ErogameScape -エロゲー批評空間-

violinsさんの屋上の百合霊さんの長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
屋上の百合霊さん
ブランド
Liar-soft(ビジネスパートナー)
得点
87
参照数
760

一言コメント

百合とレズの違いって、前者が結果(=好きになった子が女の子だった)であるのに対して、後者が前提(=女の子だから好き)である、との考えを聞いたことがあるが、その区別の仕方が的確か否かはまあ置いといて、本当にこの作品は「あの人」が「好き」で溢れている。(性的な意味での)エロはすごく薄いし、阿野と音七は「友達」の枠に居続けるし、一枚絵やボイス量といったボリュームは少なめ。けれどそんなことを吹き飛ばすくらい、思春期に恋をし(て叶っ)たときの、「きらきら・どきどき・不安・よろこび」がいっぱい詰まっている。好きだから笑い、好きだから悩み苦しみ、好きだから変わろうとする。ときには好きな人のために怒れるくらい強く、そして優しく包み込める、そんな子たちのおはなしです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

音声全部聞いた時間。パートボイス。「クリック後もボイス継続」あり

4:12/4月~6月、体験版1・2の大部。やや加筆等あり
6:15/7月~8月
5:49/9月~10月
0:20/11月
5:50/アナザーシナリオ(4月~11月。本筋から少し離れた部分や別視点で物語を多声化・補完。ifなし)

計:22時間26分

CG数:58枚(差分含まず)。
エロ:1回ずつ。阿野藤(結奈の友達)、三山音七(三人組の一角)はエロ・恋愛なし
BGM数:10曲+OP、ED、各inst及び挿入歌のinst(挿入歌はゲーム上では聴けません)
 音楽:HIR、コーラス:中恵光城


注意点としては、複数視点であり且つ、細かいストーリー(ひとつ5分~15分ほど)を
だいたい時系列順に読んでいくので、あるカップルを最初から最後まで一気に、とかは無理。
5組(+主人公:結奈)が並行して進んでいく形なので時間を置くとわかりにくくなるかも。
選択肢はあるが基本一本道で、物語展開に変化はない。カップル固定。
(選択肢はアナザーシナリオの出現条件)
特に付き合った後の話だが、デートといったイベントはあまりなく、恋人関係になっても
大きく変わらない(けれど心を強く結んだ)日常が中心に描かれる。
場面は、学校か家か道端だけ。





どの子もめっっっちゃかわいいです。
キャラ造形では二次元的な言動・性格がほとんどないし、心理描写も丁寧ですごく感情移入しやすかった。
テキストも詩的ではなく思春期らしい飾り気がない分、味わいはそこまでなくとも入りやすいんだろうな、と。
「恋してる」感は(エロゲでならば)今までで一番感じたなぁ。

友人関係が出来上がっていて、ふとしたきっかけから恋に落ちることもあれば、突然の出会い
から交遊せずに一気に告白まで(牧聖苗)いっちゃうこともある。
後者はその性急さから、多少「軽さ」を感じたりもしたのだけれど、その後に熱が冷める
ことなく慕い続けている(むしろより惹かれていく)のを見れば、一目惚れということを
引き合いに出すまでもなく、真剣さが、「好き」という気持ちが、びしびしと伝わってくる。



背の低い教師と背の高い生徒、遅刻常習者と風紀委員の鑑、友達フリークな元気系と
元厨ニ病患者、といった王道的なギャップも取り入れつつ、どのカップルも取替できない
「一対一のお似合いの」という形容詞が付けられる、ベストな二人を見せてくれる。
複数カップルの良さが非常によく出ていると思います。

主人公ひとりが4,5人のヒロインそれぞれをくっつく一般的なエロゲーでは「このヒロイン
かわいいな」と思うことは多くても、「ベストカップル」として主人公含めた二人「だから」
より素敵、というのはあまり感じたことがない。
あっても、大抵は同じ境遇にあるから理解しあえる傷を舐め合い乗り越えられる、っていう感じ
でキャラの性格うんぬんに見いだせない(個人的には)。
ヒロインを多様にするほど、主人公の合わせる範囲が広く薄くなりがちなだからしょうがない
のだけれど、作品全体を振り返った時に二人ずつくっつきながら大きな和を作ってて、みんなが
しあわせ感じてるなぁと思えるときのあったかさはまた格別で。
(恋心を抱いていなかった阿野も音七も含めて、です。)
ロマンちっくに、自分にとっても相手にとっても「運命の人」だと思いたいじゃあないですか。



複数視点といっても、牧聖苗・相原美紀では聖苗視点が中心であったように、告白する側が
メインとなっているため、一人称視点を共有するプレイヤーからしても相手の気持を推し量る
ことになる。
それがアナザーシナリオでの物語再構成において、告白を受ける側、あとから好きになる側
の視点がかなり補完されているのがまた面白く、かわいらしい。

特に、ロックだぜ!の古場陽香の想いを受けた風紀委員である有遊愛来の内心・性格が深く
知れたことで、告白に応じたことへの納得とともにちゃんと受け入れるのに充分な想いを
醸成させていたんだなぁと安堵する。
まじめで炯眼な部分と同居しているお茶目で思い切りの良い笑顔がかわいいのなんのって。
これはオチル。うん。



それにしても。
阿野・結奈は〔が〕欲しかったなぁ。
結奈・比奈は姉妹・母娘って感じが強くて‥‥。
阿野が、何も追求せずに結奈の望むことを汲み取って行動したり、ちょっとした結奈の
不意打ちにどぎまぎ照れたりする(アナザー:10/4とか)のがすごくかわいいのに。
というのが一番の不満になるかな。



恋はじめのあのときは、きらきら輝いて見えてたなぁとしみじみ。懐かしさと羨ましさと。。
特別なイベントは必要なくて、ちょっとした日常が変わっていく〔みえる〕。
カレンダー型という本作で採用されているシステムが、煌めきとまっすぐな恋心が凝縮された
日常のいち場面いち場面を際立たせている。
みんな一生懸命でしあわせそう。
OPみたいに、はーとが飛んでますわー。青春ってすごい。