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violinsさんの大図書館の羊飼い a good librarian like a good shepherdの長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
大図書館の羊飼い a good librarian like a good shepherd
ブランド
AUGUST
得点
85
参照数
928

一言コメント

すべての人間の生活は、自己自身への道であり、一つの道の試みであり、一つのささやかな道の暗示である。どんな人もかつて完全に彼自身ではなかった。しかし、めいめい自分自身になろうと努めている。ある人はもうろうと、ある人はより明るく、めいめい力に応じて。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ヘッセ/高橋健二訳『デミアン』新潮文庫、はしがき

こんなに宗教くさくはないんだけど、「なりたい・こうありたい自分」っていう世俗的な
願いや思いでも一心に叶えようとする姿勢には同じような強さを感じる。
快い物語だった。


音声ほぼ全部聞いた時間。「クリック後もボイス継続」あり

4:18/体験版部分、プロモまで
4:32/OPまで
4:32/佳奈
 1:08/嬉野沙弓実
3:34/玉藻
4:06/千莉
 1:15//芹沢水結
3:34/つぐみ
 1:16/望月真帆
9:42/True(4週)
 2:01/凪
2:36/Appendix(11個)
0:01/ブランドロゴクリック
 
計:42時間35分


CG数(エロ):つぐみ11(8)、玉藻7(8)、佳奈9(7)、千莉9(7)、凪6(6)、
 他6(6)+集合3(0)+3P0(2)+回想など7(0)

BGM数:36曲+OP*2、ヒロインED*5、サブヒロインED*1、TrueED*1

シーン数:3回の凪以外4回ずつ。+嬉野、芹沢、望月、佳奈&千莉が1回ずつ
 フェラ+本番か、本番*2が多い。
 たしか射精1回は千莉体操服だけ、3回戦は数回あったかな。



◯総評

2ndOPまで及びTrueの中盤まで、つまり、それぞれが個々に関係を深めつつ「図書部(+α)」
として全体の結束を強めていく共通部分は抜群の出来。
小芝居が断続的に続く感じで、程よくたゆたい「道草」しながら徐に、しかし着実に進んでいく。
佳奈すけは言うまでもなく、サブヒロイン含めてどのキャラにも並以上の好感を持てた。
キャラの良さと掛け合いの楽しさが最も気に入っているところ。

他方、個別は短いわけではないが、問題解決が付き合う前に集中しているので付き合ってから
が短い。恋人としてのイチャラブは少ない。
更に構造上、Trueにも各ヒロインENDが割かれている(≒分割されている)ことが「短さ」に
拍車をかけている。
共通の厚さと個別の薄さによって右肩下がりの印象は拭えない。

過去作は看板ヒロイン重視の姿勢だったと記憶しているが、今作はバランスを取っているぶん
「分割(各ヒロインEnd2個)」の弊害が出ている。
Trueはつぐみ一本(+凪分岐)の方がシナリオ的には綺麗に纏まっただろうし、イチャラブも
強化できただろう。
しかしもちろん今作で使われている構成にもメリットはある。「バランス」だけでなく「羊飼い」
という性質、擬似ハーレム「筧争奪戦」の意義と楽しさ、筧が「図書部」という空間全体・人全員
に救われている面など。
各ヒロイン一本化だけでなく仮に凪集約型にしてもトレードオフは残り、良し悪しが入り乱れて
いるので評価が分かれやすいところだろうか。


・絵とか諸々

立ち絵鑑賞で佳奈すけのどや顔はどこにあるかなぁと見てみたら裸だよw さすが品乳や!

エロシーンなど下から見上げた顔に違和感があったりしたが、特に立ち絵のかわいさとコミカル
なカットインが素敵。
背景の多さや細かいところまで演出が行き届いていて飽きることなく楽しめた。
「最後のおまけ」のために背景描き下ろしてないか?

芹沢水結(CV朝倉鈴音)のエロ演技での落胆は尋常じゃなかった。「声優」という役も手伝って
日常シーンが素晴らしいだけに落差が大きく残念この上ない。
プロとしての技術・意識だけじゃなく、「励まして欲しくて電話かけちゃいました」とか女の子
な一面もぎゅっと詰まっていて最高だった。

「次の選択肢までジャンプ」機能は欲しかった。デフォルト設定の速度で計1hくらいスキップ
したかな。
けどシステムは全般的に充実していてプレイしやすかった。

テーマがはっきりしていて、「なりたい自分」と現在の自分とのギャップを最初から意識
しているのが良い。凪はそれを認めることを頑なに拒否しているが。
そのギャップ埋めに誰よりも行動的で「図書部」発起人であるつぐみはさすが「リーダー」
の風格がある。
ぱっと見ゆるゆるだけど芯の強さはピカイチ。看板ヒロインは伊達じゃない。
生徒会長:望月を除けば最も優れたキャラだった。ま、好きなのは佳奈すけだけど。
しかし、つぐみに限らず「ギャップ」は心理的なものが大きく、その克服と態度がなかなか
目に見える形で示されなかったのが残念ではある。
まあでも今までの「じぶん」からそう離れられるもんでもないし、離れたいと思うものでも
ないんだろう。
心が晴れやかになっている。それだけで充分。




