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violinsさんのCrescendo ~永遠だと思っていたあの頃~の長文感想

ユーザー
violins
ゲーム
Crescendo ~永遠だと思っていたあの頃~
ブランド
D.O.(ディーオー)
得点
85
参照数
1010

一言コメント

所謂「記号としてのキャラクター」ではない、ひどく現実的な登場人物が水無神氏の無駄のない美麗なテキストで描かれる。卒業前間際の郷愁、揺れ動く心と、姉の愛。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

水無神知宏氏のテキストが非常に素晴らしい。
キャラクターのやり取りが(エロゲ―にありがちな作りものではなく)自然(=現実的)であるのは勿論のこと、地の文も読んでいて気持ち良いと感じるほど。
心情描写や風景描写が心の中に「ストン」と落ちてくる感覚。
贅肉を削ぎ落したテキストは濃厚ではあるのだが、それでいて平易であり、まさに万人受けする文章ではないだろうか。




シナリオに関しても「リアリティ(≒説得性)」があると同時に現実という枠内に収まっている。*1
故に「(記号としての)萌え」はないのだが、各キャラに惹かれる――恋をする――感覚が強い。
特に年上組であるあやめと香織は余りに魅力的すぎる。

涼は知的で他者を思いやれる大人びた、しかし子どもとしての側面を残したキャラであるのだが、
その涼の持つ子どもとしての側面が、あやめ・香織両者を引き立て補い合う。

あやめは「姉」としての包み込み、導く愛情が涼を対等な存在に近づけ、
香織は亮の直情的な感情に触れ、仮面を取り去り涼に近づく。


確かに他のシナリオ(歌穂、杏子、優佳、美夢)も充分魅力的なのであるが、この両者は別格。
涼には背伸びではなく成長し、二人並んで歩いて欲しいと切に思える、そんな物語。









>永遠と等価の一瞬が真実存在するなら――それは今だったかもしれない。



これは杏子とのファーストキスシーンでの一節であるが、告白を、ファーストキスを――世界が輝いて見えたときを――想起させる。
学園(高校)よりもむしろ小学校を思い出させるBGMは、ノスタルジーを感じさせ、否応なく「青春」を思い出させる。
何気ない日常、些細なことに一喜一憂する心、世界が止まってみえたあの一瞬、世界が色付いて見えたとき……
たとえそれが思い出だからこそ輝いて見えるのだとしても、その過去の上に現在はある。
涼ほど幸福でも不幸でもないかも知れない。それでも掛け替えのない、物語。







*1 美夢の存在は霊的存在として捉えれば「現実」の枠内の外にある。一方、儚い「夢」と捉えれば枠内に。
自分としては(思い出作りとしても、他との整合性からも)後者で受け取ったが、更に違う解釈もあるだろう。
唯一つ言えるのは、美夢は幸せなひと時を過ごせた。自分はもう、それ以上を欲しない。




Full Voice版、是非やりたいです。
(名前と評判だけ知ってた)今作をワゴンで買ったというのもあるが、ちょっと後悔。
ボイスの有無だけならまだ耐えうる(とは言っても、あやめ(CV一色ヒカル)はサンプルボイスだけで泣けてくるほど名演)が、アナザーストーリー付きとは知らなんだ。
疲れたとき、更に年を重ねたとき手にしたら、また違った物語が見えてくるのだろう。