プレイ時間の半分は主人公がループを認識している囚われの一ヶ月間であり、それを繰り返すことになるのだが、ここに「自分じゃ解決できないし、どうせだから楽しもう」といった遊び心がふんだんに入っているのが楽しい。一方、恋愛に関しては、主人公がループを自覚しつつとっかえひっかえ手を出していくため、(エロ目的で襲ったり口説いたりはしないからゲスくはないけれど)不誠実で「好き」だの「愛してる」だのが軽くみえる。この点「何人も攻略できてなにが『純愛ゲー』だよ」とかいうメタ的観点が内在化されているが、掘り下げたり葛藤したりは少なく、主人公がどう捉えているかがあまり見えない(管理が余りに複雑化するし難しい部分ではあるが)。こうした感情面でのリアリティ不足や、盛り上げ役のヒールが中途半端すぎたりと、題材の重さの割りに全体的にライトに仕上がっているのは好み次第でいいとしても、〆が弱いのはもったいない。
「ねぇ、名前……一応、名前教えて?」
音声7~8割聞いた時間。「クリック後もボイス継続」あり
2時間/体験版1と、2の一部
8:37/ループ
1:32/ループ突破へ
2:54/終幕
計:15時間
CG計94数、差分含まず。日常(エロ)
和歌:8(6)、いのり:6(7)、ころね:8(6)、ゆうき:7(6)、ニア:6(3)、
複数:9(2)、SD:19(0)、その他:1(0)
シーン数
和歌:4(内フェラのみ1)、いのり:4、ころね:3、ゆうき:3、ニア2
和歌+いのり:1、ころね+ゆうき:1(W足コキ)
BGM数:25曲+テーマ曲
◯キャラとあらすじ
幼馴染という地位にあぐらをかき、自分の非道に無自覚で主人公:奏から避けられがちな
天邪鬼型ツンデレ系幼馴染:いのり。
「みな兄がうろたえている。これは妹の圧勝だね、にへり」などとちょくちょくいじっては
「素直じゃない妹なりの愛情表現」を見せるころね。
ランナーとしての快活さと、小動物的なかわいらしさと臆病さをもち、「先輩」と慕って
くれる後輩:ゆうき。
怪我の手当をした翌日、編入してきたと思ったらいきなり告白しやがった転校生:和歌。
明朗で人当たりがよい一方、奏には積極的にアプローチをかける気の強さも。
4人から陰に陽に好意を寄せられている奏は好きと言える人もいず恋愛についてあまり
関心を示していなかったが、和歌の押しにやられ恋仲に。そして性交も果たすも翌日
(9/29)は訪れず、和歌の転校初日である9/2にループした…。
混乱する奏のもとに訪れたのは「時の悪魔」と自称するニアで、彼女は超常の力をみせるも、
奏が陥っているループについては「ぼくのやったことじゃない」「終わらせることはでき
ないが調査してみる」と、「だから奏は人生経験だと思って楽しめ」と助言する。
んでループセカイを生きてく、といった筋。
◯「遊び心」とループにおける恋愛
「よし旅に出よう」と北端に至り女店主と行きずりの関係を結んだり(エロシーンなし)、
体験版2にないものだと、文化祭(ループ後なので作中は準備だけ)で一花咲かせようと
ヒロイン達にバンド組ませてプロデュースしたり、出会って半日の転校生と一ヶ月で電撃
入籍+式挙げ+ウエディングドレス姿で処女散らしたり…。あと、男性教諭に掘られた
(らしい)ものも…。
ループ中のEndは、各々数種類あるヒロインEndと「旅に出よう」のように細かいの含めて
20前後はあるだろうか。
(既読スキップは一回あたり1~3分ほど)
(いのりを攻略→鈍感で以前気づけなかった好意に気づけるように、など数クリック分
だけど 地の文などに変化がはいるのは好印象)
ここにあるヒロインEndも、
>(略)だって俺とことねは、あくまでも兄妹なのだから。
なかったことになるループだから、俺は彼女と結ばられることを
選べた。先の人生に続く道ではないから、そんな選択ができた。
もしそんな特異な状況でなければ、俺はきっと常識を取ると思う……多分。
>彼女(注:いのり)の身体を、優しく抱き締めた。
どうせこの後告白されると分かっているのだから、ここは手っ取り早く済ませよう。
首絞められるのは痛いからやだし。
「……俺に、告白するつもりだったんだろ?」
こんな感じで、恋心とまで言えなくても「ループだから」踏み出せる、「(どうせ消えて
しまうなら)俺を好きだという彼女の気持ちを満たしてあげるほうがいい」といった風に
考えて身体を重ねたり、相手の好意を知っているという優位な立場を利用したりと、相思
相愛からSexへと到る一般的な萌えゲーでは考えられない思考・展開もあって非常に満足
した。
加えて、ニアやころねがSっ気みせたり、逆にいのり・ゆうきのM気質が発揮されるエロ
も用意されていて、「処女なのに」というギャップも出ていて存外良かった。
けど、絵は崩れがちょこちょこ見られる(ころね初Hは擁護できないレベル)し、服脱がせ
たと思ったらキスや胸いじりすっ飛ばしてクンニ→挿入で尺が短めとか、惜しい。
あと、ゆうきは健康的に焼けてる色なのがすごくすごく良いんだけど、ブルマや半袖の
日焼け跡をつけないってどういうことなの。
◯シナリオ
ループの仕組み・原因はちゃんと説明されるし、それぞれの感情に合わせた決着を見せる
けど、伏線が巧みといった理由でミステリー的に「やられた!」はないと思う。
一箇所ダブルミーニングになってて上手いなぁと感心したところもあったが、驚きではない。