 ※以下、ネタバレ度は高め。というかプレイしていない人にはよく伝わらないかも




「個別」はHが2回ある方、「True」はHが1回の方を指しています。

◯筧の「鎧」と「好き」のお話

ヒロイン達が主人公:筧に好意を抱くのが早く見えるが、能力・態度を認めた玉藻、同族故の
「打ち明け」と共有に安心感を抱いた佳奈、利己的でぎすぎすした人間に辟易していたときに
「白崎を信じてくれ」と利他的・無垢的に見える接し方をされた千莉。
つぐみについては「白崎教」教祖だしってことでw ‥‥まじめに言うと影も感じ取っている
ことかな。千莉の後ろ姿から目を離せなかった出会いのシーンと同様。

ほぼ初対面であることも考えると、それぞれ「相手に合わせた鎧」(佳奈)を筧が着ている
ことを示唆しながらも、ほの暗さや毒はプレイ中特に感じなかった。
恬然で冷静な観察眼から見せる内心に幾分距離を感じたりもするが、不信感や反感を覚える
ほどではなく、一歩引いた俯瞰的視点に寄り添って「図書部」の空気を楽しめた。
(むしろヒロインの特徴性格を言語化してくれるので、ストレスない理解につながった。)

この「鎧」を脱げない筧の性分が、共通部分での各ヒロインの掘り下げ・関係深化をしながらも
恋愛色を薄めている。
擬似ハーレムも好きだけど、踏み込みすぎず「気のおけない仲間・グループ」の空気も好きだから
好みの状態が続いてくれたなと。

他方、ヒロインから筧に対する感情は十分醸成されているのだが、筧側の感情の変化がやや
足りなく思う。
2周目以降にプレイできるTrueが用意されているが、これこそが筧ルートと言うに相応しい
「苦難の浄化」がある。(これは繊細な高峰にも当てはまる一大事。)
佳奈すけよりも「重症」で、「鎧」が血肉となっていた筧は、この「苦難」による断絶と自己
「反省」による想いの確認強化、そして「浄化」を通さずして、本当に「恋」ができたのかと
疑問に思わなくもない。
曖昧な言い方をしたのは、確かにTrue以外の個別でも読書中毒(≒人間不信対策と精神安定剤)
を克服・忘却し、「恋人に対する一般的な感情」を見せているから。
あと、Trueでも個別でもヒロインが求めないと呼び名が基本変わらないのも、無理して「合わせ」
ようとしていないからとも考えられる。
結局のところ特に気に病む必要はなく、ハッピーエンドでしたと。

けれど、Trueの「苦難と浄化」というド級の一撃なしにどこまで意識を変えられていたのか
についてもやっとしたものが残る。
Trueを終えることで解放されるAppndixの右列には、個別で解放される左列からは想像つかない
ほどの「バカップル化(つぐみ、佳奈!)」した筧がみてとれる。まじうざいw
単なるギャグ的な意味に過ぎないかもしれない。
しかしこれが「相手に、恋人に合わせた鎧」を脱いだ「素」の筧だとしたら。。
個別、Trueどちらでもヒロインたちは幸せに浸っている。
が、「鎧」を脱げた筧と、「鎧」を着たままの筧。その違いがあって、消えないとしたら。
「未来」は樹形図で示されていたが、「誰」と付き合うかは一緒でも、分岐して今いる「地点」
としては無視できない距離が開いているんじゃないかなぁと思ったり。
‥‥‥個別のEndに薄ら寒さを感じたりする‥かも。



そもそも「他者」あっての「自分」。「人間」に「仮面」は本質的で「素=本質=ほんとうの
自分」なんてものは思い込みにすぎなく、サンタになりすますお父さんといったthe演技を除けば
「演技=仮面」を「虚構」とみるなんて間違えているとも言える。
だから、相手の好意をびしびし受けることで「恋人」「好き」という鎧なり気持ちをつくった
として何が問題あるのかと。
「仮面」もそのひとの(「ほんとうの」)一部であり、普通のことじゃんと。

「仮面≠虚構」派(?)だけど、振り返って比較したら「これはこれで面白いかな」と思ったんで書きました。

そういえばTrueには父親との和解・理解もあるか。
個別は「忘却=存在しない」だからそっちでも問題はないが、やはり筧にはTrueの道を歩んで
ほしいと思う。