一度入れて
おくべきだったのではないでしょうか。
「カルマルカ」をなくすという目的があり、共通部分(但しマップで奈月を選んだ時)
で奈月に母親の名前を問うなど動きをみせたかと思うと、鳴りを潜めるなど、未来の
動きは不明な点(シナリオ上で動かされている)が多いです。
初めてが野外でも全く抵抗がない、声を潜める考えも全く浮かばないのは残念です。
「我慢できない」でも「ここなら見えない」でもなにか一言あれば背徳感なりが生じ
うるかもしれないのに。
(あまり覚えていないけれど、似たように「呪い」をうけ共闘する『るいは智を呼ぶ』は、
仲間意識が高かったように思います。スプレー缶でいたずら書きをするあのCGが
あまりに楽しそうだった、命を懸けたというつながりの強さ、その印象が大きいだけ
かもしれませんが、本作はそういう強い印象すら残りそうにないです。)
◯雑記
・立ち絵で髪型を変えたのは良いですね。奈月は同系統で変化に乏しいものもありまし
たが。
・ボーカル曲不足。個別Endでインストなのは非常にチープさが漂う。2ndOPをなくして
でもこっちに当てて欲しかったです。
・ニコルが酷く傷ついた主人公を目の前で放って帰国したのはあんまりな仕打ちでした。
ニコルを救おうと身を挺して立ちふさがったのにね。あと、祖国は財政的に厳しいとか
言っていたのに、快適そうないい部屋に住んでおられますね。
・晴の「男嫌い」は一種のポーズだからむさ苦しい土方で働くのも厭わない。それはいい
のですが、「男嫌い」を気取る理由、作る理由なりを示さずやられても、晴がなにをどう
考えているのかがよくわからず、ただの横暴に映りました。
・杏という魔可から離れたルートがあったらメリハリを効かせることにもつながった。
というか杏がかわいいのにブラスケだけかあ。
・別離もどきというシナリオ展開が似てるよ。特に奈月はそれにする必要性がなかった。
・理事の動機がしょぼい。True以外の最初の七夕で開かずの扉を使わせなかった理由って
未来の指示だとしても、結局わからずじまいでしょうか。
暦ルートの演説の所で「学園長が悲しまれる姿を、その目でご覧になりたいですか」と
問われ「ぐぐぐっ‥‥‥!」としているが、果たしてなんだったのか。
・矛盾点を数え上げると両手の指では足りないのですが少しだけ。7年前の「事故」の扱
いは齟齬が大きかったです。晴ルートでは関係者から聞き取りを行おうとしても「マス
コミや警察に散々話した。放っといてくれ」となるほど大事であったことが示されますが、
Trueでは「誰が怪我したかのすらわからない。人が死んだのも噂程度」と非常にギャップ
があります。晴の父親はTrueでも議員辞職に追い込まれていたわけで、「噂程度」では
無理が生じます。
「カルマルカ」を起動する時の並び順ですが、結局円陣を組むことが意味を持たなかった
としても、キャラの内心としては先代の儀式通りにやろうという意識があるはずです。
だから正当な理由なくそれを破るのはおかしいし、暦が事前に紙に書かれているラテン語
を調べていなかったのもまた納得いくものではないです。
・「傲慢は象徴罪であり、対神罪である。その根は、人生観、世界観そのものの土壌に
深く根付いている。傲慢は、すべての悪の起源であり、魔王の傲慢こそ破滅の始まりで
あり、原因である。そうアウグスティヌスは観じ、のちの世代もそう理解した。」
(ホイジンガ『中世の秋Ⅰ』中クラ46,7頁)
(ちなみに13世紀以降は傲慢より貪欲(強欲)が悪の起源に取って代わったようである)
確かに傲慢(未来)から怠惰(暦)へと伝播しているのだが、未来をより中心に据えて
Trueは未来Endにしたらより盛り上がれたのかもしれません。
それには逆転した神殺しとして「カルマルカ」をより祭り上げ、殺す理屈もより正当化しな
ければならず、大作化してしまいかねませんが。