(低く書き過ぎたので追記:エロゲでお馴染みの展開をループと絡めて納得いくものにしたり、
実は行動や感情の動きの整合性があったり、振り返るとよくできてる部分が多い)
True Endも用意されているが、他Endと同様軽め。そして短い。
大きな感動や驚きはないけれど、さほどダレることなく楽しめるゲームになっているのでは。
一言感想に書いた、ヒール(「時の悪魔」ニアちゃん)の不徹底さはまあ動機が動機だし
ラフでも良いとして、題材の重さに対するリアリティ(=説得力、論理性)の不足は、
ネタを隠すことに重点を置いた故だろうか。
「好き」とか「愛してる」といった強い感情は爆発する、もしくは発言までの過程が詳細
だったり劇的なほど伝わりやすいもので、そうして感情と行為の一致が感じ取れるように
なるわけだが、奏が記憶保持者・ループ期間が一ヶ月と短め・攻略対象4人などの制約が
マイナスに働いて描ききれなかったのかなと思う。
具体的に言っていくとネタバレが酷くなるので割愛。
ただ、記憶保持しながらも単純に「好きだから付き合う」という逃げをせず、上で書いた
ように「ループだから相手の思いに応えよう」といった奏の行動はいい落とし所だったと
思う。
奏がほんとに誰か一人を好きになったら、他になびくのに無理が出てくるし、4人全員好き
とか言い出したら軽薄さも出てしまう。
◯幼馴染いのり
※ネタバレ度高いです
幼馴染属性って大好きだし、ツンデレも好物だ。
しかし、しかしだ。
ツンデレ系幼馴染が大敗北…ではないけれど、敗北しているってのは注目に値する。
一番近くにいた幼馴染が横から現れたヒロイン(Boy meets girl)にかっさらわれるのは
よくある展開だ。というか幼馴染の宿命といえるほど。
確かに今作でもそれがあるのだが、そこにとどまらず、たとえ付き合ったとしても主人公
はいのりに対して苦手意識を解消しきることがない。
「なんか流れで告白受けたし…Sexしちゃったし…、こいつは弱くて俺がいないと…。」
そしていのりの方も無様に「捨てないで!」「私を選んで!」と泣きつくんだよ。
更なるネタバレを含めるともう一歩酷くなる、それくらい不遇…いや、自業自得。
好きな人と思いが結ばれない。結ばれても返ってくるものが圧倒的に少なく、作中で改善
の兆しがみえずに終わるってのはさすがに可哀想ではある。
が、こういう相応の、然るべき扱いを受けることにスカッとしたのも事実。
素直になれない。謝れない。暴力を振るう。相手の立場に立てない。自己完結している…。
ここまで人として問題があると、尚更幼馴染やツンデレ一般に当てはめることが難しくなる
けれど、部分的に重なっているキャラは他でもよく見受けられる。
「かわいい」にも、恋は盲目にも、限度がある。
いのりは奏だけじゃなく彼への言動からころねに嫌われ、それを知ったゆうきは奏側に
立って涙を流し、和歌とは確執を抱えている。
実際のところ嫌われているだけで終わらず「友達」としてある程度関係は修復されるが、
それでもフルボッコに近い扱いをヒロインが受けるってのはすごい。
ちなみに和歌も結構否定的な目で見られているし、仲良しこよしの軍団じゃないのが緊張
感を高めていて、気になる、読み進めようという魅力のひとつになっている。
そうしたギスギスしたなか、ゆうきは持ち前の優しさで、ころねは一番の理解者として、
天使っぷりを発揮してて心地よかった。
追記(2013/08/05)
元ネタが判ったのは三章だけだけど、一応。ネタバレ度高いです。
◯各章タイトル
一章:An ordinary strange day ありふれた有閑の日々
7/2~7/28まで。ループ直前の一ヶ月間。
これは内容そのままで、和歌というa strangerにかき回されるstrangeな学園日常生活。
二章:Grave new world 素晴らしき∞世界
ループ開始。
grave=very serious and important ; giving you a reason to feel worried(オックス
フォード英英辞典)
「素晴らしき」というプラスイメージとのギャップは、ループ世界をどちらとも取れる
ということか。
ゲームの空気的には「素晴らしき」が強い。
三章:Coldest equation 実と虚の方程式
ループ突破へチャレンジ。
トム・ゴドウィン「冷たい方程式(cold equation)」から。
「冷たい方程式」といえば物理法則といった、人の心が及ばない、ただ現象として起こる
「冷たさ」を示しているが、その意味の「冷たさ」が純化-estした内容にはなっていない。
「自分が中心にいる=近くに犯人がいる」ことに悩む奏の内心を表したものだろうか。
「実と虚」については、事実と虚像、真相が見え隠れする様か。…苦しい。
四章:Toricorlony with N and I. NとIのトリコロニー
真相解明へ。
Torico"r"lonyはミス? 検索しても人名が引っかかるくらいだし、
>トリコ=鳥籠→奏を閉じ込める鳥かご
コロニー=colony→同一種の生物が形成する集団
に反する。
あと、Toricoはtricolourとかの3と掛けてるのかとも思ったが、違うっぽい。
原因・理由のwithだとすると、Nodoka(和歌)とInoriがきっかけとなったループ世界か、
Niaの力(が伝播した4人)とI(=狙われた奏)か。前者かな。他は思いつかなかった。